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しおりを挟む「ごめん、エルシー。もう一度言ってくれる?」
どうやら姉の耳は遠いらしい。もう耄碌してるんじゃないの?
とは言わないわよ、私は優しいから。姉の愚かさを指摘するほど酷い妹じゃないの、私は。
だから優しい私は、もう一度言ってあげた。
「ですからイリアお姉様、ノルドス王太子の婚約者の座、私に譲ってくださいな」
「──ごめん、もう一度」
まだ聞こえないの!?耳垢が詰まってんじゃないの!?
そう言ってやりたいのだけど、両親の目があるからここはグッとこらえましょう。
私は向かいに座る姉にグッと顔を近づけて。
ソファから身を乗り出して、大きな声でもう一度言った。
「王太子の婚約者の座、私に譲ってください」
だけどそんな私に眉根を寄せて、お姉様は何て言ったと思う?
あろうことか「もう一度」と言ったのよ!?
いい加減、切れてもいいと思うの。というか切れるわよね、普通!
「だから王太子の婚約者の座を譲れって言ってんのよ!何度言ったら聞き取れるの!?耳掃除しなさいよ、この馬鹿!!」
「なんですってぇ!?あまりの内容に思わず聞き返しただけでしょうが!エルシー、姉に向かってなんて口を……!!」
「馬鹿だから馬鹿って言ってんのよ!姉だからなんだってのよ、自分が王太子に相応しいと本気で思ってんの!?私こそが相応しいのよ、美しいこの私こそが──あだぁっ!!」
姉妹喧嘩勃発!となりかけた瞬間──!
生じた痛みによって私が悲鳴を上げて、それは不発となった。頭を押さえながら痛みの元を見れば──お父様が凄い形相で側に立って居た。お父様が私の頭を殴ったのだ!その右手に握ってるの、何ですか!?
「何するんですかお父様!!何ですの、そのスリッパは!!」
「この馬鹿娘が!自分が何言ってるのか分かってるのか!?そんな馬鹿娘にはスリッパで殴るのが一番に決まっておろうが!」
「そんな決まり知りません!そもそも私は馬鹿ではありませんわ、お姉様こそが──いだあっ!!」
またスリッパで殴ったああぁ!これ虐待じゃないの!?お母様、お父様がいぢめるぅ~!
と涙目で母を見たら、呆れた顔で私を見つめる母が居た。紅茶を一口飲んで「はあ……」と盛大な溜め息をつかれてしまった。何なのよ!
「王家は我が公爵家の娘と王太子との婚約を望まれてるのでしょう!?だったら私でも良いはずです!私こそが……美しい私こそが王太子には相応しいのです!!」
「美しさだけで婚約が決まるわけないだろう!!」
「じゃあどんな理由があるんですか!!」
美しさ以上の基準がこの世にあろうか!
美は正義!
美しい私こそが正しいのよ!
と叫ぼうとしたらスリッパを振りかぶられたので黙る。危険察知して黙る。あのスリッパ、鉄か何か仕込んでんじゃないの?
「鉄が入ってたら、今頃流血してるわよ」
「煩いですわよお姉様」
冷静に突っ込まないでくれます?そんな事分かってますよ。
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