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「よく平然と増税なんて出来ますね」
「仕方ないでしょ、お金が入用なのだもの」

 睨む私の視線などものともせず、姉はさも当然のように言い放つ。

「入用?何のために?」
「決まってるでしょ、結婚式のためよ」

 分かってはいたが、ハッキリ言われると怒りは増すというもの。
 そうなると人って逆に冷静になるものなんだなと初めて知る事となる。

「税金は自分たちのために使う物だとお考えで?」

 そう言った私の声は、分かる者なら最高に冷え切ってる事が分かるだろう。その表情も。

 だが馬鹿な姉には到底理解出来ないと見える。

 馬鹿にしきった顔で姉は言う。

「と~ぜんでしょ~?それ以外の何に使うっての?我が侯爵家のお陰で生きてられるんだから。感謝の気持ちとして税を納める。だから当然私が好きに使ってもいいのよ!」

 あまりに愚かな言い分に、私に出来るのは苦笑を浮かべることだけだった。

 ここまで馬鹿だったとは。
 そして私やデッシュだけではなくオーバン様までいるというのに、そんな事を平然と言えるなんて。

 姉は本気でそう思ってるのだろう。
 税金は自分が好き勝手使ってよいお金だと。
 本気で信じてるのだ。

 ──頭が痛い。

「そう言えば貴女、今どこで生活してるの?」

 この馬鹿にどう言えばいいだろうかと頭を悩ませていると、話が飛ぶ。

「そんな事を聞いてどうするんですか」
「べっつに~。ただ、一応結婚式には呼んであげようかと思って?可愛い妹に姉の晴れ姿を見せてあげようかと思ったのよ」
「参列者は?」
「もちろん、大勢呼ぶわよ♪」

 語尾に『♪』が付くのが見えた気がする。

 この人の真意など考えずとも分かった。
 私に自慢したいというのは当然として、評判最悪の私を呼んで恥をかかせようという魂胆なのだろう。そんなもの見え見えだというのに、誰が参列するか。

 だがちょっと待て。
 ふと私の脳内に浮かんだ『計画』に、私は内心ほくそ笑んだ。

 私は笑みを浮かべて姉を見た。その様子にちょっと動揺するのが見えて、またそれが私の笑いを誘う。
 自分が考えてたのと異なる反応が返ってきたくらいで動揺する程度で。そんな低レベルで!
 侯爵家当主が務まるわけがない。

 それすらも姉には理解出来ないのだろうけど。

 私は頭の中でバカ姉を罵りつつ、笑みを絶やさず口を開くのだった。

「そうですね、では是非参列させていただきますわ」
「え──」
「あら、いけませんか?ひょっとして私に晴れ姿を見せたいと言ってくだったのは、嘘でしょうか?」
「う、嘘なもんですか!ええ、是非参加してちょうだい!そして私の美しい花嫁姿を見るがいいわ!」

 明らかな戸惑いを見せながら言う姉に、私は
「ええ、そうさせてもらいます」
 と、にこやかに笑みを返すのだった。

 これまで知らなかったが、私は存外性格が悪いらしい。──いや、ねじ曲がってしまったのかしら?
 まあこんな家族に囲まれて育てば、誰だって捻じ曲がるというもの。嘆く事でもない。

「それではお姉様、ごきげんよう」

 これ以上話すことは無いと、私は踵を返す。すると慌てたように姉が声をかけてきた。

「あ、ちょっと!あんた今どこに住んでるのよ!?」

 お姉様、侯爵家当主が『あんた』なんてはしたない言葉使ってはいけませんよ?お姉様に相応しい言葉遣いですけどね。

 さて、この問いに対してはどう返答しようかな?素直に伯父様の家に厄介になってると言うべきかしら?それとも──

「彼女は今、私の屋敷にて丁重にお預かりしております」

 考える私の耳にハスキーな声が届くのは直後のことだった。

「「へ?」」

 思わず姉とハモってしまった。

 そんな私をチラリと見てから、オーバン様は──今しがた声を発した彼は姉に視線を向けた。お姉様、なぜ顔を赤らめるのですか。

「彼女──バルバラは今、我が侯爵家の屋敷におられます。私の婚約者としてね」
「「なんですってえ!?」」

 再びハモリましたよ!バカ姉と!でもそれに嫌悪感を感じてる場合ではなく。

 突然の爆弾発言に、私はポカンと口を開けるしかなかったのだった。



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