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しおりを挟む「お姉様がいぢめるんですぅ」
ある日ある時ある場所で。
つまりは学園の休み時間に、三年生の学舎にて。
キラキラお目々が今日も可愛いね、ときたもんだ。
誰のって?もちろん私の、だ。
ウルウルキラキラな目を王太子に向けて、私は王太子に訴えかけていた。勿論人目のない場所で。
こっそり王太子の教室来て、こっそり王太子呼び出して、こっそり校舎の片隅に引っ張って来て。
どうしたんだい?と優しく問いかける王太子に、私は言ったのだ。すなわち冒頭の言葉を。
「虐める?イリアが?キミを?」
「はい。昨日も髪を引っ張られました……う、ううう……」
見よ、この渾身の演技を!目薬さして涙流すなんざあ三流よ、本物はどんな時でも泣ける演技が出来るのさ!
私は昨日あったという姉からの仕打ちを、涙涙に王太子に語って聞かせるのだった。
そんな私の訴えを、眉根を寄せて神妙な面持ちで王太子は聞いていた。
「ちょっと信じられないな。イリアがそんな事するなんて……」
「私が嘘を言ってると?」
「いや、そういうわけでは……」
はい、ここで涙ポロポロー!よし出たあ!名演技、ひゅー!
その涙に慌てたように王太子はオタオタするが、そこで間髪入れずに次の演技に移るのが女優のなせるわざ!
私はガバッと王太子の胸に飛び込むのだった。
「お願いですノルドス様、私を姉から守って下さい!」
「え?えええ?ええっと……」
戸惑いつつも、けれど王太子は私を邪険にするような真似はしなかった。胸元に顔をこすりつけてクスンクスンと言ってる私の頭を優しく撫でてくださるのだ!おほほ~。
「ノルドス様……」
う~ん、いい雰囲気。これは押すべきかしら?
と、顔を上げようとしたところで。
グイッと肩を押されてしまった、ああん。
「とりあえず、私からイリアに聞いてみるよ」
「え……」
「彼女がそんなことすると思えないんだよね。何か事情か誤解があるのかもしれない」
げ、それはまずい!
その言葉に私は慌てるのだった。
「お待ちくださいノルドス様!聞いても姉はシラを切るだけです!それよりも動かぬ証拠を掴んでから、またお話ししますわ!」
「え?でも──」
「下手に動いて、更にお姉様からの虐めが酷くなったら……そんなのは耐えられません」
そしてまた涙を流して訴えるのだった。
それを見て王太子は大きく頷いてくださった。
「分かった。じゃあ本当にイリアが君を虐げてるのかどうか……証拠が出来たら見せて欲しい」
「はい、分かりました」
証拠なんて無いけどね。当然姉は私に何もしてないんだから。
だが捏造くらい簡単に出来るだろう。
未だ涙を流す私にハンカチを差し出してくださった優しい王太子様。
その彼が立ち去るのを見送りながら……私は内心ほくそ笑むのだった。
待ってなさいよ馬鹿お姉様。目にもの見せて上げますわ。
もう王太子は私のものになったも同然。
そう確信した私は、心の中で大笑いするのだった。
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