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第一部
27、寝物語1~世界は退屈で面白い
しおりを挟む世界はとっても退屈だ。
14歳にして、私、メリッサ・クリエール子爵令嬢はそう悟った。というか、悟らざるをえないと言うべきか。
「メリッサー! これからお夕飯の用意をするから、手伝ってちょうだい!」
「はーい、お母様!」
子爵家にも色々あるが、うちは子爵とは名ばかりの非常に貧乏貴族。
持っている領地はちっぽけで、そのほとんどが荒れ果て住人はほとんどいない。当然税収なんて雀の涙。
それでも少数ながらいる領民のため、少しでも住みよい土地にしようと、父は奮闘している。
それはいい。とても素晴らしいことだと思う。貧乏なのも生まれつきなのだから、全然平気。
貧しい家を何とも思わないのだが、両親にはもう少し計画というものを持って欲しかった。
他の貴族に比べれば犬小屋レベルに小さいながらも、この地ではまだ大きい方な我が家の、あてがわれた小さな自分の部屋で溜め息をついて、私は立ち上がる。それから母がいる台所に向かおうと扉を開けた。
「うえーい!!!!」
「ごふっ?!?!?!」
開けた瞬間、お腹に加わる強烈な圧に、思わず変な声出たわ。
苦し気にお腹を押さえる私の横を、バタバタと小さな足が激しい足音を共に走り抜けていく。
なんとかスックと立ち上がった私は「くおらあ! ダルシュにアンシュにカッシュ! 廊下を走り回るんじゃないっていつも言ってるでしょお!?」と怒鳴った。
すると遊びたいざかり、ヤンチャざかりの弟三人が一瞬立ち止まって私を振り返った。どうよ、姉の鶴の一声!
だが鶴はアッサリ無視される。
「うえーい、姉上、うえーい!!!!」
「ごふうっ!?」
長男のダルシュが私に向かって手に持ったオモチャの剣を突き出して来た。いやちょっと待て、いくら先っちょが丸かろうと、素材が柔らかろうと、それを姉に突きさそうとするか普通!?
あとなんだよその『うえーい!』って! 私は姉上だが、その上があるんかい!?
「姉うえーいにケンカ売るとかいい度胸よね!」
だてに弟三人持ってないわよ! くるなら来い! と身構えたら、なぜかダルシュが立ち止まった。そして弟二人を振り返り、そして言った。
「姉うえーいだって、寒っ!!!!」
「よしそのケンカ買った、マジで買った。ちょっとアンシュ、その手に持った剣を寄越しなさい。ダルシュ、決闘よ!」
「望むところだー!」
「あねうえ~、うえ~い! きゃはは!」
「んごふううっ!?」
ダルシュと決闘! とか言ってる私の腹に突きささったのは、まだまだ幼くて無邪気な末弟カッシュによる一撃。
姉上撃沈。
う、うえ~い。
「ちょっとメリッサ、なにをしているの!? 早く手伝ってちょうだい! あああ、お鍋が噴きこぼれてるーーーーー!!!!」
ゲラゲラ笑う弟達の笑い声。
お腹を押さえて悶絶する私。
そして響き渡る母の悲鳴。
ラブラブ夫婦している両親は、無計画に子供を作って貧乏な我が家はもっと貧乏に。
笑い声が絶えない貧乏貴族を作り上げたのである。
いやまあ、いいんだけどさ。
両親は大好きだし、弟達も可愛いし。
クリエール家は今日も賑やかなのです。
* * *
「退屈だわ!」
ダンッとフォークを机に置いて、私は叫んだ。
「どうしたのメリッサ、いつもの発作?」
「発作ちゃう、退屈だと私は今言いました」
退屈と言うことが、なぜ発作なんだよ、解せぬ。
そう言う私のことを、友人のリンダは食べ終えたお弁当箱に蓋をしてから見た。
「だってその発言、今月に入って何回目よ。いい加減聞き飽きたわ」
ここは貴族が通う学園……ではない。そんなものに通う余裕は、我が家にはない。
うちはつつましやかに、庶民が通う普通の学園に通っているのですよ。
そしてそこで知り合った庶民のリンダとは、親友だ。私たち永遠なるずっ友よね! と言ったら「え、やだ」と言える関係。冗談だよね? 冗談だと言って。
「貧しくても家族仲がいいなんて、素晴らしいことじゃない」
「そうではないわ。家族仲がいいのは私も大歓迎。そして家族のことは大好き。でもねえ、あまりに退屈すぎるのよ」
だって考えてみて?
私は貴族とは名ばかりな生活を送っているが、それでも一応子爵家令嬢。
家の後継は弟達の誰かがやってくれるとして、ならば私は父の仕事を手伝って盛り上げるか貴族の婚約者を見つけるのが通常。
でもそれがままならない。
父の仕事を手伝ってはいるが、私別に優秀じゃないからね。才覚まったくないし。なもんで領地や家を盛り上げるなんてこと、微塵もできない。
それから婚約者探し。これはもっとハードル高い。
「ねえリンダ、どうやったら彼氏できるの?」
そう教えを乞うのは、現在絶賛お付き合い中のずっ友リンダ。
「なんかビビッときたの」
「そうなのねありがとう全然参考になりません」
「知りません」
ビビッとってなによ。そんなの生まれてこの方、一度も経験ないわ。
「初恋もまだなお子ちゃまには、難しかったかもねえ」
「どうせ私は絶壁胸だ」
「誰がいつそんなこと言ったのよ」
こじらせてるなあ。
リンダが呟いた時だった。
フッと視界に影が落ちたのは。
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