文句しか言わない(言えない)婚約者。自分から言い出したのに婚約破棄にも文句言ってます

7、

　
　
「夜中に城を抜け出してカジノに入り浸りだと！？更には酒場で泥酔するまで飲みまくる……女と共にどこぞの宿へと消えることも、とあるではないか！お前は……お前は一体何をしておるのだ！！」
「ですが父上、俺──私にも色々事情がありまして！」
「国民の血税を使い込むのにどのような事情があるというのだ！」

　父が調べ上げたデニス王子の素行。まあ出るわ出るわ……とにかくどこの不良だ？と言いたくなるような事ばかり。私に文句ばかり言いながら、自分は陰でやりたい放題。いいご身分ですね！

「特にこの女遊び！婚約者であるエレナ嬢に文句ばかり言えた立場か！！」
「ですが彼女らはエレナとは違って色気が……！」

　そこ！？そこですか！？色気なくて悪うござんしたね、公爵令嬢にそんなもんあるか！いやある人も居るかもしれないけどさ！とんでもない文句が出たもんですね！

「その結果が婚約解消宣言か！？」
「ですからあれは冗談だと……」
「かりにも王太子という立場でそのような冗談が許されると思ってか！王族の言葉には重みがあると口酸っぱく言ってあったというのに！……情けない……」

　最後には王様泣きそうになりました。なんだか同情したくなります。
　ホントにねえ……国王夫妻はとても立派な方達だったのに、どうして子育てに失敗したのやら。デニス様の交友関係にでも問題あったのかもしれませんね。

「王太子たるもの一度言ったことは責任をもって貫き通せ！お前とエレナ嬢との婚約は今をもって破棄とする！！」
「そんな父上！あんまりです！そもそも俺は何も悪く……」
「お前が悪いに決まっとろうが！！！！」

　まだ文句を言おうとするデニス様。の頭に、見事に拳が落ちました。中身が無いせいか、良い音が響きましたねえ。

「更に！税の使い込みなどお前の行いは問題ありとみなし、第一継承権を剥奪する！そしてその腐った根性を叩き直すために北の大地へ追放だ！」
「な！！ち、父上、あんまりです！あんな北の大地などに行けば、俺は一日で氷漬けです！」
「なら一生氷のままでいろ！！」
「そ、そんなあ……」

　北の大地ってあれですね。春を知らない永遠の冬、永久凍土の大地。そんな場所でも人々が生きている場所もあるのです。ただそこで生まれ育ってない者からしたら非常に厳しい場所だとか。
　いっそその口を凍らせてしまえば良いのではないかしら。

　完全に他人事で見ていたら、ギッと凄い目で睨まれてしまった。なんでしょうか。

「エレナ！こうなったのも全てお前のせいだ！大体お前はいつも俺に……！」

　え、まだ私に文句が出るんですか？それはそれで凄いなと思います。ほんと、文句言わないと気が済まないんですねえ。

「デニス様、どうぞお元気で。行ってらっしゃいませ」

　そして二度と帰って来るな。

　そんな事を心の中で考えて頭を下げたら、もう何も言う気力が無くなったのだろうか。

　デニス様はガックリと項垂れて、臣下に促されるまま連れて行かれるのだった。
　お達者で～！



*　*　*



　そんな婚約破棄があってから一ヶ月が経過した。毎日聞かされていた文句から解放された私は、実にすがすがしい気持ちで残りの学園生活を謳歌していた。

　──ただ一つの憂いを除いては。

「エレナ、そろそろ良い方に考えてくれただろうか？」
「ハンス様、何度も申しましたが私は……」
「きみはあくまで『王太子の婚約者』だったんだ。だからそのまま僕の婚約者になることに何ら問題はありません」
　大有りですよ！！

　デニス様の王位継承権が剥奪された結果、ハンス様が王太子となるのは当然の結果。
　けれどそのハンス様の婚約者に私がなるのは……ちょっとどころではなく大問題なのではないでしょうか？それこそ醜聞だと思うのですけど。

　なのにこの王子、諦めてくれないのだ。
　毎日突撃してきてはこのように『良い返事』をして欲しいと言って来るのである。

　なんというか……兄のデニス様の毎日文句も鬱陶しかったけれど。

「エレナ、今日こそは僕との婚約を了承してもらうよ！」

　ハンス様の毎日求婚もめんどくさいなと思います。

　はたしてどうなるかは……神のみぞ知る。



　　～fin.～