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11、
しおりを挟むガラガラと馬車の音が響く。
流れる景色を見て、そして正面に視線をチラリ。そこには。
「なんだい、ミーシャ?」
「……なんでも」
微笑むカルシス。
約束通り、今日はカルシスと共に帰宅だ。先日は吐きそうだったので断ったが、今日は事前に約束を取り付けられてしまった。また体調が悪いからと断る事も出来たが……それもそれで何とはなし気まずい。
証拠が撮れるまで。
婚約破棄するまでの辛抱だ!
そう自分に言い聞かせたのはいいけれど、やはり気分良いものではなかった。
特に今日は浮気が実行された日(おそらくだが)でもあるのだ。
そんな中で、よく一緒に帰ろうなどと言えるものだ。
その厚顔無恥な顔を張り倒してやりたい。
だが今は我慢だ。我慢の時だ。
婚約破棄したら、存分にその頬を張り倒してやろう。
だから、それまでは我慢しよう。
そんな思いがあるから、この狭い空間で共に在る事を受け入れられたのだ。
出来ればこのまま無言で屋敷に着いて欲しい。
そんな私の願いは
「ねえミーシャ」
叶う事はないのだけど。
「──なあに、カルシス」
演技。
私は女優。
うっすら笑みを浮かべて。
カルシスに恋する婚約者を演じるのだ!
「少し気になる事があるんだ」
「気になる事?」
「そう。リメリアのこと」
ドクン。
また心臓が跳ねる。
だが今回は心構えをしていたので、表面上は平静を装えた……と思う。
「リメリア?彼女がどうかしたの?」
「何か誤解をしてるんじゃないかなと思って」
ドクンドクン。
心臓がうるさい。けれど顔には出さない。
表情を作るのってこんなに難しかったかしら?
「誤解って?カルシス、何が言いたいのか分からないわ」
「彼女とは何も無いから」
何も分からないフリをする私に向かって、カルシスはキッパリと言い放った。
「──え?」
「こんな物を使って何を撮ろうとしてたのか知らないけど。俺が愛してるのはミーシャ、キミだけだから」
ドクンッ!!
いよいよもって心臓が飛び出しそうなくらいに跳ねた。私の演技は霧散する。
私は──驚愕の表情でもって、カルシスが持つそれを無言で見つめることしか出来なかった。
カルシスの手の中にある、それ。
それは──
「これ、確か映像記録用の魔道具だよね?希少な物だから俺も実物を見るのは初めてだけど。以前魔道具のカタログを見てた時のを覚えてたんだよね」
「カ、ルシ、ス……それは……」
「俺、こういうの扱い得意なんだよね。初めて見るのでもある程度操作方法分かるんだ」
「──そ、そんなの知らない、わ……」
「そう?でもね。これをこうしてこうすると……」
言いながら、小さい魔道具をいじくるカルシス。
そして、あるボタンを押した瞬間。
その魔道具は、瞬時に私の元へと飛んできた。
飛んで来て、私の汗ばむ手の平に着地して、止まった……。
「な……」
「持ち主の元へ戻る操作、したんだよ」
「──!!」
息を呑む私。
未だ笑みを崩さないカルシス。
車内は静寂に包まれ、ガラガラと聞こえる馬車の音は、どこか別世界のように響き続けるのだった。
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