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後編

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 必要ない事を願っていた。万が一の為に根回しはしていたけれど、出来る事ならそれが無駄骨となって欲しい、そう願っていたの。
 けれどそんな私の思いは踏みにじられたのです。

 愛するアーサー様。
 愚かなアーサー様。
 恋に盲目なアーサー様。

 そんなあなたでも、私はまだ愛してるのです。優しかった頃のあなたの記憶が、私のあなたに対する愛を消してはくれないのです。

 けれど形だけの夫婦となるのは嫌。カーラに愛の言葉を囁くのも、見たくない。
 だから決めました。
 私はあなたを放さない。
 そう私は決めたのです。

「アリス、これはどういうことだ!オイお前達、何をしてるのか分かってるのか!?」

 とある地方の片田舎で買い取ったのは、小さな村の小さな家。
 その地下に密かに命じて作らせました。誰も知らない、私の家族すら知らない。こっそり雇った、口の固い職人達に作らせた地下牢。

 牢とは言っても、それは立派な部屋です。家屋も上級の物を用意し、必要な物は全て揃っている。何不自由なく暮らせるものとなってます。

 ただ地下ですので窓がありません。
 そして部屋の扉の代わりに、鉄格子がはめられてます。鍵は私が持つ1本だけ。中に入った人物が自由に出入りすることは出来ません。

 その地下牢……いえ、地下部屋に現在入ってるのは、もちろん愛しのアーサー様です。

 アーサー様の侯爵家使用人を買収した私は、彼らに命じてアーサー様を捕らえました。そして薬で気を失わせ、使用人とは違う裏の世界の人間に彼を運ばせました。侯爵家に関係する人間の誰も、彼がどうなったか知る事は出来ません。

 そして秘密裏にここへと彼を連れてきました。

「アーサー様、これからあなたはここに住むのです」
「何を馬鹿なことを!私の両親が黙ってると思うか!?」
「あなたはカーラ様と駆け落ちした事になってますから。お探しにはなるでしょうが……まあ大丈夫でしょう」
「そうだカーラ!カーラはどこだ!?」
「さてどこでしょう?」

 首を傾げる私の耳に、ガシャンと鉄格子の音が響きます。アーサー様の手が伸びてきたのです。勿論鉄格子に阻まれてますが。
 きっとその手は私に害を及ぼそうと伸ばされたのでしょう。届かない手に微笑み、私はそっと手を伸ばします。
 伸ばされた手に触れるか触れないかの距離。ああ、このじれったくも絶妙な距離感が、私の心を躍らせる。

「私に触れたいですか?」
「……カーラはどこだ……」
「ふふ」

 それでもなおカーラ様を心配するアーサー様。やっぱりあなたはお優しい。

「いつか会えるといいですね」

 生きていれば会えますよ。
 それは声に出さないで言う。

 正直彼女がどうなったかなんて、私にはどうでもいいの。アーサー様がそばにいて、彼がカーラ様を見る事がないのなら、それでいいの。

「あなたが私を愛してくれるなら、きっといつか会えますよ」

 そう言えば、アーサー様が鬼の形相で私を睨みつけてきました。ああゾクゾクする。
 そうです、そのまま私だけを見ていてください。
 以前のように私だけを。

 もう優しい言葉をかけてくれるあなたは居ない。私を気にかけてくれるあなたは居ない。

 でもいいの。
 あなたさえ居ればいいの。

「愛してます、アーサー様」

 そう言えば、何とも言えない目を向けられました。

 それは怒りか同情か蔑みか。
 なんだっていい。あなたが私を見てくれるのなら。

 きっとこの状況はいつか破綻する。
 けれどそれまでは……その日までは。

 あなたと私、二人きり。
 なんの邪魔もない、幸せな時間を過ごせます。

「もし……アリスとちゃんとした夫婦になると誓えば、カーラを返してくれるか?」

 今後のことに思いを馳せてウットリする私に、低いくぐもった声でアーサー様が問うてきました。

 私はゆっくりと、彼へと視線を向けます。

「そんなにもカーラ様が大切ですか?」
「……」

 答えるのは不利になるとお思いなのでしょうか。だんまりが返ってきました。けれどそれが答えとなることに、彼は気付いているのかしら。

 私は少し悲し気な顔で目を伏せます。
 そして言いました。

「そんなにも……カーラ様を愛しておられるのですね。私とアーサー様、うまくやっていけると思っていましたのに。どうして……」
「アリス……すまない……」

 初めて出た謝罪の言葉に、私は顔を上げました。
 つつ……と頬を流れるのは、一筋の涙。

 それはきっと美しい光景なのでしょう。アーサー様がこんな状況であるにも関わらず、息を呑むのが分かります。
 私は悲し気に苦し気に切なげに……声を絞り出しました。

「そんなにもカーラ様のことが好きならば……これからもずっと気持ちが変わらないというのなら……あなたに思ってもらえない苦しみに耐えられなくなったなら。その時は……潔く身を引きましょう」
「アリス……?」
「言ったでしょう?あなたの幸せが私の幸せだと」
「アリス……!」
「あなたには幸せになって欲しいから……」
「あ、ああ、アリス……ありが……」










「なんて言うとお思いですか?」
「……!」

 同じことを言ったのに、同じような反応が返って来るなんて、あなたはどこまで馬鹿なんでしょう。
 私を馬鹿にしすぎではありませんか?

「私はあなたの幸せを望んでました。ですが……あなたは私の幸せを願ってはくださらないのですね」
「アリス、そんなことは……!」
「もう遅い。全て遅い」
「アリス、アリス……!」
「私はあなた達を許しません」

 けして。絶対に。

「絶対にあなたのこと、手放してやりませんわ」

 かつて、私の幸せをあなたは望んでくれた。
 かつて私は、あなたの幸せを望んだ。

 今あなたは、私の幸せを望まない。
 私はあなたの幸せを、望まない。

 私は……

「私は、私の幸せを望みます」


  ~fin.~
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感想 10

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みんなの感想(10件)

なるる
2024.09.18 なるる

この作品、好きです!

続きはないのでしょうか…

リオール先生、気が向いたら続きを是非是非お願いしまする(_ _*)

リオール
2024.09.20 リオール

結構前の作品ですのに読んでいただけるのは本当に嬉しいです。
そして嬉しいコメント、ありがとうございます!
しかし続き…それに関してはごめんなさい(;´Д`A ```
でもまたこういったドロドロダークな話は書きたいなと思いますので、
その時は宜しくお願いします。

解除
pajan
2023.11.23 pajan

この作品はポエムかなにかでしょうか?
正直な話、小説とは言いがたいと思います。

解除
aaa
2023.07.30 aaa

これがざまぁ?
虚しいだけだし全然すっきりしない

解除

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