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しおりを挟む「あらあら、大事な書類をビリビリにしちゃ駄目じゃないですか」
呆れたように舞い散る紙を見やって言う私に、鼻息荒くハリシアは「何よ、こんなもの!」と同じ言葉を繰り返した。
まあいいですけどね。それ、所詮は写しですから。本物を持ち歩くようなこと、するわけないでしょうに。分かってるんだか、どうなんだか……。
「こんなの無効よ、どうして私が平民にならなくちゃいけないのよ!」
「どうしてと言われましても」
貴族に相応しくないからなんですけど。
言ったところで理解出来ないんだろうなあ。
さてどう説明したものかと思案する私に、グッと顔を近づけてきた。さっきのデッシュといい……キモイんですけど!?
「お姉様?」
「いいわよ、あんたが当主となるの、認めてやるわよ!」
予想外というか意外な言葉に、少し驚いてしまった。思わず目を見開くが、濁った眼が何を考えてるのかよく分からない。
とりあえず。
「ありがとうございます?」
と疑問形で言っておこう。
その真意は何だろうか。なぜ急に受け入れたのか。首を傾げる私にハリシアは言葉を続けた。
「平民になってやるわよ!」
おお素直!たまにはやる気出そうと思いました!?
と、感心しかけたら。
「だから私を養いなさい!」
と、きました!
──なんでそうなるのーん!
あまりに下らない提案に、私はガックリと項垂れるのだった。
ここまで……ここまで!馬鹿だったとは!
なんだか凄く疲れてしまった私は、はああ……とため息をつきながら、姉に説明するのだった。
「お姉様、私と貴女とはもう無関係となります。私は貴女との関りを一切断ちますので」
「お断りよ!」
いやもう話が通じないなあ!!
イライラするけど……でも実はこんなの想定内なのだ。
ハリシアが素直に受け入れないだろうことは、容易に予想できた。
だから最終手段がある。
私は書類の中から、またも別の一枚を出すのだった。
「お姉様、大事なことを言い忘れてました」
「なによ、三食昼寝にお菓子は必須よ!?」
んなもん知るか!!
阿呆な姉の言葉は無視して私は言葉を続けた。
「お姉様、私のメイドだったリラをご存知ですか?」
「知ってるけど知らないわよ!」
どっちやのん。
意味不明なこと言ってる姉を殴りたい!だが話が進まないので、握った拳は後で解放することにしよう。
私はグッと堪えて言う。
「リラの家族を人質にしていたでしょう?そのリラの家族ですが、騎士団が保護しました」
「──は?」
ポカンとしてる様子から、やはり知らなかったと見える。もう数日前の話なんですけどね。報連相は大事ですよ?
チラとオーバン様に視線を送れば、ウンウンと頷かれた。
「もう彼女が私を裏切ることはありません。ですが……罪は罪、彼女は私の側から離れることとなりました」
「そりゃご愁傷様」
まったくそう思ってないだろう軽い口調に、さすがに苛立ちも頂点に達する。ギリと歯ぎしりするも、どうにか堪えるのは……この先の展開を知ってるからか。
「彼女は修道院に入りました。そこで静かに余生を暮らします」
「ふ~ん」
どこまでも他人事な態度に腹が立つなあ!
……だが、どこまでその態度を続けられるかしらね。
私はスッと紙を姉の眼前に掲げるのだった。──今日何回紙を掲げてるんだろ私。
でもきっとこれが最後。
そう思いながら私は口を開いた。
「お姉様」
「何よ」
「リラの家族を誘拐・監禁したとして、お姉様に逮捕状が出ました」
「──は?」
何を言われてるのか分からない。
そんな顔でこちらを見てるのが笑える。
私は内心ムズムズして笑いそうになるのを必死にこらえながら、言葉を続けるのだった。
「で~す~か~ら!平民となったお姉様は更に罪人となったんです。牢屋行きが決定となりました。はいおめでとー」
デッシュの時と同様。
感情の無い無機質な声でおめでとうを贈り。
私はすっかり上手くなった作り笑いでは無く、心からの笑みを浮かべるのだった。
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