姉にざまぁされた愚妹ですが何か?

リオール

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「きゃあ!?」

 かなり力強く突き飛ばされた私は、踏ん張る事も出来ずに床に倒れ込んだ!

 体に痛みが生じるが、それどころではなかった。

 何?
 今何が起きたの?
 王太子は何て言った?

「の、ノルドス様?」
「何度も言わせるな、気安く名を呼ぶなと言っただろうが」

 その声はどこまでも冷たい。これ程までに冷たい声音で話しかけられたことなど無くて、ヒュッと喉が鳴るだけで、声を出せなかった。
 何が起きてるのだろう?
 驚いて周囲を見回して。

 その時初めて気付いた。

 驚いてるのは──私だけだ。

 騎士団長子息も。
 宰相子息も。
 他の高位貴族の子息達も。

 誰も彼もが王太子の行動に疑問を持ってないようで……無表情で立ち尽くしていたのだ。

 いや少し違う。
 その瞳に浮かぶは嫌悪の色。

 私に向けられるのは、汚らしい物を見るような目で。冷え切った目に私は囲まれていたのだ。

「な、何なのよ一体……」

 どうして私にそんな視線を向けるの?
 私はとっても美人なのに。美しいのに。
 そんな私を見て目の保養にするならともかく、そんな冷たい目を向けられるなんて意味が分からないわ。

 何が何だか分からない。
 呆然とする私の側にその人が近づいたのを、しばらく気付けずにいた。

 床にへたり込んだままの私の頭上を、フッと影が差す。
 見上げて初めて気付いた。

「お姉様──」

 姉が私を上から覗き込んでいたのだ。

「おね……」
「残念だったわねエルシー」

 私の呼びかけを遮って姉は言葉を発した。
 その声音はどこまでも冷たい。

「お姉様?」
「こんな穴だらけの計画、バレないと思ったの?みんな、みいんな、情報はみいんな……全て私に筒抜けだったのよ?」
「──!!」

 そんな馬鹿な。

 私の計画は完璧だったはず!
 その為に、男共にこの身を与えたのよ!?それなのに──!!

 私は睨むように令息どもを見やった。だが軽く肩を竦めるのみ。

 そうか。頑なに私の体を抱こうとしなかったのはその為か。
 なるほど。
 全て──

「全て、お姉様の手の平の上だったということ?」
「そういう事よ」

 クスリと笑って姉はすっと離れた。

「今日の計画も勿論知ってたの。知ってて皆にお願いしたのよ。勿論ノルドス様にもね」
「どうして……」
「どうして?どうしては私が聞きたいわ。どうして私の婚約者であるノルドス様に手を出そうとしたの?私達はとてもうまくいってること、知ってるでしょう?」

 その言葉にカッとなった私は、すっくと立ちあがった。

「何がよ!」
「エルシー?」
「私の方が美しい!私の方が愛されて当然!私こそが王太子妃に──王妃にこそ相応しい!お前なんかより私の方が──!!」

 相応しい!

 叫びは最後まで発する事は出来なかった。

 パシンッと乾いた音が響く。

「──!!」
「の、ノルドス様!」
「私のイリアを侮辱するな」

 王太子が、私の頬を殴ったのだ。
 慌てて姉が静止するも、王太子の目には怒りが満ちていた。

 殴った?
 私の頬を?
 私は殴られたの?

 私が?
 可愛い私が?
 輝くように美しい私が?

「エルシー、プライドの高い貴女はこれくらいしないと反省しないと思ったのよ。だから私が皆さんにお願いして……だけどやりすぎたと思うわ、ごめんね。お願いだから私だけでなく皆に謝罪を。そうすれば悪いようには……」
「うるさい」

 流石に姉は、このままではまずいと思ったのだろう。
 どうにか丸く収めようとしたのだろう。

 それは姉の思いやり。
 私への思いやり。

 けれど。

 私は。

「エルシー……?」
「うるさい!!!!」

 私がやった事は。

 隠し持った短刀で、姉に斬りかかる事だった。




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