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しおりを挟む「婚約解消の話は無かった事に、とのことだ」
「──は?」
学園が休みの日に父から呼び出しがあった。執務で忙しく、食事すらも一緒にとれない人が何の用だと思えば、開口一番言われたのがこれ。そりゃ思い切り眉をしかめますよ。
「エレナちゃん、顔が恐いぞ」
「ちゃん付けないでください」
「エレナちゃん、父親に向かってその言葉遣いは乱暴すぎると思うのだが」
「父親だからこそです。次ちゃん付けしたら無視します」
「エレナちゃ……茶でも飲むか」
強引に誤魔化したな。
いかにも恐い父を演じてるくせに、どうして私の名前にだけはちゃん付けるかな。威厳も何も粉々だわ。私はキリッとした父が好きなのです。なのでスパルタ。
そして他人の前では猫をかぶってますけど、さすがに家でまでそんな事はしてられません。ストレス溜まるわ。なので基本、家では素です。私の素はきっと庶民派思考の母が影響してるのでしょう。母もきっとストレス解放を求めてるんだろうな。
余談はさておき。
「婚約解消が無かった事に、とはどういうことですか?」
先日、突然王太子であるデニス様がぶん投げてきた爆弾。発言。
それに歓喜の雄たけびを上げたのは、まだ記憶に新しい。
顎を押さえてうずくまる王太子に、「早く手続き進めてくださいね~♪」と言って、王太子の学友達に彼を引き取らせたのだけれど。
そろそろ手続きが終わったと連絡来るかな?とウキウキしてたのが嘘のよう。
今や気分はどん底だ。
「どうもこうも……王太子が、あれは冗談だったと言ってるのだ。だから婚約解消はしない、らしい」
「はあああ!?ざけんな!」
「エレナちゃん、顔が恐いぞ!そして言葉遣いが悪い!!」
「……」
「あ、ちが!エレナ、しゃべってくれ!父と会話してくれえ!!」
私は有言実行タイプなのです。言った通りに無視します!
泣いて縋る父はこの際置いておく。問題は王太子だ。
何を言ってるのだあの王子は。冗談だと?冗談で婚約解消だなんて言ったの?こともあろうに次の王となるべき人物が、一体何をほざいてるのだ!
私は怒り心頭で父の部屋を後にするのだった。
「え、エレナちゃ……エレナ、どこへ行く!?」
慌てる父の問いに答えることもなく、私は自室へと戻り外出の準備をするのだった。
向かう場所はただ一つ。
いざ、王城へ!!
* * *
「本日王太子は公務で外出中でございます。お戻りは明日になります」
バッドタイミング!なんで真面目に公務してるかな、あの馬鹿は。というか公務やってる場合か、まずは婚約解消の手続き終えてからでしょうが!順番間違えるな!
地団駄踏んで叫びたいところだけど、ここは我慢。王族──というより国に仕えてる人たちに八つ当たりしたところで意味はない。対応してくれた彼らに罪はない。
私に出来るのは、せいぜい大きな溜め息をついて回れ右するくらいであった。
……まあ事前に約束取り付けてから訪問するのが礼儀だし。無礼なことしといて留守に怒るわけにもいかない(怒ってるけど)。
仕方ない、出直すか……と帰ろうとしたところで見知った顔に出くわすのだった。
「おやエレナ様ではありませんか。今日はどうされたんですか?」
どこぞの阿呆を思い出させる金髪碧眼の持ち主。どこぞの阿呆に似た整った顔立ちの主は、けれど阿呆とは違って文句を言う事もなく、私に笑顔と共に話しかけてくるのだった。
「ごきげんよう、ハンス様。……あなたのお兄様に会いに来たのですが、お留守とのことで……今日は帰りますわ」
「兄にですか?それはまた珍しい。何かあったのですか?」
そう言って。
あの阿呆……つまりはこの国の第一王子であるデニスの弟、第二王子のハンス様は心配げに顔を覗き込んでくるのだった。──兄の方に『様』付けるの忘れてるけど、心の声だしまあいいか。
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