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「待ってる?何をですか?」
「それは言えません」

 まだ確定ではない事を、そう簡単に人に言えるはずもない。
 そう言えば彼は軽く肩をすくめるも、それ以上の追及はしてこなかった。

「では俺も待つことにしましょう」

 そう言って、私の横に並んでグラスを傾けるのだった。

 ふと視界の先に、姉とデッシュが目に映った。
 もう何回目だ、というお色直しをした姉が、参列者に囲まれながらにこやかに愛想を振りまいているのだ。そういうのは得意よね、あの人。

 逆に私はこういった場の愛想が苦手だった。そんなことしてる暇があるなら仕事をする、とほとんどパーティなんて参加しなかった。

 その結果、悪い噂が流れても否定する機会を失ってしまった。

 愛想笑いの練習、すべきなのかなあ。
 などとボーッと考えてたら、いつの間にか目の前に姉が立って居た。気付かないくらいにボーッとしてた自分が情けない。

「なにか?」

 一応の祝いの言葉は既に述べた。これ以上言うつもりはない。言葉が勿体ない。

 そう思って姉を見やれば、ニヤリと笑われてしまった。

「あらまあ、こんな場所でも男漁り?本当にバルバラは困った子ねえ。姉様はそんなはしたない妹を持って悲しいわ!」

 そんなに恥ずかしいなら大声で言わなければいいんじゃないだろうか。
 案の定、注目を浴びている。ヒソヒソと耳打ちする姿を散見して、私は内心ため息をつくのだった。

「やめてくださいお姉様。オーバン様に失礼ですよ」
「では男漁りなんてやめなさい、みっともない」
「してませんよ、そんなこと」

 とはいえ、私とオーバン様が知り合いだなんて知る者はこの場には居ない。初対面の男と馴れ馴れしく話す女。そう周りには見えてるのかもしれない。

 しかも相手は白騎士団長のオーバン様だ。絶対的に私が悪いと思われるのも……姉の計算の内、というところだろう。

「皆さま、見苦しい妹で申し訳ありません。この子には本当に苦労させられましたのよ」
「ハリシア様、お気持ち分かります。さぞや大変だったことでしょう」

 そう言って同情するお前。
 お前確かお姉様の寝所で、共にベッドインしてた奴だな?横に奥方がいる状況でよくそんなことが言えたものだ。

「あらまあ、お姉様と比べて見すぼらしい容姿をされてますのに、それでも男を手玉にとるとか……なかなかに有能でいらっしゃいますのねえ。そっちの方だけ有能だなんて、嘆かわしいですわねえ」
「そうですの。妹は少々地味な顔でして……なのに派手に着飾る事ばかり考えて散財してばかりでして。厳しく言いつけましたので、今日はその顔に合った地味なドレスにさせましたの」
「さすがハリシア様、良いお姉様ですね」

 おいこら、凄いデスってくるな。
 そして流石同レベルの集い。同調するとか有り得ないんですが。

「あ、デッシュ、ワイン取ってもらえる?」
「あ、うん」

 居たのねデッシュ。今日もまた空気ですこと。そして内股ね。

 デッシュはハリシアに言われて、ワイングラスをとった。赤いワインが血のよう──

パシャッ

 血のようだ。

 思ったのと同時。
 目の前が真っ赤に染まる。

 え、何これ、なんか冷たい、ベトベトする。

「ハリシア嬢!?何を……!!」
「やだ~、手が滑っちゃった~」

 驚き怒鳴るオーバン様を尻目に、ケラケラ笑ってワイングラスを傾けるハリシア。

 グラスの中にはもう、ワインは一滴も残ってなかった。

 ──全て、私にかけられたから。

 地味なドレスに赤ワインの染みが広がる。

「ごめんね、バルバラ。でも地味なドレスに少し彩が出来たかしら?良かったわねえ」

 ポタポタと零れるワイン。私はそれを呆然と見やって……

 ゲラゲラと下卑た笑いを上げる姉たちを──その場に居る者全てを睨みつけるのだった。


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