上 下
3 / 7

3、

しおりを挟む
 
 
「婚約解消の話は無かった事に、とのことだ」
「──は?」

 学園が休みの日に父から呼び出しがあった。執務で忙しく、食事すらも一緒にとれない人が何の用だと思えば、開口一番言われたのがこれ。そりゃ思い切り眉をしかめますよ。

「エレナちゃん、顔が恐いぞ」
「ちゃん付けないでください」
「エレナちゃん、父親に向かってその言葉遣いは乱暴すぎると思うのだが」
「父親だからこそです。次ちゃん付けしたら無視します」
「エレナちゃ……茶でも飲むか」

 強引に誤魔化したな。
 いかにも恐い父を演じてるくせに、どうして私の名前にだけはちゃん付けるかな。威厳も何も粉々だわ。私はキリッとした父が好きなのです。なのでスパルタ。

 そして他人の前では猫をかぶってますけど、さすがに家でまでそんな事はしてられません。ストレス溜まるわ。なので基本、家では素です。私の素はきっと庶民派思考の母が影響してるのでしょう。母もきっとストレス解放を求めてるんだろうな。

 余談はさておき。

「婚約解消が無かった事に、とはどういうことですか?」

 先日、突然王太子であるデニス様がぶん投げてきた爆弾。発言。
 それに歓喜の雄たけびを上げたのは、まだ記憶に新しい。

 顎を押さえてうずくまる王太子に、「早く手続き進めてくださいね~♪」と言って、王太子の学友達に彼を引き取らせたのだけれど。

 そろそろ手続きが終わったと連絡来るかな?とウキウキしてたのが嘘のよう。
 今や気分はどん底だ。

「どうもこうも……王太子が、あれは冗談だったと言ってるのだ。だから婚約解消はしない、らしい」
「はあああ!?ざけんな!」
「エレナちゃん、顔が恐いぞ!そして言葉遣いが悪い!!」
「……」
「あ、ちが!エレナ、しゃべってくれ!父と会話してくれえ!!」

 私は有言実行タイプなのです。言った通りに無視します!

 泣いて縋る父はこの際置いておく。問題は王太子だ。

 何を言ってるのだあの王子は。冗談だと?冗談で婚約解消だなんて言ったの?こともあろうに次の王となるべき人物が、一体何をほざいてるのだ!

 私は怒り心頭で父の部屋を後にするのだった。

「え、エレナちゃ……エレナ、どこへ行く!?」

 慌てる父の問いに答えることもなく、私は自室へと戻り外出の準備をするのだった。

 向かう場所はただ一つ。

 いざ、王城へ!!



* * *



「本日王太子は公務で外出中でございます。お戻りは明日になります」

 バッドタイミング!なんで真面目に公務してるかな、あの馬鹿は。というか公務やってる場合か、まずは婚約解消の手続き終えてからでしょうが!順番間違えるな!

 地団駄踏んで叫びたいところだけど、ここは我慢。王族──というより国に仕えてる人たちに八つ当たりしたところで意味はない。対応してくれた彼らに罪はない。
 私に出来るのは、せいぜい大きな溜め息をついて回れ右するくらいであった。

 ……まあ事前に約束取り付けてから訪問するのが礼儀だし。無礼なことしといて留守に怒るわけにもいかない(怒ってるけど)。

 仕方ない、出直すか……と帰ろうとしたところで見知った顔に出くわすのだった。

「おやエレナ様ではありませんか。今日はどうされたんですか?」

 どこぞの阿呆を思い出させる金髪碧眼の持ち主。どこぞの阿呆に似た整った顔立ちの主は、けれど阿呆とは違って文句を言う事もなく、私に笑顔と共に話しかけてくるのだった。

「ごきげんよう、ハンス様。……あなたのお兄様に会いに来たのですが、お留守とのことで……今日は帰りますわ」
「兄にですか?それはまた珍しい。何かあったのですか?」

 そう言って。
 あの阿呆……つまりはこの国の第一王子であるデニスの弟、第二王子のハンス様は心配げに顔を覗き込んでくるのだった。──兄の方に『様』付けるの忘れてるけど、心の声だしまあいいか。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

その方は婚約者ではありませんよ、お姉様

夜桜
恋愛
マリサは、姉のニーナに婚約者を取られてしまった。 しかし、本当は婚約者ではなく……?

