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しおりを挟む「アルバート様!アルバート様ってば!!」
グイグイと引っ張られる私は、学園の庭に出ていた。呼んでも腕を引いても、彼の力は弱まる事はなく。
ずんずんと進むうちに、どんどん人気のない場所へと向かっている事に気付いて血の気が引いてきた。
彼は人前では暴力を振るわない。そもそも10歳を過ぎる頃には乱暴な事をされる事はなくなったけれど。
それでもこれ程に怒っている状態の彼は初めてだった。だから何かされるのかもしれないと、恐くて仕方ない。
どうしてそんなに怒るの?私の事が嫌いなのでしょう?だったら婚約解消でいいじゃない!
「アルバート様!私から婚約解消を言い出したのが気に入らないのですか!?でしたら謝ります!訂正しますので、どうかアルバート様の方から言いだした事にして……」
「うるさい!」
どうにか怒りを収めてもらおうと、尚も言い募ろうとしたら。
一喝されてそれ以上言えなくなってしまった。
ビクッと体が震える。
そこで彼はハッとなって、ようやくこちらを向くのだった。
「あ、す、すまない……」
思えば彼から謝罪されたのは初めてではなかろうか。
きっと私は涙目になってたのだろう。その顔を見て、さすがに何かを感じ取っての謝罪だったのか。
だが恐くて仕方ない私には、涙を引っ込める術を持たなかった。
ポロポロと涙が零れる。
「す、すまない、怒鳴って悪かった!泣くな、頼むから泣かないでくれ……」
お前は一体誰だ。
そう言いたいくらいに人格が豹変してる事に驚愕するが、それでも涙は止まらなかった。
ポロポロなんて可愛いレベルではなく、ダーッと涙が出てくる。
気付けば校舎からかなり離れた庭園の外れ。先生が実験で特別な花を育ててるという、あまり人が寄り付かない園芸舎まで来ていた。私はその園芸舎に背中を預け、ただただ泣きじゃくるのだった。
そう言えば、泣いたのは久しぶりかもしれない。
大昔に木から落とされて骨折した時以来かもしれない。
それからずっと私は耐えて頑張って来たのだ。
だが一度決壊してしまった涙腺は、止まる事が出来ない。
「ミリア、ごめん……」
「嫌い……」
なおも謝り続けるアルバートに向かって、口もどうやら決壊したようだ。私は泣きじゃくりながら叫ぶのだった。
「嫌い嫌い嫌い!アルバート様なんて大っ嫌い!昔っから意地悪ばかり、悪口ばかり乱暴なことばかり!そんなに私の事が嫌いなら放っておいてくれればいいのに、わざわざちょっかい出してきては酷い事ばかり言って!」
「な、そ、それは……!!」
「私はアルバート様の事が!」
そこでバッと顔を上げて、私はビシッとアルバートに指を突きつける!
「大大大っ嫌いです!!」
ビシイッ!!と宣言しましたよ!
シンと広がる静寂、ビキッと固まるアルバート。
言ってやった、言ってやったよ私!正直伯爵家の立場がやばくなるんじゃないかと思わなくもないが、あれだけ婚約解消してくれと言い続けた私の言葉を無視してきたんだ。両親にも痛い目にあってもらおう。娘大事じゃないんかい!てなもんだ。
「……」
「……」
沈黙続くなあ。
ちなみに私は未だにビシッと指を突きつけたままで固まっている。
アルバートも動かない。
動いていいかな。正直腕だるいんですわ。
突き出した腕を、指を下ろそうとした時だった。
スッとハンカチを差し出されたのは。
「とりあえず、鼻水拭け」
「……」
「……なんだ」
「いや、それ私のハンカチなんですけど」
「気にするな」
「気にしますよ!」
それ、さっきアルバートの涙拭いてあげようと出したハンカチですよね!?
なに自分の物のように差し出してんですか!
しかも鼻水て!乙女に向かって鼻水て!まあ泣けば当然でるけどね!そりゃあれだけ泣けば鼻水も出るわ!超恥ずかしいわ!
「つかぬことをお聞きしますが」
「なんだ」
「アルバート様もこのハンカチで?」
そういや貴方もさっき泣いてたよね。いつの間にかハンカチ奪われてて、気付けばスッキリ涙消えてるよね。でも泣けばやっぱり出るよね鼻水。それどうした?
気になって聞いたら、力強く頷かれたのでハンカチ地面に叩きつけてやったわ!
「人のハンカチで鼻水拭かないでください!!」
しかもそれを使えと出してくんな!!
「なぜだあ!!」
本気で理解出来ない顔でアルバートが叫ぶのだった。
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