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21、
しおりを挟む「いやあああぁぁっ!!」
心地よい悲鳴が聞こえる。
ロアラの泣き叫ぶ声が響く。
「やめろ!貴様ら、誰に手出ししているのか分かってるのか!?」
テルディスが必死の形相で叫ぶ。いい顔をしてるなとウットリ見入ってしまう。
国王はテルディスにしがみつくしか出来ない無能だ。
そして、更に増えた存在に私の笑みは絶えない。
「まあお父様にお義母さま、掴まってしまわれたのですか?」
「リーナ!貴様……!!」
彼に力があれば、その視線で私を殺すことが出来ただろう。それほどの殺気だった視線を父は私に向けていた。
けれど残念、父は無力だ。
城に押し寄せた民衆。
そして城内の騎士に使用人。
誰一人救わない。私を陥れた連中を、虐げた連中を救う者は誰一人居なかった。
この世界を滅びの危機に晒した彼らは、稀代の大罪人となった。
おそらくその身は焼かれ、骨まで残さず地獄へと落とされる事だろう。
「た、助けろ……!」
歯をガタガタ震わせながら。
民衆に縄をかけられ引きずられながら。
それでもなお、彼らは私に懇願する。
遥か高く、天空からその光景を見下ろす私を。私とスピニスを見上げて。
涙を浮かべながら彼らは助けを乞うのだ。
「今すぐ助けろ、リーナ!私を誰だと思っている!お前の父だぞ、お前のその身に流れるは私の血だぞ!」
「汚い……唾を飛ばさないでくださいな」
まさか飛んでは来ないだろうが、それでも必死に唾を吐きながら叫ぶ様に、眉間に皺が寄る。
「今更父親面されましてもねえ……そんなに血が大事ですか?」
「お前が今生きてるのは誰のおかげだ!?私という存在があったからだろうが!」
散々放置し見捨てておきながらよくもまあ……。
厚顔無恥な台詞を吐く男に、吐き気を感じる。
だが私が何か手を出す必要はない。もうその必要は無かった。
「こいつ……!聖女様に対してなんて無礼な!」
「誰のせいで世界が滅びそうになってると思ってんだ!」
「よくも俺らの命を危険にさらしてくれたな!絶対許さねえ!」
民衆の手が伸びる。
「!?やめろ、触るな!ぐ!やめろ、やめてくれ……痛い!いだいいい!!!」
民衆に埋もれて見えなくなってしまった男の姿。けれど何が起きたかは想像に難くない。
血が飛び、断末魔の叫びが響き……そして消えた。
残るは男の残骸のみ。
けれど私には何の感慨もなかった。感傷は生まれなかった。
魔女たる私には、全てが楽しい遊びのようだから。
ただ気分が高揚するのみ。
「ふふ、いいわ、いいわよ……少しだけ望みましょう。聖女たる私が、少しだけ、貴方達に希望をあげましょう」
そう言えば、バッと人々は天空を仰ぐ。
聖女たる私へ頭を垂れる。
「ああ、ありがとうございます、聖女様!」
「もっと罰を与えますので、気をお沈めください、魔女様!」
そうして手は伸びる。
今度は女へと。
父の最期を声も出せずに蒼白な顔で見ていた義母へと。
その顔が、バッと私に向いた。
幼い頃から見てきた、汚い物を見るような目を私に向ける。
「リーナ……この売女!あばずれ!これまでの恩を忘れて……なんて女だい!この悪魔!」
「残念、私は魔女です。近いけれど少し違いますわ」
そう言ってニッコリ微笑みを向けてやれば。
それはかなり壮絶な笑みだったのか、義母は言葉を失った。
「貴女という存在は私にとって無意味無価値、ですわね。本当に……この世界にこれほど不要な存在、初めてですわ」
それでおしまい。私はもう興味を失って視線を義母から外した。
それが合図。
悲鳴と共にグシャリと聞こえて。
そして何も聞こえなくなった。
「お母様……少しは気が晴れましたか?」
きっと母は父の裏切りと愛人の存在を知っていたのだろう。最期に見せた悲し気な笑みをふと思い出す。
私は随分近くなった天を仰ぎながら。
少し感傷に浸って涙を一筋こぼした。
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