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23、
しおりを挟む血が繋がってるとは思いたくない。
あの馬鹿父と、あの馬鹿姉と。
だが何の呪いか、本当に血が繋がってるのだから泣くに泣けない。
私が仕事しててもろくに手伝うことすらもしなかったというのに、どうして私が居なくなったらこんなにも軽快に動くかね!?
どうやった。
どうやって税金使い込んだ!?
いつまでも凹んでいたって埒が明かない。
私は自分の心を叱咤して、何とか立ち上がるのだった。
「アロイス。と、リラ」
「はい」
「はい、お嬢様」
呼んだ二人が返事をして私の前に並んだ。この場で最も信頼できる二人に私は命じるのだった。
「可能な限りお金を取り戻して。そしてこんな事をしでかした犯人を見つけ出してちょうだい」
「「かしこまりました」」
二人は息ピッタリに返事をして動き出した。
それを確認して、私もまた動く。
「お嬢様はどちらへ?」
別行動しようとする私にリラが確認の声をかけた。それにニコリと笑みを返して私は言うのだった。
「まずは伯父様に報告を。そしてあそこに行こうかと」
「あそこ?」
不思議そうなリラに今度はニ~ッコリと深い笑みを向けて。
「侯爵家よ」
と返答するのだった。
※ ※ ※
問題:私、バルバラが居なくなった侯爵家はどうなるでしょう?
答え:死屍累々
※ ※ ※
「うわ、これは酷いなあ」
部屋に入った瞬間出た言葉がこれです。
懐かしくも久々の侯爵邸にやってきた私。追い返されるかと思ったが、意外にもすんなり入れて貰えた。というか、執事もメイドも皆が皆、目に涙を浮かべて満面の笑みで迎えてくれたのだ。どうした。
直ぐに通された部屋の中を見て、すぐに合点がいった。
「ふ、ふふふ……文字がまるで蟻のようだわあ……ああ、私は蟻の王、女王よ~」
何言ってんのか理解不能な事を言って、書類に突っ伏す女が一人。よく見たら姉のハリシアだった。どうした、なんかヤバイ物でも食べたか。
「いかんなあ、年だなあ、数字が読めないなあ、これあと一桁付けてもいいような気がするなあ、この辺にもう少しお金かけてもいいかもしれんなあ」
なんか『なあなあ』言ってるヤバイおじいが一人、ソファに寝そべりながら書類見てる。あ、あれ父親だ。伯父様に殴られた痕が痛々しいですね。
大丈夫じゃないだろうとは思っていたが、これほどヤバイ状況になってるとは。
その山積みの書類はなんですか。
一枚手に持ってみれば、クレームの嵐な内容でした。やばい。
私が居なくなってから一ヶ月ちょっと。
たったそれだけでここまで惨状になるか!?
私はスタスタ近付いて、机に突っ伏す姉の後頭部をツンツンつついた。
「ちょっとお姉様、自分が侯爵家を支えるんだと豪語してた割に何ですかこの惨状は」
「さんじょう?参上?美人なハリシアちゃんを助けるために、正義のヒーロー参上!なんつって~ウフフ~」
やばい。お姉様が非常にやばいよ。
「正気に戻って下さい、貴女のヒーローて言ったらデッシュですか?そう言えばデッシュはどこ行ったんですか?」
かりにももうすぐ結婚するんですから、仕事手伝ってないんですか?
「ばる、ばら……僕、ここ……」
キョロキョロ部屋を見回してたら、死にそうな声が足元から聞こえた気が……って、足元ぉ!?
見れば山となった書類の下敷きになってる屍が!違う、デッシュがそこに居た!
「デッシュ!?」
「も、無理……僕には無理……」
何を言ってるのだお前は。私は一人で全部こなしていたんだぞ?それこそ寝る間も惜しんでやってたというのに。三人居ても片付かないって、どれだけ役立たずなのよ!
そして気になる事が一つ!
「お父様、お姉様、ついでにデッシュ。随分お仕事に苦労されてるようですが、その割に結婚式の話は進んでるようですね」
血税使い込むくらいには話が進んでるようで。
おかしいよね、まずは執務じゃない?その合間に式の準備でしょ?
「結婚式!そうだこうしては居られないわ、早くこの書類にサインしなくちゃ!」
私の言葉を耳にしてガバッと起き上がったのはハリシアだった。
書類の上で突っ伏してたからだろう、頬にインクがついてますよ。
──いやちょっと待て。
そこでハタと気が付いた。姉の頬についたインクの文字。逆文字になってるけど、気のせいで無ければそこに書いてある文字は……。
「!?」
私は驚いて、慌てて姉の手から書類をひったくるのだった!
「ちょっと何すんのよ!!」
奪い返そうとする姉の手をはねのけて、私は書類に目を通して見開いた。
「何ですかこれは!」
それは執務の書類ではなかった。
意外にも仕事しようと頑張ってるんだと感心してたのに……!
そこに書かれてるのは。
『結婚式費用御見積書』
式にかかる見積書だったのだ!ふっざけんな!!
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