【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール

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女子大生三人組

1、

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 ふと目が開く。暗闇に目をこらせば、ベッドライトがほのかに明かりを灯している。
 首を動かして右を見る。友人の杏子が眠っていた。左を見ると、やはり友人の結衣が、寝相汚く布団を跳ねのけて寝息を立てていた。それを見た瞬間、ここがどこで自分が何をしてるのか思い出す。
 枕もとの携帯が差す時刻は深夜。旅行初日はクタクタで、シャワーの後、ベッドに倒れ込むように眠ったんだっけ。
 もう一度寝ようと、体を横向けて目を閉じる。だが眠りは再び私の体を包んではくれなかった。
 ゴロリと反対に寝返りをうっても同じ。一度目覚めてしまった眠りは、戻ってはこなかった。
 そんなつもりはなかったのだけど──それなりに興奮してるのかしら。

 卒業旅行はどこに行こうかと話してた時に、「洋館観光宿泊ツアー行かない!?」と言い出したのは杏子だ。22歳になってなお、少女漫画が大好きなちょっぴりオタク少女。頑なにコンタクトを拒絶しメガネ派を貫く彼女は、そう言って旅行会社のパンフレットを掲げた。
 その目はキラキラ期待に輝き、およそ私と結衣が却下できるような状況ではなかった。

 まあいいさ、退屈ならばまた別の旅行に行けばいい。
 まあいいさ、こんな経験社会人になってしまったらなかなかできない。
 まあいいさ、この旅行で二人とも離れ離れになるのだから。

 そんな誰にともなく言い訳をして、私と結衣は承諾した。集合場所は辺鄙な田舎で、向かうのが大変だった。道中の山道はガタガタ振動が酷く、お尻が痛くなった。それでも楽しいと感じるくらいには、まだ学生気分が抜けきってないのだろう。到着した洋館のグレードの高さに、興奮を感じたのも否定はしない。雰囲気ある館内に、ガラにもなくはしゃいだのは記憶に新しい。
 不満点があるとしたら、売店もなければ近所にコンビニすら無い事か。ちょっとした物が欲しいなと思っても、買えないではないか。いやそもそも、コンビニどころか何も無い山奥というのが問題。
 いくら土地が安いであろう山奥とは言っても、これほどの規模の館なのだ。それも三つ。けして貧しい家柄ではないのだろう。よく知らないが、財閥ということは、かなりの金持ちだったと推測される。そんな金持ちがわざわざこんな所に館を建てた。
 よほどの変人か、人嫌いなのか。
 それとも──

 あれこれ考えた後、私は思考を止めた。考えたところで意味はない。自分には関係ないこと、財閥が建てたのなんて大昔、過去のことなのだから。
 すっかり目が覚めてしまった私は、溜め息をついて体を起こした。ギシリと音を立て、ベッドを降りる。天蓋付きのベッドは最初こそ感動したものだが、慣れてしまえば特になんとも思わない。むしろ張り巡らされたレースが鬱陶しいなと思うくらいだ。
 そのレースカーテンは開け放して、ベッドが三つ並んだ私達は互いの顔が見えるようにして眠っていた。
 フカフカのスリッパに足を突っ込み立ち上がったところで、杏子の声がした。

「早苗……?どしたの?」
「ごめん起こしちゃった?ただのトイレだから、寝ててね」
「うん……」

 本当に起きていたのか分からないが、返事の直後再び杏子の寝息が聞こえた。それにホッとして、私は用を足しにトイレに向かった。

「ふう……お酒欲しいなあ」

 トイレを済ませ、洗面所で手を洗い鏡を覗く。そこにはバッチリ目が覚めてしまった私の顔が映っている。
 眠れない時はお酒を飲む、それが習慣なのだけど。いかんせん、ここは店のない山奥。深夜はスタッフもほとんど帰宅して、最低限の人数しか居ないと聞いた。そのスタッフも当然眠っているだろうから、起こしてお酒を頼むわけにもいかない。

「そうだ、キッチン」

 夕食時、希望者にはお酒も振る舞われていた。ということは、キッチンに行けばお酒が置かれてるかもしれない。
 勝手に飲むのは気が引けるが、なにメモでも残して置けば後で清算してくれることだろう。なにせホテルにあるような部屋据え置きの冷蔵庫もなければ、ルームサービスもないのだ。それで我慢しろと言う方が酷い。

 ツアーの説明書きにその旨が書かれていた、なんてことはこのさい頭から追い出し、私は自分に都合よく言い訳をする。山奥の大きな洋館は肌寒い。私は靴下を履き、ナイトウェアの上に一枚羽織って廊下に出た。手に持った鍵が冷たい音を立てて廊下に響く。上着のポケットに入れた瞬間、ドクンと心臓が跳ねた。

 別に何があるわけでもない。廊下の壁には多数のウォールライトが備え付けられ、オレンジの明かりが廊下をほんのり照らし出している。なんとも雰囲気のある様子に、知らずゴクリと喉が上下した。
 恐る恐る踏み出す足。それから直ぐに早足になる。出来る事なら、とっとと目的の物をゲットして、早々に部屋に戻りたかった。
 記憶力には自信があるので、階下に降りて迷うことなく食堂に向かう。夕食時と打って変わって、冷たい空気が漂うそこにブルリと体が知らず震えた。キッチンはあちらとガイドの渡部さんが指さしていた方角を思い出し、そちらに向かうべく顔を向けた瞬間。
 私の足が止まった。

「子供──?」

 暗い食堂の中。窓から差し込む月明かりに照らされ、少女が食堂の中に佇んでいたのだ。
 黒く長いサラサラの髪が、風もないのに揺れている。
 下に伏せられていたその目が、フッと上がり私の目を射抜いた。
 その美しい顔に息を呑んだ瞬間。

「待ってたわ」

 美しい声で、少女がそう言って微笑んだ。

 口が裂けんばかりの壮絶な笑みを、私に向けたのだ──

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