上 下
11 / 41

11、

しおりを挟む
 
 
「婚約破棄?」

 私と伯父様の話を漏らすことなく聞いてたのだろうか。そして気になるとこはそこですか。

 慌てふためく私とは対照的に冷静なオーバン様。
 婚約破棄のところでピクリと眉が動くのだった。男性でもこういう話、興味あるのかしら。

 なんと言ったものかと思っていたら、私より先に伯父様が口を開いた。

「それが聞いてくれオーバン、この可愛い姪のバルバラが馬鹿な小僧に婚約破棄されたんだ!」
「ああ、確か公爵家のデッシュ殿、でしたっけ」
「そうそう!──ってどうして知ってるのだ?」

 思わず頷いた伯父様だったが、いきなり出た名前に驚く。それは私も同じだった。どうして知ってるの?

 私と伯父様、二人して不思議に思って彼を見れば、またニヤリと笑われた。

「もう有名ですからね。デッシュ殿が穀潰し令嬢と婚約破棄したってのは」

 それを聞いた私は……「なんですってぇぇっ!?」と絶叫するのだった。

 侯爵家を追い出される形で出てきたのが昨日の事。翌日である今日は、まだ午後を回ったところだった。

 のに!

 もう婚約破棄の話が出回ってるの!?

「話出るの早すぎません!?」

 驚いて叫ぶ私に、オーバン様は「ハリシア嬢とデッシュ殿が方々で触れ回ってるよ」と説明するのだった。

 あ・い・つ・らあぁ!!!

 仕事は全然出来ないくせに!
 こういう事だけは動き早いのね!!

「ついに穀潰し令嬢が見捨てられた。有能な姉が前面に出るなら、これから侯爵家はもっと大きくなるだろう、ともっぱらの噂ですね」
「なんですかそれは!」

 次はそんな噂が出回ってるんですか!?

「あと早々に二人の式を挙げるとのことですよ。侯爵家も立派になったので、盛大にするそうだとか」
「げ」

 噂もとんでもない事だけど、むしろそちらの方が大問題だ。

 結婚式。盛大に。
 つまり。
 侯爵家の財が、領民の税が……食いつぶされる!

「こうしてはいられない!伯父様!」
「なんだ」
「どうか私に力を貸してください!」
「いいだろう!」

 即断即決、素敵です伯父様!

 よし、強力な助っ人が出来た!

 俄然やる気が出てきた私は伯父様に屋敷にしばらく滞在させて欲しいと願い出るのだった。快く受け入れて下さった伯父様は、使用人達にすぐさま部屋の用意を命じるのだった。

「ではお嬢様、支度してまいります」
「うんリラ、お願いね」

 居たのすっかり忘れてましたがリラはずっと部屋におりました。全部見てて何も言わない、メイドの鑑ですね。

 リラが出て行くのを見送って、私は伯父様をもう一度見やるのだった。

「伯父様」
「なんだ」
「私は父と姉を侯爵家から追い出そうと思います」
「そうか」
「そして私は侯爵家当主になります」
「分かった」

 先ほどと同じ簡潔な返事。それに少し戸惑ってしまう。

 大変な事を言ってる自覚はあるのに、伯父様はそれを完全に受け入れてくれてるのだ。

「──よろしいのですか?」
「何がだ?」
「私は貴方の弟を、もう一人の姪を追放すると言ってるんですよ?それがどういう意味か分かってて……それでもなお、私に協力してくださるのですか?」

 私が何を言いたいのか理解した伯父様は、少し逡巡した後。
 フッと笑みを浮かべるのだった。

 ──こんな苦い笑みを、私は見たことがない。

「本当になあ……こんなにも出来た娘を持ちながら、あの馬鹿は……。兄として情けない。侯爵家が傾いてた時に散々説教したせいか、あの馬鹿はここに寄り付かなくなった。侯爵家が持ち直してきたから性根を入れ替えたのかと思っていたんだがな。やはり馬鹿は死ぬまで馬鹿なのかもしれん」

 そこで一つ間を置いて。
 伏せた目を上げて、今度は厳しい目を私に向けるのだった。

「気にするなバルバラ。あれはやってはいけない事をやったのだ。罰は受けねばならない。それはハリシアも同様。だからバルバラ」
「はい」
「お前はお前のやりたいようにやりなさい」

 その為の協力は惜しまないよ。

 そう言う伯父様の顔は、もうどこから見ても公爵家当主の顔だった。

 その地位に恥じない行いをするために。
 時に冷酷な決断をも辞さない。

 確かに目指すべき当主の姿が、そこにはあった。




しおりを挟む
感想 212

あなたにおすすめの小説

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?

Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とクラレット・メイズ伯爵令嬢は困惑していた。 最近何故か良く目にする平民の生徒──エボニーがいる。 とても可愛らしい女子生徒であるが視界の隅をウロウロしていたりジッと見られたりするため嫌でも目に入る。立場的に視線を集めることも多いため、わざわざ声をかけることでも無いと放置していた。 クラレットから自分に任せて欲しいと言われたことも理由のひとつだ。 しかし一度だけ声をかけたことを皮切りに身に覚えの無い噂が学園内を駆け巡る。 次期フロスティ公爵夫人として日頃から所作にも気を付けているキャナリィはそのような噂を信じられてしまうなんてと反省するが、それはキャナリィが婚約者であるフロスティ公爵令息のジェードと仲の良いエボニーに嫉妬しての所業だと言われ── 「私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 そう問うたキャナリィは 「それはこちらの台詞だ。どうしてエボニーを執拗に苛めるのだ」 逆にジェードに問い返されたのだった。 ★★★ 覗いて頂きありがとうございます 全11話、10時、19時更新で完結まで投稿済みです ★★★ 2025/1/19 沢山の方に読んでいただけて嬉しかったので、今続きを書こうかと考えています(*^^*)

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました

柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。 「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」 「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」  私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。  そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。  でも――。そんな毎日になるとは、思わない。  2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。  私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

お姉様、今度は貴方の恋人をもらいますわ。何でも奪っていく妹はそう言っていますが、その方は私の恋人ではありませんよ?

柚木ゆず
恋愛
「すでに気付いているんですのよ。わたくしやお父様やお母様に隠れて、交際を行っていることに」 「ダーファルズ伯爵家のエドモン様は、雄々しく素敵な御方。お顔も財力も最上級な方で、興味を持ちましたの。好きに、なってしまいましたの」  私のものを何でも欲しがる、妹のニネット。今度は物ではなく人を欲しがり始め、エドモン様をもらうと言い出しました。  確かに私は、家族に隠れて交際を行っているのですが――。その方は、私にしつこく言い寄ってきていた人。恋人はエドモン様ではなく、エズラル侯爵家のフレデリク様なのです。  どうやらニネットは大きな勘違いをしているらしく、自身を溺愛するお父様とお母様の力を借りて、そんなエドモン様にアプローチをしてゆくみたいです。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

処理中です...