婚約者は私が大嫌いなんだそうです。じゃあ婚約解消しましょうって言ったら拒否されました。なぜだ!

リオール

文字の大きさ
上 下
8 / 13

8、

しおりを挟む
 
 
「仕方ありませんね、私の恨みの原点をお話ししましょう」
「なんだそれは」

 全く分かってない様子で首を捻るアルバートに、私は丁寧に話して聞かせた。

 幼き日。
 私に木の実を取ってこいと命じた事。
 頑張って取った私に、飛び降りろとハシゴを外した事。
 木を揺さぶって私を落とした事。
 落ちて骨折して泣き喚く私を放置したこと。

 ぜんっぶ!話したよ!

 話してるうちにまた怒りが湧いてきて。話し終わってギロリと睨みつけたら、茫然と呆けてる顔がこちらを向いていた。

 なに、まさか忘れてたとか言うんじゃないでしょうね?そうね、加害者なんていつもそんなものよね。被害者の苦しみなんて知りもしないで、自分は簡単に忘れてお気楽な人生を過ごすのだから。

 だから私はこの男が大嫌いなのだ!人の痛みを分からないようなやつ!

 本当に、心底。大っ嫌いだ!!

「お分かりいただけましたか?私は貴方のような人とは結婚したくありません。過去のことを少しでも悪いと思ってくださるなら、どうか婚約解消してください。私は本当に──貴方が嫌いなのです」

 黙ってるアルバートに、私は静かに言った。ハッキリと。嫌いだと。

 言うべきことは言った。私は返事を待たずにその場を後にしようと歩き出すのだった。返事などどうでもいい。これでも婚約解消しないと言うのなら……その時は家出するまでだ。もしくは修道院か。とにかく、これ以上この男と関わりたくなかった。

 黙ってアルバートの横を通り過ぎようとした瞬間。

 グイッと腕を掴まれてしまった。

「なに──」
「まさか……」

 その力は強くて。
 弱々しい声とは対称的に、腕はけして振りほどけそうになかった。

「アルバート様?」
「まさか、そんな誤解が生じていたとは……」

 弱々しい声。空いてる方の手で、顔を覆って空を仰ぐアルバート。一体なんだというのか。

「アルバート様、放してください」
「嫌だ」

 掴む力同様に強い言葉。
 それはちょっと低くて。
 瞬時に私の体は強張ってしまった。

 怒ってるのだろうか?今だ空を仰いでる彼の表情は分からない。

 私はイライラして、腕に力を入れた。

「放し──」
「違うんだ」
「は?」

 何が違うと言うのか。
 貴方は確かに私に命じて木登りさせたではないか。

 そうして頑張った私を嘲笑うかのようにハシゴを外したではないか。しかも落とそうとまでしたのに!

 結果、私は骨折したのに!

 せめて助けを呼びに行くなり謝罪なりあれば、まだこんなにも心の傷は深くならなかったかもしれない。

 だがもう遅いのだ。ついてしまった傷はもう癒えない。

 貴方が、私を傷つけたのだから。

 続く沈黙。
 アルバートはようやく顔から手を離して、私の顔を見た。
 その顔は凄く泣きそうに見えるのはなぜだろう。泣きたいのは……辛くて苦しい思いをしたのは私なのに。

 どうして貴方の方が苦しそうなの?

「信じてもらえるか分からないが」
「アルバート様?」
「それでも聞いてもらえるだろうか」

 そう言って、私の腕を放さぬまま、アルバートはポツリポツリと話し始めるのだった。

 あの日の事を。
 私ではなく、アルバートの記憶にある、あの日の事件のことを──。




しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

【完結・全10話】偽物の愛だったようですね。そうですか、婚約者様?婚約破棄ですね、勝手になさい。

BBやっこ
恋愛
アンネ、君と別れたい。そういっぱしに別れ話を持ち出した私の婚約者、7歳。 ひとつ年上の私が我慢することも多かった。それも、両親同士が仲良かったためで。 けして、この子が好きとかでは断じて無い。だって、この子バカな男になる気がする。その片鱗がもう出ている。なんでコレが婚約者なのか両親に問いただしたいことが何回あったか。 まあ、両親の友達の子だからで続いた関係が、やっと終わるらしい。

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。 婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。 両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。 バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。 *今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

あなたは愛を誓えますか?

縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。 だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。 皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか? でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。 これはすれ違い愛の物語です。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

処理中です...