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しおりを挟む「あっはっは!そうですね、そうですねえ、そう書いてありますねえ!」
その間抜け面があまりにも可笑しくて、耐えきれず遂に私は声を出して笑ってしまうのだった。
素敵素敵素敵!
お父様、そのバカ面最高に素敵ですわ!
やはり私は貴方たちの血縁者ですね。馬鹿な貴方たちの不幸が楽しくて仕方ありません。
自分の中のどす黒いものが表に出てきたのを感じる。
けれどそれでいい。
屑な貴方たちには、黒く濁った私こそが相応しい。
どうにか笑いを収めて、私は父から書類を取り上げた。
そしてニ~ッコリ微笑んで告げてあげる。
「というわけで。これより私が新しい侯爵家当主でございます。皆さま、以後お見知りおきを」
そう言って汚れたドレスの裾をつまんで礼をとった。
呆気にとられていた野次馬連中は、そこでようやく我に返るのだった。
ドヨッと空気がどよめく。ざわめく。
おそらくは同じ穴のムジナの集まりである参列者たち。己らの今後に……いいように利用できてたはずの侯爵家が、予想外の当主になることへの戸惑い。混乱。
このざわめきの意味するところは、そんなとこだろう。
ようやくパーティ会場らしい賑やかさが戻ってきたことに満足して、私はもう一度父を見た。
ピラリとまた別の書類を掲げて見せた。
「無能すぎるお父様とお姉様は、爵位剝奪となりました。おめでとうございます、今この瞬間から、あなた方は平民です」
ニッコリ微笑んで、私はしゃがみ込んだ。姉の──ハリシアの顔を覗き込む。
その顔は、まだ状況が理解できてないのだろう、間抜けなほどポカンと呆気にとられた顔をしていた。噴き出したい。思い切り笑いたい、笑ってやりたい。
だが耐える!
新侯爵家当主として!
私は耐えるよ!
呆然とする姉に目を細めて静かに言葉をかけた。
「おめでとうお姉様。庶民となった貴女の生活はもう保障されません。誰も助けてはくれません。お父様と二人きりで仲良く楽しく生きてくださいね」
言ってニッコリ。
立ち上がってニッコリ。
そして。
私はデッシュを見て、ニッコリと微笑んだ。
「この二人はお仕舞いよ。さて、貴方はどうする?」
問いかければ、真っ青な顔でフラフラしながら……なぜか近づいてきた。気持ち悪いなと後ずさるも、一歩遅かった。
一気に詰め寄ったデッシュに腕を掴まれてしまったのだ!
「な──」
「ありがとうバルバラ!」
突然の礼に意味が分からず、ギョッとする私にデッシュは言葉を続けた。
「本当にありがとうバルバラ!そうだよね、君は僕を愛してるんだものね!僕のために侯爵家当主となろうと頑張ってくれたんでしょう!?ハリシアと嫌々結婚することに気付いてたんだね!そうさ、僕の気持ちは本当は君にある!けれど父上が、次期侯爵家当主であるハリシアじゃなきゃ駄目だって言うから仕方なく……本当に仕方なく、だったんだ!ああ愛してるよバルバラ!これから二人、夫婦となって幸せになろう!」
──どこから突っ込めばいいのか分からない。分からなさ過ぎて笑えてくる。
掴まれた腕に嫌悪感を覚えながら、私は薄ら笑いを浮かべるのだった。
それをどう勘違いしたのか。
満面の笑みを返されてしまった。キモイんですけど。
「バルバラ、愛してるよ……」
キモイんですけど!顔、近づけてこないでくれる!?
どこをどう見たら私がお前を愛してると思えるわけ!?また股間を蹴られたいのか!?
お望みならばそうしてくれよう。
そう思って私が足を動かそうとした、まさにその瞬間だった。
「その手を離せ」
低い声と共に、私の腕を掴んでいたデッシュの腕に手刀が──振り下ろされた!
「うあ!?」
デッシュが痛みに悲鳴を上げ、私から手を離した瞬間──
彼の体が宙に舞うのだった。
見事に体を回転させ、床に叩きつけられるデッシュ。痛すぎると、声、出なくなるものなのね。
目を白黒させて痛みに顔を真っ赤にさせてる彼の目には、きっと映ってることだろう。
自分を投げ飛ばした本人の姿を。
怒りの形相の、オーバン様の顔が。
きっと見えてることだろう。
「お見事です」
「それほどでも。これで腕を冷やすといい」
「ありがとうございます」
オーバン様を褒めたら、冷えたタオルが差し出された。どっから出したそれ。
痛みで床を魚のごとくビチビチとのたうち回るデッシュに、私はそっと近寄って。
そして、父に見せたのとはまた別の書類を一枚、差し出すのだった。
「?」
動きを止めてその紙を見入るデッシュは、見る見るうちに顔が青ざめていくのだった。
「内容分かる?」
問えば、口をパクパクさせるだけのデッシュ。鯉か。
「分からないようなら教えてあげる。これね、貴方の家──公爵家お取り潰しの命が下った事に関する書類。領民のために何もしない、税金食い潰すだけの無能な輩は不要だと国王が判断されたの。そして元公爵家領土は我が侯爵家──新たな侯爵家当主となった私の管理下となりました。はいおめでとー」
丁寧に教えてあげるとようやく事を理解出来たのか。
まだパクパクさせながら、ツツーと涙を流すのだった。
愚かな公爵家。我が家に寄生虫してた公爵家。
己の領土を全く顧みなかったツケはこうして支払われることとなったのだった。
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