【第一部完結】「子供ができた」と旦那様に言われました

リオール

文字の大きさ
59 / 63
第一部

59、人の話はちゃんと聞きましょう

しおりを挟む
 
 光魔法を放ち、オオトカゲ3体を取り囲む。食事を浄化するように簡単にはいかないと感じるも、それでも大差ないとも思う。
 意識を集中すること数分。

 次第に光は小さくなり、そのままフッと掻き消える。

「終わった…かな?」

 多分大丈夫だとは思うが、それでも初の試みに自信をもてるはずもない。
 集中するために閉じていた瞳をそおっと開けば……開いたら、目の前には異様な光景が繰り広げられている。

「よーしよしよし、いい子だよーしよしよし」
「……無表情で淡々とオオトカゲを撫でないでほしいな」

 最初から一貫して表情がないその顔でもって、魔族の男がオオトカゲの頭を撫でているのである。実に不気味。まったくもってほのぼのしない。

「いい子だねえ!」

 魔族の子がその大きな鱗に覆われた背に乗って、キャッキャ笑っている。うん、こっちはほのぼのするし癒やされるな。オオトカゲの迫力あるいかつい顔は見ないことにしておこう。

 どうやら成功したらしい。

「大人しくなりました?」
「見違えるほどにな」

 これが本来の姿だと男は言う。

「撫でるか?」
「のーさんきゅー」
「のう?」
「結構ですという意味です」
「人間界の言葉は、奥が深いな」
「まあ私は特別色々な言葉を知ってますもんで」

 時折前世の知識が呼び起こされるんですよ、なんてことは面倒なことになるので言わないが。

 大人しく撫でられるがままになっているオオトカゲの姿に、やれやれと胸を撫で下ろしたところで「メリッサぁっ!」「うおっふ!?」衝撃に息が止まりかけた。

 背後から腰にタックルしないで欲しい。
 そう叫びかけて、でも私の腰にしがみつく手が震えていることに気づいて、その言葉は呑み込んだ。

「ゼン、大丈夫?」
「うん」
「ノンは大丈夫ですか?」
「まあね。あんたが来なきゃヤバかったけど」
「ヒーローは遅れて登場するのです」
「は?」
「冗談なので、本気で馬鹿にした目を向けるのやめて」

 会話はほのぼのしているが、空気がピリッとしているせいで心から笑えない。
 なにせノンナリエが放つ気配が恐すぎて……。殺気、隠す気ないんだもんなあ。

「ねえあいつ、魔族だよね?」
「あーまあそうみたいです。あの子の父親なんだそうで」
「ふうん? 害はないのかい?」
「今のところは」
「オオトカゲを随分手なづけてるみたいだね」
「そうですねえ」
「……」
「……」

 なぜに無言かって?
 私とノンナリエ、二人同時に地面に目を向けたからである。

 そこには、私が到着する前にノンナリエが倒したオオトカゲ2体が倒れていたから。

 これ、やばいんじゃなかろうか。
 もしあの魔族の男が、オオトカゲを殺したことを激怒したら?

 いつでも逃げられるようにしておいたほうがいいんじゃないかしら。

 なんて思ってたら、ノンナリエが私の顔を見て言ってきた。

「治せるかい?」
「え、生きてるんですか?」
「かろうじてね」
「そう、ですか……」

 死んでしまったら、どうにもならない。
 でも生きているなら、多分どうにかなる。

 魔物を治療なんてしたことないけれど、まあ生きとし生けるもの全て、似たようなもんだろう。

 倒れているオオトカゲに手をかざして意識を集中させる。生きている気配に、失敗する気がしない……なんて思いながら、治癒魔法をかけるのだった。

* * *

 で、元気になったオオトカゲ5体と、それを従える魔族の男が一人。
 その男に肩車してもらっている魔族の少年一人。

 それから私の背後にはノンナリエとゼン。

 さあこれからオオトカゲがおかしくなった原因を探そうって思ってるんだけど。
 だ・け・ど!

 どうしてこうなった。

「あのお……手を離してもらえませんか?」

 そう言う私の手は、握られている。誰にって、魔族の男に、だ。綺麗な男性に握られてキャッドキドキする! とはならんよ。私にはクラウド様がいるから。あと美形はクラウド様で見慣れているから。

 だがそんなことはお構い無しとばかりに、美しい笑みを浮かべる魔族が一人。

 私の手を離すことなく言い放った。

「もう人の世界に帰るな。俺の嫁になれ」突然の求婚。
「いや、私既婚者ですので……」お断りしても
「お前のそばに居ないやつのことなど忘れろ、俺の嫁になりこの子の母となれ」と聞く耳持たない。

「いやあ、でも私……」
「あれは百五十年前の話」

 お前の話はいいから私の話聞けや。でもって百五十年前ってなんだよ、魔族の寿命規格外すぎるだろ。

 話を聞かない魔族は話を続ける。

「私は一人の女と出会った。あれはとても美しい魔族であり、強い女でもあった。私達は一目で恋に落ちたのだ」
「なぜいきなり魔族の恋バナ聞かんとあかんの」
「そして彼女との間に子供ができた」
「話聞かない継続ですね、はいはい。でもって色々すっ飛ばしていきなり子供ですか」

『子供ができた』

 なんだか懐かしいフレーズだな。

「しかし彼女はもういない」
「亡くなったんですか?」
「他に好きな男ができたと言って、どこかへ行ってしまった」
「そんな女ばっかりかい!!!!」

 いやいや、世の中そんなタイプの女性のほうが少ないと思うよ。レアどころかSR、いやSが十個はつくくらいにレアなんじゃないの?

 だってのに、なぜ私が知り合う子持ちはそういう話が多いわけ!?

「母親に捨てられたことがショックだったのか、ローディアスはすっかり内気な子になってしまってな。友達一人もいないような子なのだ」
「ローディアス? ああ、あなたの子供のことですね」

 言って魔族の子に目を向ければ、にっこり微笑まれた。可愛いのう。

「あの子が不思議とお前に懐いている。だから私の嫁となり、あの子の母となれ」
「いやだから、私には夫がおりまして。なんなら子供も居ます」

 言った瞬間、魔族の目に剣呑な光が浮かぶ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!

柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」 『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。 セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。 しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。 だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。 愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。 「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。 ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。 「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」 従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

処理中です...