手のひら返しが凄すぎて引くんですけど

マルローネ
恋愛
男爵令嬢のエリナは侯爵令息のクラウドに婚約破棄をされてしまった。 地位が低すぎるというのがその理由だったのだ。 悲しみに暮れたエリナは新しい恋に生きることを誓った。 新しい相手も見つかった時、侯爵令息のクラウドが急に手のひらを返し始める。 その理由はエリナの父親の地位が急に上がったのが原因だったのだが……。

婚約破棄してきた王子、我が父に復讐される。~彼はすべてを失いました……意外な形で~

四季
恋愛
婚約破棄してきた王子、我が父に復讐される。

殿下は、幼馴染で許嫁の没落令嬢と婚約破棄したいようです。

和泉鷹央
恋愛
 ナーブリー王国の第三王位継承者である王子ラスティンは、幼馴染で親同士が決めた許嫁である、男爵令嬢フェイとの婚約を破棄したくて仕方がなかった。  フェイは王国が建国するより前からの家柄、たいして王家はたかだか四百年程度の家柄。  国王と臣下という立場の違いはあるけど、フェイのグラブル男爵家は王国内では名家として知られていたのだ。   ……例え、先祖が事業に失敗してしまい、元部下の子爵家の農家を改築した一軒家に住んでいるとしてもだ。  こんな見栄えも体裁も悪いフェイを王子ラスティンはなんとかして縁を切ろうと画策する。  理由は「貧乏くさいからっ!」  そんなある日、フェイは国王陛下のお招きにより、別件で王宮へと上がることになる。  たまたま見かけたラスティンを追いかけて彼の後を探すと、王子は別の淑女と甘いキスを交わしていて……。  他の投稿サイトでも掲載しています。

王子殿下は天邪鬼で御座いますから

cyaru
恋愛
~序章~ 王太子アレコスは婚約者エカテリニとは違う女性カリスを愛してしまった。 疫病が蔓延し多くの民が天に召されていく中、後継者もアレコスのみとなり放逐も出来ない王家。 国王と王妃は婚約者の侯爵令嬢エカテリニに全ての権利を委ねる事に決める。 カリスと添い遂げたいアレコスは婚約解消を言い出すものの上手く行かず、自ら王籍を離れる事を決意しエカテリニに相談をする。 エカテリニは【側妃とすればいい】とアレコスに告げた。 アレコスはエカテリニの言葉通りにカリスを側妃に迎えるのだが…。 ~本編~ 女王として君臨するエカテリニ。 自身の子である第一王子と側妃カリスの産んだ第二王子。 アレコスとカリスには思う所はあるものの、子供に罪はないと第二王子も我が子の第一王子と同様に教育やマナーを学ばせ、婚約者も選んだ。 第一王子は座学は出来るのだが覇気がない。何事にも引っ込み思案で一人では決断できない性格。 かたや第二王子は座学は大嫌い。粗暴で婚約者のパスティーナにも暴言を吐くのだが、失敗しても前に進んでいく性格。 そんな王子2人が19歳になり、エカテリニも退位の時期を考えはじめた時…問題が起こった。 序章としているのは親世代の話です。 本編に出てくる出来事や王子2人の性格が、「あぁなるほどね」と親世代の話から判って頂けるかな?と思います。 序章と本篇、温度があります。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

失礼な人のことはさすがに許せません

四季
恋愛
「パッとしないなぁ、ははは」 それが、初めて会った時に婚約者が発した言葉。 ただ、婚約者アルタイルの失礼な発言はそれだけでは終わらず、まだまだ続いていって……。

婚約破棄を受け入れたはずなのに

おこめ
恋愛
王子から告げられた婚約破棄。 私に落ち度はないと言われ、他に好きな方が出来たのかと受け入れると…… ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

処理中です...