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しおりを挟む「婚約破棄?」
私と伯父様の話を漏らすことなく聞いてたのだろうか。そして気になるとこはそこですか。
慌てふためく私とは対照的に冷静なオーバン様。
婚約破棄のところでピクリと眉が動くのだった。男性でもこういう話、興味あるのかしら。
なんと言ったものかと思っていたら、私より先に伯父様が口を開いた。
「それが聞いてくれオーバン、この可愛い姪のバルバラが馬鹿な小僧に婚約破棄されたんだ!」
「ああ、確か公爵家のデッシュ殿、でしたっけ」
「そうそう!──ってどうして知ってるのだ?」
思わず頷いた伯父様だったが、いきなり出た名前に驚く。それは私も同じだった。どうして知ってるの?
私と伯父様、二人して不思議に思って彼を見れば、またニヤリと笑われた。
「もう有名ですからね。デッシュ殿が穀潰し令嬢と婚約破棄したってのは」
それを聞いた私は……「なんですってぇぇっ!?」と絶叫するのだった。
侯爵家を追い出される形で出てきたのが昨日の事。翌日である今日は、まだ午後を回ったところだった。
のに!
もう婚約破棄の話が出回ってるの!?
「話出るの早すぎません!?」
驚いて叫ぶ私に、オーバン様は「ハリシア嬢とデッシュ殿が方々で触れ回ってるよ」と説明するのだった。
あ・い・つ・らあぁ!!!
仕事は全然出来ないくせに!
こういう事だけは動き早いのね!!
「ついに穀潰し令嬢が見捨てられた。有能な姉が前面に出るなら、これから侯爵家はもっと大きくなるだろう、ともっぱらの噂ですね」
「なんですかそれは!」
次はそんな噂が出回ってるんですか!?
「あと早々に二人の式を挙げるとのことですよ。侯爵家も立派になったので、盛大にするそうだとか」
「げ」
噂もとんでもない事だけど、むしろそちらの方が大問題だ。
結婚式。盛大に。
つまり。
侯爵家の財が、領民の税が……食いつぶされる!
「こうしてはいられない!伯父様!」
「なんだ」
「どうか私に力を貸してください!」
「いいだろう!」
即断即決、素敵です伯父様!
よし、強力な助っ人が出来た!
俄然やる気が出てきた私は伯父様に屋敷にしばらく滞在させて欲しいと願い出るのだった。快く受け入れて下さった伯父様は、使用人達にすぐさま部屋の用意を命じるのだった。
「ではお嬢様、支度してまいります」
「うんリラ、お願いね」
居たのすっかり忘れてましたがリラはずっと部屋におりました。全部見てて何も言わない、メイドの鑑ですね。
リラが出て行くのを見送って、私は伯父様をもう一度見やるのだった。
「伯父様」
「なんだ」
「私は父と姉を侯爵家から追い出そうと思います」
「そうか」
「そして私は侯爵家当主になります」
「分かった」
先ほどと同じ簡潔な返事。それに少し戸惑ってしまう。
大変な事を言ってる自覚はあるのに、伯父様はそれを完全に受け入れてくれてるのだ。
「──よろしいのですか?」
「何がだ?」
「私は貴方の弟を、もう一人の姪を追放すると言ってるんですよ?それがどういう意味か分かってて……それでもなお、私に協力してくださるのですか?」
私が何を言いたいのか理解した伯父様は、少し逡巡した後。
フッと笑みを浮かべるのだった。
──こんな苦い笑みを、私は見たことがない。
「本当になあ……こんなにも出来た娘を持ちながら、あの馬鹿は……。兄として情けない。侯爵家が傾いてた時に散々説教したせいか、あの馬鹿はここに寄り付かなくなった。侯爵家が持ち直してきたから性根を入れ替えたのかと思っていたんだがな。やはり馬鹿は死ぬまで馬鹿なのかもしれん」
そこで一つ間を置いて。
伏せた目を上げて、今度は厳しい目を私に向けるのだった。
「気にするなバルバラ。あれはやってはいけない事をやったのだ。罰は受けねばならない。それはハリシアも同様。だからバルバラ」
「はい」
「お前はお前のやりたいようにやりなさい」
その為の協力は惜しまないよ。
そう言う伯父様の顔は、もうどこから見ても公爵家当主の顔だった。
その地位に恥じない行いをするために。
時に冷酷な決断をも辞さない。
確かに目指すべき当主の姿が、そこにはあった。
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