婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール

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「──これは一体何事ですか」

 私が泣きだしたのを切っ掛けに、なぜか伯父様も泣き出してしまい。

「バルバラー!よく頑張ったー!お前は素晴らしい子だー!」
「ありがとうございます伯父様!嬉しいですー!」
「お前のような努力家の姪がいて私は幸せ者だー!」
「私も伯父様が伯父様で良かったです、幸せですー!」

 と絶叫しながら二人してワンワン泣いてたのだから。

 ──まあ変な奴らと思われて当然だよね。

 部屋に入ってきた人物は、異様な光景に顔を引きつらせるのだった。

 ていうか、誰。

 私は突然の侵入者にピタッと涙が止まり、未だ伯父様にヨシヨシされながらその人物を見やるのだった。

 健康的に日焼けした肌に細いながらに鍛えられてると分かる体躯、整った顔立ちは美形と言って差し支えない。歳は私に近い……少し年上かな?といった青年が、明らかに呆れた顔をしている。長い黒髪を後ろで一つにまとめ、切れ長で鋭い茶眼がこちらを見ていた。

 だから誰ですか。

「おお、オーバンか。いやなに、可愛い姪が凄く頑張っててな、私はそれが嬉しくてな、う、ううう~……」
「分かりました。とりあえず馬鹿みたいに見えますのでその汚い鼻水をどうにかしてください」
「お前酷いな!」
「酷いのは公爵の顔です」
「いや酷いな!」

 公爵である伯父様に遠慮なくズケズケと物言う青年。どうやら二人は顔見知り──というか、仲が良いみたいだ。

 伯父様は随分な言われようにも関わらず、泣き笑いになりながら慌ててティッシュを手に取るのだった。あ、私にもください。

 殿方の前で、とか気にするような質でもないので、私も鼻をかむのだった。一応彼から背を向けて。

 そんな私の背後から、遠慮なく彼の眼前で鼻をかんでる伯父の会話が耳に入る。

「ところでオーバン、ブ~ッ!どうしたんだ?ブ~ッ!」
「鼻をかみながら話さないでもらえますか」
「まあ気にするな、ブ~ンッ!年をとると涙もろくてなあ……ブーンッ!」
「年をとる以前の問題だと思うんですが」

 まあそこは同意です。
 最初の怖そうな伯父様はどこに行ったんだろう。すっかりキャラ崩壊起こした伯父様は、ひとしきり鼻をかんでもう一度問うのだった。

「で?どうしたんだ、オーバン」
「ちょっと用がありまして」

 何度も名前を聞いて、何となく聞き覚えがあるような?と思っていたのだけれど。

「こちらの領地の警備隊についてですね」
「おお、騎士団から何人か派遣してくれるか!?」

 騎士団──その単語でようやくピンと来たのだった。

 オーバン。
 そうだ、確かオーバンという名前だったと思う。

 王国騎士団の中でも最強の白騎士団。

 その団長が若くして歴代最強と呼ばれると──その黒髪のせいか、白騎士団所属なのに黒騎士と呼ばれちゃうくらい恐くて強い、と話題になった。

 侯爵家令息にして、白騎士団団長の。

「オーバン様?」

 思わず呼んでしまった名前。

 その人がゆっくりと私を見て。

 ニコリと笑うのだった。





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