2 / 23
2、
しおりを挟む「汚い手で触らないでよ!」
「でもロアラ!それは私がテルディス様から戴いたもので──」
テルディス様。
それはこの国の次期王となる、第一王子にして王太子である方。
私と同じ貴族のための学園に通う、クラスメートであり、そして……。
「テルディス様はあんたに贈ったんじゃないわよ!『婚約者』に贈ったんでしょ!」
「だから、私が──」
「あんたじゃない!!」
そんなテルディス様の婚約者が私だなんて、何の間違いかと衝撃を受けたのはほんの七年前。まだ十になったばかりの私は、王家からの使いがもたらしたその知らせに呆然となったものだけど。
それは間違いなんかじゃなかったと知った時の嬉しかった事。
頻繁に会いに来て下さるテルディス様の優しさが、愛が。私をとても幸せにしてくださった。
母を亡くした時の言い知れぬ喪失感を乗り越えられたのも。母の葬儀の翌日に父が愛人を正妻にしたショックに耐えられたのも。
全て全て、彼のお陰なんだ。
だから私は厳しい王妃教育にも耐えられる。頑張れる。
学園に入ってからは毎日彼に会える事が嬉しかった。幸せだった。
彼は変わらず私に愛を囁き。
そして頻繁に贈り物をくださる。
王家は国民の血税で支えられているから。だから高価な物など要らないと言えば。
社会見学と称して、身分を隠して仕事をするような変わった王太子。
驚くような事を平然としてのける彼の事が、どうして嫌いになれよう。
だからずっと耐えられたのだ。
父の私への無関心も。
義母やロアラによる、嫌がらせも。
心も体も痛みで悲鳴をあげようとも、耐えられたのに。
拠り所である王太子からの大切な贈り物が、今目の前のロアラが持っている。
その事が耐えられなかった。
なのにロアラは、それは『私への贈り物』ではないと言う。
何を言ってるのかと眉間に皺を寄せていると、不意に寒気が襲い、くしゃみが出た。
当然だ、屋内とはいえ季節は冬。ずぶ濡れの状態で平気でいられるはずがない。
そんな私をロアラは鼻で笑う。
「ふん、とっとと風邪をこじらせて死んでしまえばいいのよ!お前なんて公爵家長女だから王太子の婚約者になれただけだというのに!でなければ、誰がお前のような不器量で辛気臭い娘……!王子が婚約者を決める時に私が居れば、絶対私が選ばれていたのよ!そんな事も分からないの!?」
そう言って、ロアラはバサッと自身の肩にかかった髪を払いのけた。
その、ピンクの髪。
目がチカチカするそれは、見事に義母譲りだった。
2
お気に入りに追加
2,452
あなたにおすすめの小説
四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?
青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。
二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。
三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。
四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
すてられた令嬢は、傷心の魔法騎士に溺愛される
みみぢあん
恋愛
一方的に婚約解消されたソレイユは、自分を嫌う義母に新たな結婚相手を言い渡される。
意地悪な義母を信じられず、不安をかかえたままソレイユは、魔獣との戦いで傷を負い、王立魔法騎士団を辞めたペイサージュ伯爵アンバレに会いに王都へと向かう。
魔獣の呪毒(じゅどく)に侵されたアンバレは性悪な聖女に浄化をこばまれ、呪毒のけがれに苦しみ続け自殺を考えるほど追い詰められていた。
※ファンタジー強めのお話です。
※諸事情により、別アカで未完のままだった作品を、大きく修正し再投稿して完結させました。
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
聖女クローディアの秘密
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
神託によって選ばれた聖女クローディアは、癒しの力もなく結界も張れず、ただ神殿にこもって祈るだけの虚しい日々を送っていた。自分の存在意義に悩むクローディアにとって、唯一の救いは婚約者である第三王子フィリップの存在だったが、彼は隣国の美しい聖女に一目ぼれしてクローディアを追放してしまう。
しかし聖女クローディアには、本人すら知らない重大な秘密が隠されていた。
これは愚かな王子が聖女を追い出し、国を亡ぼすまでの物語。
妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。
国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。
「もう無理、もう耐えられない!!」
イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。
「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。
そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。
猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。
表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。
溺愛してくる魔法使いのリュオン。
彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる――
※他サイトにも投稿しています。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
【第一章完結】半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる