婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール

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「驚いた、どうしてこんなとこに居るの」

 それは私の台詞だ。
 私が汗水流して働いてるとき遊び呆けていた姉。貴女が王宮に足を踏み入れたことなど一度も無かったでしょうに。私も無かったけど。

 だが彼女の驚きは、純粋に私が平然と生きてることへなのかもしれない。

 路頭に迷ってると思ったのだろうか。
 道端で困り果てて泣いてると思ったのだろうか。

 ──もしそうだったとして、貴女は姉として心配するわけもなく、嬉しそうに大声で笑っていたでしょうけど。

 目論見が外れたからか、ハリシアの顔は険しかった。眉根を寄せて、不快そうだ。だがきっと私も似たような表情をしてることだろう。

「バルバラ?」

 そして姉の隣にいる人物もまた、驚いたように私に声をかけるのだった。

「デッシュ……」

 そう、デッシュ。元、婚約者。こちらもまた王宮に入った事など無かっただろう。
 そんな二人がどうして揃って王宮に居るのだろう。

「元気そうだね、どうしてるか心配してたんだよ」
「白々しい事を……」
「そんなことないさ!でも君はしっかりしてるからね、きっと大丈夫だと信じてたよ」

 心配していたくせに何もしなかったのはなぜ?かりにも元婚約者だというのに。
 本当に貴方は──

「そちらの方は?」

 不意にデッシュが私の隣に並ぶ存在に目を向けた。そりゃ視界にも入るか。

「白騎士団団長のオーバンだ」
「ああ、貴殿があの……!」

 貴族としては侯爵家のオーバン様の方が下なのだけど、傾きつぶれかけた公爵家のデッシュはあまり気にしないらしい。そこが彼の長所なのか短所なのか……。

 オーバン様もデッシュが公爵家だと知ってるはずなのにこの態度。というか、なんか怒ってるような?

 理由の分からない怒りを前にして焦る私の視線に気付いたのか、スッとこちらに目を向けたオーバン様は安心させるように微笑んでくださった。良かった、優しい笑みだ。怒ってない、のかな……?

 どうしたのか後で聞いてみよう。
 そう思ってたら、また不愉快な声が耳に届く。

「あらあ?デッシュに振られたと思ったら、もう新しい男を捕まえたの?ほんっとお前は淫乱ねえ」

 その言葉にカッとなる。
 きっとハリシアはオーバン様に噂は真実だと伝えようとしてるのだろう。
 姉に仕事をさせて自分の手柄とし、遊び三昧穀潰しの妹。男漁りが酷く、数多の男と関係を持っている。

 そんな私の噂。
 オーバン様は噂を信じない、私こそを信じてくださると言ってくださった。
 それでも、噂でも、私がそんなことしてるなんて話、彼の耳に入れたくなかった。

「やめてくださいお姉様。嘘をこれ以上広めないでください」
「嘘?嘘なもんですか。侯爵家が持ち直したのは私のお陰。私の美貌で才覚で全てうまくいったのよ」

 何を言ってるのか。
 その美貌で男を虜にして金を貢がせた。
 だがそれは結局トラブルの元でしかなかったではないか。

 騙された、金を返せ。
 そう怒鳴りこんできた者がどれだけ居たか。
 それら全てに対応したのは──私だ!

 ギリと唇を噛み締めて姉を睨む。
 ここは王宮。あまり事を荒立てたくはない。
 だが何も言わないのをいいことに、ハリシアの口は止まる事は無かった。

「今日はね、デッシュとの婚約及び結婚のための手続きにきたの。貴女のせいでデッシュは婚約破棄せざるを得なかったのよ、可哀そうだと思わない?でも安心してね。デッシュは私と共に侯爵家で幸せに生きるから。貴女は安心して一人で生きていきなさい」
「貴女に……お父様に、侯爵家の執務をうまくこなせると思ってるのですか?」
「だ~いじょうぶよ、私は噂通りの優秀な姉なのだから。無能な妹とは違ってね。とりあえず次期侯爵家当主と決まった手始めに、増税を決めたの」
「な──!!」

 その言葉に絶句する。
 なんと言った?
 今、姉はなんと言ったのか?

「ぞう、ぜい……?」
「そ。増税。だいぶ領地も潤ってきたからねえ。皆順調に納税出来てるみたいだから。少しくらい増税しても大丈夫でしょ。あ、その手続きに今お父様も来てるのよ」

 話の後半は耳に入らなかった。頭が真っ白になる。

 なんてことだ、家を離れて数日。まだ数日だというのに。

 どうしてこの人たちは、そういう事にだけは行動が早いの!?

 急がなくてはいけない。
 急いで私も行動しなくては。

 浮かれていた自分の気持ちを叱咤し、私は目の前の女を睨みつけるのだった。


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