9 / 10
9、
しおりを挟む「きゃあ!?」
かなり力強く突き飛ばされた私は、踏ん張る事も出来ずに床に倒れ込んだ!
体に痛みが生じるが、それどころではなかった。
何?
今何が起きたの?
王太子は何て言った?
「の、ノルドス様?」
「何度も言わせるな、気安く名を呼ぶなと言っただろうが」
その声はどこまでも冷たい。これ程までに冷たい声音で話しかけられたことなど無くて、ヒュッと喉が鳴るだけで、声を出せなかった。
何が起きてるのだろう?
驚いて周囲を見回して。
その時初めて気付いた。
驚いてるのは──私だけだ。
騎士団長子息も。
宰相子息も。
他の高位貴族の子息達も。
誰も彼もが王太子の行動に疑問を持ってないようで……無表情で立ち尽くしていたのだ。
いや少し違う。
その瞳に浮かぶは嫌悪の色。
私に向けられるのは、汚らしい物を見るような目で。冷え切った目に私は囲まれていたのだ。
「な、何なのよ一体……」
どうして私にそんな視線を向けるの?
私はとっても美人なのに。美しいのに。
そんな私を見て目の保養にするならともかく、そんな冷たい目を向けられるなんて意味が分からないわ。
何が何だか分からない。
呆然とする私の側にその人が近づいたのを、しばらく気付けずにいた。
床にへたり込んだままの私の頭上を、フッと影が差す。
見上げて初めて気付いた。
「お姉様──」
姉が私を上から覗き込んでいたのだ。
「おね……」
「残念だったわねエルシー」
私の呼びかけを遮って姉は言葉を発した。
その声音はどこまでも冷たい。
「お姉様?」
「こんな穴だらけの計画、バレないと思ったの?みんな、みいんな、情報はみいんな……全て私に筒抜けだったのよ?」
「──!!」
そんな馬鹿な。
私の計画は完璧だったはず!
その為に、男共にこの身を与えたのよ!?それなのに──!!
私は睨むように令息どもを見やった。だが軽く肩を竦めるのみ。
そうか。頑なに私の体を抱こうとしなかったのはその為か。
なるほど。
全て──
「全て、お姉様の手の平の上だったということ?」
「そういう事よ」
クスリと笑って姉はすっと離れた。
「今日の計画も勿論知ってたの。知ってて皆にお願いしたのよ。勿論ノルドス様にもね」
「どうして……」
「どうして?どうしては私が聞きたいわ。どうして私の婚約者であるノルドス様に手を出そうとしたの?私達はとてもうまくいってること、知ってるでしょう?」
その言葉にカッとなった私は、すっくと立ちあがった。
「何がよ!」
「エルシー?」
「私の方が美しい!私の方が愛されて当然!私こそが王太子妃に──王妃にこそ相応しい!お前なんかより私の方が──!!」
相応しい!
叫びは最後まで発する事は出来なかった。
パシンッと乾いた音が響く。
「──!!」
「の、ノルドス様!」
「私のイリアを侮辱するな」
王太子が、私の頬を殴ったのだ。
慌てて姉が静止するも、王太子の目には怒りが満ちていた。
殴った?
私の頬を?
私は殴られたの?
私が?
可愛い私が?
輝くように美しい私が?
「エルシー、プライドの高い貴女はこれくらいしないと反省しないと思ったのよ。だから私が皆さんにお願いして……だけどやりすぎたと思うわ、ごめんね。お願いだから私だけでなく皆に謝罪を。そうすれば悪いようには……」
「うるさい」
流石に姉は、このままではまずいと思ったのだろう。
どうにか丸く収めようとしたのだろう。
それは姉の思いやり。
私への思いやり。
けれど。
私は。
「エルシー……?」
「うるさい!!!!」
私がやった事は。
隠し持った短刀で、姉に斬りかかる事だった。
6
お気に入りに追加
522
あなたにおすすめの小説

罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。


私を選ばなかったせいで破滅とかざまぁ、おかげで悪役令嬢だった私は改心して、素敵な恋人できちゃった
高岩唯丑
恋愛
ナナは同級生のエリィをいびり倒していた。自分は貴族、エリィは平民。なのに魔法学園の成績はエリィの方が上。こんなの許せない。だからイジメてたら、婚約者のマージルに見つかって、ついでにマージルまで叩いたら、婚約破棄されて、国外追放されてしまう。
ナナは追放されたのち、自分の行いを改心したら、素敵な人と出会っちゃった?!
地獄の追放サバイバルかと思いきや毎日、甘々の生活?!
改心してよかった!

縁の鎖
T T
恋愛
姉と妹
切れる事のない鎖
縁と言うには悲しく残酷な、姉妹の物語
公爵家の敷地内に佇む小さな離れの屋敷で母と私は捨て置かれるように、公爵家の母屋には義妹と義母が優雅に暮らす。
正妻の母は寂しそうに毎夜、父の肖像画を見つめ
「私の罪は私まで。」
と私が眠りに着くと語りかける。
妾の義母も義妹も気にする事なく暮らしていたが、母の死で一変。
父は義母に心酔し、義母は義妹を溺愛し、義妹は私の婚約者を懸想している家に私の居場所など無い。
全てを奪われる。
宝石もドレスもお人形も婚約者も地位も母の命も、何もかも・・・。
全てをあげるから、私の心だけは奪わないで!!

やっと婚約破棄してくださいますのね!
ねここ
恋愛
この国の王族・貴族は、生まれてすぐ「仮婚約」が決まってしまうことが多い。
ソフィアが生まれてすぐ仮婚約を結ばされたのは第一王子だったが、これがありえないくらいの頭お花畑のお馬鹿さんに育った。
一方、私にくっついて王城に通っていた妹ミリアが仲良くなった第五王子は、賢王になること間違いなしと噂されていた。
1貴族から王家に嫁げるのは1人だけ。
妹ミリアを賢王に嫁がせるため、将来性皆無の第一王子から「仮婚約」破棄を言い渡させるため、関係者の気持ちが一つになった。

婚約破棄されるまで結婚を待つ必要がありますか?
碧桜 汐香
恋愛
ある日異世界転生したことに気づいた悪役令嬢ルリア。
大好きな王太子サタリン様との婚約が破棄されるなんて、我慢できません。だって、わたくしの方がサタリン様のことを、ヒロインよりも幸せにして差し上げられますもの!と、息巻く。
結婚を遅める原因となっていた父を脅し……おねだりし、ヒロイン出現前に結婚を終えて仕舞えばいい。
そう思い、実行に移すことに。


いつもわたくしから奪うお姉様。仕方ないので差し上げます。……え、後悔している? 泣いてももう遅いですよ
夜桜
恋愛
幼少の頃からローザは、恋した男性をケレスお姉様に奪われていた。年頃になって婚約しても奪われた。何度も何度も奪われ、うんざりしていたローザはある計画を立てた。姉への復讐を誓い、そして……ケレスは意外な事実を知る――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる