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12、
しおりを挟む汗が頬を伝う。
暑いからじゃない。緊張からだ。
私は何も言えなかった。何か言わなくてはいけないのに。誤解を解かねばならないのに。
けれど愚かな私の頭は、うまい言い訳を考えてはくれないのだ。
ガタンッ
不意に馬車が音を立てて止まった。
着いたのだろうか?カルシスの屋敷に。
ではひとまずカルシスとは別れて……公爵邸に戻ったら、すぐにお父様に相談しよう。
そう思いながら窓の外に視線をやった私は、驚愕に目を見開くこととなる。
「え──ここ、どこ……?」
いつの間にこんな場所に来ていたのか。
そこは視界一杯に木々が広がる……森の中、だったのだ。
目の前にそびえ立つのは、森の中に隠れるように建てられたこじんまりした屋敷。
「ここね。俺の別荘」
「え!?」
「気付かなかった?」
気付かなかった?
何に?
道が違う事に?
それとも御者が別人であった事に?
どれにしても、完全に自分の失態だ。何という事だろう、どうして私はこうも抜けてるのだ。
親友と婚約者の裏切りにも気付かず。
証拠集めも上手くいかない。
挙句の果てに──婚約者による拉致、だ。
間抜けにもほどがある。
「私を……どう、する気?」
「心配しなくても酷いことはしないよ。……いや、するかな?」
どっちなのよ。
嫌な予感しかしない私の背中を、冷たい汗が伝うのを感じた。
逃げなければ。
──でもどうやって?
馬車から降りると同時に走り出す?ここが何処かも分からないのに?下手すれば森の奥に向かってしまって、あっという間に遭難だ。それは避けたい選択肢だ。
ではどうするか。
まずは大人しく捕まって、機を見て逃げる。もうこれしか無いだろう。
腹をくくった私は、ギロリとカルシスを睨みつけた。
「そんなに睨まないでよ、悲しいなあ」
「白々しい台詞ね」
「そんなことないさ。誰だって愛する人に睨まれたら悲しくもなるさ」
本当に白々しい!
愛する、ですって?
「──私を愛してる人が別の女性を抱くはずないわ」
「あ、やっぱりバレてたんだね」
「ええ。しかとこの目で見させて貰ったからね」
今更隠しだてするつもりもない。私は即答で頷いた。
それに対してカルシスはひょいと肩を竦めた。
「見られたのは痛いけど……でも嘘じゃ無いよ。俺が愛してるのはミーシャ、キミだけだ」
「……は?」
は?
本当に、は?だ。
何を言ってるのか理解に苦しむ。
「本当だよ。これからそれを証明してあげるから。まずは馬車を降りようか」
「……嫌だと言ったら?」
「俺に担がれて降りるのと自分の足で降りるのと。どっちがいい?」
「──自分で降りるわ」
担がれるなんてとんでもない!カルシスに触れられるだけでも鳥肌ものなのに!更に逃げるチャンスが減るだけではないか!
私はスッと立ち上がって扉に向かう。と同時にガチャリと扉が開かれて。
「どうぞ、お嬢様」
カルシスは優雅に私をエスコートするのだった……。
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