婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール

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 血が繋がってるとは思いたくない。
 あの馬鹿父と、あの馬鹿姉と。

 だが何の呪いか、本当に血が繋がってるのだから泣くに泣けない。

 私が仕事しててもろくに手伝うことすらもしなかったというのに、どうして私が居なくなったらこんなにも軽快に動くかね!?

 どうやった。
 どうやって税金使い込んだ!?

 いつまでも凹んでいたって埒が明かない。
 私は自分の心を叱咤して、何とか立ち上がるのだった。

「アロイス。と、リラ」
「はい」
「はい、お嬢様」

 呼んだ二人が返事をして私の前に並んだ。この場で最も信頼できる二人に私は命じるのだった。

「可能な限りお金を取り戻して。そしてこんな事をしでかした犯人を見つけ出してちょうだい」
「「かしこまりました」」

 二人は息ピッタリに返事をして動き出した。

 それを確認して、私もまた動く。

「お嬢様はどちらへ?」

 別行動しようとする私にリラが確認の声をかけた。それにニコリと笑みを返して私は言うのだった。

「まずは伯父様に報告を。そしてあそこに行こうかと」
「あそこ?」

 不思議そうなリラに今度はニ~ッコリと深い笑みを向けて。

「侯爵家よ」

 と返答するのだった。


※ ※ ※


問題:私、バルバラが居なくなった侯爵家はどうなるでしょう?

答え:死屍累々


※ ※ ※


「うわ、これは酷いなあ」

 部屋に入った瞬間出た言葉がこれです。

 懐かしくも久々の侯爵邸にやってきた私。追い返されるかと思ったが、意外にもすんなり入れて貰えた。というか、執事もメイドも皆が皆、目に涙を浮かべて満面の笑みで迎えてくれたのだ。どうした。

 直ぐに通された部屋の中を見て、すぐに合点がいった。

「ふ、ふふふ……文字がまるで蟻のようだわあ……ああ、私は蟻の王、女王よ~」

 何言ってんのか理解不能な事を言って、書類に突っ伏す女が一人。よく見たら姉のハリシアだった。どうした、なんかヤバイ物でも食べたか。

「いかんなあ、年だなあ、数字が読めないなあ、これあと一桁付けてもいいような気がするなあ、この辺にもう少しお金かけてもいいかもしれんなあ」

 なんか『なあなあ』言ってるヤバイおじいが一人、ソファに寝そべりながら書類見てる。あ、あれ父親だ。伯父様に殴られた痕が痛々しいですね。

 大丈夫じゃないだろうとは思っていたが、これほどヤバイ状況になってるとは。
 その山積みの書類はなんですか。
 一枚手に持ってみれば、クレームの嵐な内容でした。やばい。

 私が居なくなってから一ヶ月ちょっと。
 たったそれだけでここまで惨状になるか!?

 私はスタスタ近付いて、机に突っ伏す姉の後頭部をツンツンつついた。

「ちょっとお姉様、自分が侯爵家を支えるんだと豪語してた割に何ですかこの惨状は」
「さんじょう?参上?美人なハリシアちゃんを助けるために、正義のヒーロー参上!なんつって~ウフフ~」

 やばい。お姉様が非常にやばいよ。

「正気に戻って下さい、貴女のヒーローて言ったらデッシュですか?そう言えばデッシュはどこ行ったんですか?」

 かりにももうすぐ結婚するんですから、仕事手伝ってないんですか?

「ばる、ばら……僕、ここ……」

 キョロキョロ部屋を見回してたら、死にそうな声が足元から聞こえた気が……って、足元ぉ!?

 見れば山となった書類の下敷きになってる屍が!違う、デッシュがそこに居た!

「デッシュ!?」
「も、無理……僕には無理……」

 何を言ってるのだお前は。私は一人で全部こなしていたんだぞ?それこそ寝る間も惜しんでやってたというのに。三人居ても片付かないって、どれだけ役立たずなのよ!

 そして気になる事が一つ!

「お父様、お姉様、ついでにデッシュ。随分お仕事に苦労されてるようですが、その割に結婚式の話は進んでるようですね」

 血税使い込むくらいには話が進んでるようで。
 おかしいよね、まずは執務じゃない?その合間に式の準備でしょ?

「結婚式!そうだこうしては居られないわ、早くこの書類にサインしなくちゃ!」

 私の言葉を耳にしてガバッと起き上がったのはハリシアだった。
 書類の上で突っ伏してたからだろう、頬にインクがついてますよ。

 ──いやちょっと待て。

 そこでハタと気が付いた。姉の頬についたインクの文字。逆文字になってるけど、気のせいで無ければそこに書いてある文字は……。

「!?」

 私は驚いて、慌てて姉の手から書類をひったくるのだった!

「ちょっと何すんのよ!!」

 奪い返そうとする姉の手をはねのけて、私は書類に目を通して見開いた。

「何ですかこれは!」

 それは執務の書類ではなかった。
 意外にも仕事しようと頑張ってるんだと感心してたのに……!

 そこに書かれてるのは。

『結婚式費用御見積書』

 式にかかる見積書だったのだ!ふっざけんな!!





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