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しおりを挟む「仕方ありませんね、私の恨みの原点をお話ししましょう」
「なんだそれは」
全く分かってない様子で首を捻るアルバートに、私は丁寧に話して聞かせた。
幼き日。
私に木の実を取ってこいと命じた事。
頑張って取った私に、飛び降りろとハシゴを外した事。
木を揺さぶって私を落とした事。
落ちて骨折して泣き喚く私を放置したこと。
ぜんっぶ!話したよ!
話してるうちにまた怒りが湧いてきて。話し終わってギロリと睨みつけたら、茫然と呆けてる顔がこちらを向いていた。
なに、まさか忘れてたとか言うんじゃないでしょうね?そうね、加害者なんていつもそんなものよね。被害者の苦しみなんて知りもしないで、自分は簡単に忘れてお気楽な人生を過ごすのだから。
だから私はこの男が大嫌いなのだ!人の痛みを分からないようなやつ!
本当に、心底。大っ嫌いだ!!
「お分かりいただけましたか?私は貴方のような人とは結婚したくありません。過去のことを少しでも悪いと思ってくださるなら、どうか婚約解消してください。私は本当に──貴方が嫌いなのです」
黙ってるアルバートに、私は静かに言った。ハッキリと。嫌いだと。
言うべきことは言った。私は返事を待たずにその場を後にしようと歩き出すのだった。返事などどうでもいい。これでも婚約解消しないと言うのなら……その時は家出するまでだ。もしくは修道院か。とにかく、これ以上この男と関わりたくなかった。
黙ってアルバートの横を通り過ぎようとした瞬間。
グイッと腕を掴まれてしまった。
「なに──」
「まさか……」
その力は強くて。
弱々しい声とは対称的に、腕はけして振りほどけそうになかった。
「アルバート様?」
「まさか、そんな誤解が生じていたとは……」
弱々しい声。空いてる方の手で、顔を覆って空を仰ぐアルバート。一体なんだというのか。
「アルバート様、放してください」
「嫌だ」
掴む力同様に強い言葉。
それはちょっと低くて。
瞬時に私の体は強張ってしまった。
怒ってるのだろうか?今だ空を仰いでる彼の表情は分からない。
私はイライラして、腕に力を入れた。
「放し──」
「違うんだ」
「は?」
何が違うと言うのか。
貴方は確かに私に命じて木登りさせたではないか。
そうして頑張った私を嘲笑うかのようにハシゴを外したではないか。しかも落とそうとまでしたのに!
結果、私は骨折したのに!
せめて助けを呼びに行くなり謝罪なりあれば、まだこんなにも心の傷は深くならなかったかもしれない。
だがもう遅いのだ。ついてしまった傷はもう癒えない。
貴方が、私を傷つけたのだから。
続く沈黙。
アルバートはようやく顔から手を離して、私の顔を見た。
その顔は凄く泣きそうに見えるのはなぜだろう。泣きたいのは……辛くて苦しい思いをしたのは私なのに。
どうして貴方の方が苦しそうなの?
「信じてもらえるか分からないが」
「アルバート様?」
「それでも聞いてもらえるだろうか」
そう言って、私の腕を放さぬまま、アルバートはポツリポツリと話し始めるのだった。
あの日の事を。
私ではなく、アルバートの記憶にある、あの日の事件のことを──。
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