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しおりを挟む「何よその顔。可愛い妹へ配慮した姉の気持ちを踏みにじる気?」
もう限界だった。
私の我慢は、もう──
バタンッ!!
その時だった。
会場の扉がけたたましい音を立てて……荒々しく開かれたのだ。
扉の向こうに立っていたのは──
「あ、兄上!?」
驚愕の声を上げたのは、父。現侯爵家当主にして私の父。
父はそこに伯父様を目にして……ノウタム公爵が居る事に驚愕しながらも慌てて駆け寄ってきたのだ。
流石は公爵。この場に居る全ての貴族がざわめいてることからも……伯父様の事を知ってることがうかがえた。
伯父様は無言で室内へと足を踏み入れる。ノシノシと大股で歩き──私の目の前で立ち止まった。
そして私の姿を見て、目を大きく見開くのだった。
「バルバラ、その赤い染みは……」
「お姉様にワインをかけられました」
私が答えるや否や。
伯父様は振り返り、背後にいた姉を──
パアンッ!!!!
大きな音を響かせて、姉の頬を叩いたのだ!!
「ぎゃあ!!」
伯父様の渾身の平手打ちにたまらず悲鳴を上げてハリシアは床へと倒れ込んだ。
シン……
状況が状況なのに、誰も口をきかない。
パーティ会場とは思えない静寂が場を支配した。
最初に音を立てたのは姉。ハリシア。
頬を赤く腫らし、口を切ったのか血を滲ませた口元を押さえながら……彼女は叫んだのだ。
「何すんのよ!!」
「黙れ、この馬鹿者が!!」
だがハリシアの叫びなど蚊の鳴き声のようなもの。伯父様の一喝は、地響きを伴うようなそれだった。
威厳と迫力に満ちた、公爵の叫びだった。
「ひ──」
ハリシアに出来るのは、か細い悲鳴を上げる事だけ。
そんな姉に伯父様は冷酷極まりない、氷の目を向けて叫ぶ。
「貴様は一体何をしたのか理解してるのか!?ハリシア……そして愚弟ホルド!!」
今更だけど、父の名前はホルドと言います。紹介し忘れてたというより必要なかったので放置でしたね、あはは。
ようやく名前が公表されたホルド侯爵……つまり私の父は、伯父様に睨まれた瞬間、身震いさせてその場にへたりこんでしまった。
公爵と侯爵。あまりに迫力威厳の差がありすぎて、娘として情けなく思える。
「な、な……兄上、一体何を……私は精一杯侯爵家当主として頑張って……」
「お前の頑張りとはなんだ!娘であるバルバラに仕事を押し付ける事か!?侯爵家の金を、血税を、使い込む事か!?それとも……メイドを脅迫して、犯罪行為をさせることか!!??」
最後の大声に縮み上がった父は、もう何も言葉を発する事は出来なかった。ただただ青ざめ、震えるのみ。ただの小物、下賤な輩がただそこに居るのみ。
「違う、違う、私は侯爵家当主として……」
ブツブツ言い続ける父を冷めた目で一瞥し、そして視線はハリシアへと向いた。
頬に手を当てて涙目で見つめる姉は、整った容姿ゆえ、同情を誘うものがあった。
だが誰も動かない。
静寂は今も続いていた。
それはそうだろう。
行動がどうであれ、相手は公爵家当主だ。国王の信頼が厚い、有能と謳われるノウタム公爵なのだから。
そんな彼に意見を出来るのは、同じく有能で対等のものか。
それとも。
「ひどいわ伯父様!可愛い姪である私をどうして殴るのですか!?それもめでたき婚姻の日に!私の人生最高の瞬間に、なぜこのような仕打ちを!?私のことが可愛くないのですか!?」
馬鹿だけ。
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