婚約者は私が大嫌いなんだそうです。じゃあ婚約解消しましょうって言ったら拒否されました。なぜだ!

リオール

文字の大きさ
上 下
5 / 13

5、

しおりを挟む
 
 
「アルバート様!アルバート様ってば!!」

 グイグイと引っ張られる私は、学園の庭に出ていた。呼んでも腕を引いても、彼の力は弱まる事はなく。

 ずんずんと進むうちに、どんどん人気のない場所へと向かっている事に気付いて血の気が引いてきた。

 彼は人前では暴力を振るわない。そもそも10歳を過ぎる頃には乱暴な事をされる事はなくなったけれど。
 それでもこれ程に怒っている状態の彼は初めてだった。だから何かされるのかもしれないと、恐くて仕方ない。

 どうしてそんなに怒るの?私の事が嫌いなのでしょう?だったら婚約解消でいいじゃない!

「アルバート様!私から婚約解消を言い出したのが気に入らないのですか!?でしたら謝ります!訂正しますので、どうかアルバート様の方から言いだした事にして……」
「うるさい!」

 どうにか怒りを収めてもらおうと、尚も言い募ろうとしたら。
 一喝されてそれ以上言えなくなってしまった。

 ビクッと体が震える。
 そこで彼はハッとなって、ようやくこちらを向くのだった。

「あ、す、すまない……」

 思えば彼から謝罪されたのは初めてではなかろうか。

 きっと私は涙目になってたのだろう。その顔を見て、さすがに何かを感じ取っての謝罪だったのか。
 だが恐くて仕方ない私には、涙を引っ込める術を持たなかった。

 ポロポロと涙が零れる。

「す、すまない、怒鳴って悪かった!泣くな、頼むから泣かないでくれ……」

 お前は一体誰だ。
 そう言いたいくらいに人格が豹変してる事に驚愕するが、それでも涙は止まらなかった。

 ポロポロなんて可愛いレベルではなく、ダーッと涙が出てくる。

 気付けば校舎からかなり離れた庭園の外れ。先生が実験で特別な花を育ててるという、あまり人が寄り付かない園芸舎まで来ていた。私はその園芸舎に背中を預け、ただただ泣きじゃくるのだった。

 そう言えば、泣いたのは久しぶりかもしれない。
 大昔に木から落とされて骨折した時以来かもしれない。

 それからずっと私は耐えて頑張って来たのだ。
 だが一度決壊してしまった涙腺は、止まる事が出来ない。

「ミリア、ごめん……」
「嫌い……」

 なおも謝り続けるアルバートに向かって、口もどうやら決壊したようだ。私は泣きじゃくりながら叫ぶのだった。

「嫌い嫌い嫌い!アルバート様なんて大っ嫌い!昔っから意地悪ばかり、悪口ばかり乱暴なことばかり!そんなに私の事が嫌いなら放っておいてくれればいいのに、わざわざちょっかい出してきては酷い事ばかり言って!」
「な、そ、それは……!!」
「私はアルバート様の事が!」

 そこでバッと顔を上げて、私はビシッとアルバートに指を突きつける!

「大大大っ嫌いです!!」

 ビシイッ!!と宣言しましたよ!

 シンと広がる静寂、ビキッと固まるアルバート。
 言ってやった、言ってやったよ私!正直伯爵家の立場がやばくなるんじゃないかと思わなくもないが、あれだけ婚約解消してくれと言い続けた私の言葉を無視してきたんだ。両親にも痛い目にあってもらおう。娘大事じゃないんかい!てなもんだ。

「……」
「……」

 沈黙続くなあ。
 ちなみに私は未だにビシッと指を突きつけたままで固まっている。
 アルバートも動かない。
 動いていいかな。正直腕だるいんですわ。

 突き出した腕を、指を下ろそうとした時だった。
 スッとハンカチを差し出されたのは。

「とりあえず、鼻水拭け」
「……」
「……なんだ」
「いや、それ私のハンカチなんですけど」
「気にするな」
「気にしますよ!」

 それ、さっきアルバートの涙拭いてあげようと出したハンカチですよね!?
 なに自分の物のように差し出してんですか!
 しかも鼻水て!乙女に向かって鼻水て!まあ泣けば当然でるけどね!そりゃあれだけ泣けば鼻水も出るわ!超恥ずかしいわ!

「つかぬことをお聞きしますが」
「なんだ」
「アルバート様もこのハンカチで?」

 そういや貴方もさっき泣いてたよね。いつの間にかハンカチ奪われてて、気付けばスッキリ涙消えてるよね。でも泣けばやっぱり出るよね鼻水。それどうした?

 気になって聞いたら、力強く頷かれたのでハンカチ地面に叩きつけてやったわ!

「人のハンカチで鼻水拭かないでください!!」

 しかもそれを使えと出してくんな!!

「なぜだあ!!」

 本気で理解出来ない顔でアルバートが叫ぶのだった。



しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

【完結・全10話】偽物の愛だったようですね。そうですか、婚約者様?婚約破棄ですね、勝手になさい。

BBやっこ
恋愛
アンネ、君と別れたい。そういっぱしに別れ話を持ち出した私の婚約者、7歳。 ひとつ年上の私が我慢することも多かった。それも、両親同士が仲良かったためで。 けして、この子が好きとかでは断じて無い。だって、この子バカな男になる気がする。その片鱗がもう出ている。なんでコレが婚約者なのか両親に問いただしたいことが何回あったか。 まあ、両親の友達の子だからで続いた関係が、やっと終わるらしい。

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。 婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。 両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。 バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。 *今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

あなたは愛を誓えますか?

縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。 だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。 皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか? でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。 これはすれ違い愛の物語です。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

処理中です...