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第四章~俺と伊織
エピローグ
しおりを挟む──ねえお聞きになりました? あの事件のこと。
──ええ、夫婦と高校生惨殺事件でしょ? こんな閑静な住宅街で、恐いわねえ。
──犯人は突入した警察の手から逃れ、今もって逃走中って話よ。早く捕まってほしいわ。
──高校生だったかしら? 恐いわねえ。
──幼馴染まで殺害しての逃亡なんて……まともじゃないわ。
──恐いわねえ。
──恐いわねえ。
近所の噂好きオバサン達が、ヒソヒソと声を潜めている。本人たちは小声のつもりだろうが、大声となっている会話を耳にしながら、私は家路につく。どうやらご近所で殺人事件が起こったようだ。真夜中の静かな住宅街がやけに騒がしくなっていたので、私もなんとなくは知っている。
だがご近所とはいっても、学年も学校も違う人達のことを私はよく知らない。
なぜ殺人なんてしたのか、その背景もなにも知らない私にとっては、ただの他人事だ。自分の生活が平穏で平和であるなら、なんの問題もない。こと私の世界は今日も幸せだ。
そんなことより、私には今とても重要な問題が起きている。
「ふふ、どんな服を着て行こうかなあ」
やっと憧れの先輩をデートに誘えたのだ。大好きな大好きな先輩。中学からの憧れで、一生懸命勉強して同じ高校に入った。ようやく誘えたデートに、私の脳内はフル回転。
どんな服を着てどんなメイクをしていこう? 先輩の好みって清楚な感じだったよね、なら白いロングワンピースで……
【ザザ……】
不意になにか音が聞こえて、私は足を止めた。キョロキョロと周囲を見渡すも、公園に向かう小学生に犬を散歩させているお爺さん以外、変わったことはない。
「気のせい?」
【ザザ、ザザザ……】
気のせいなんかじゃない、ハッキリ聞こえた。まるでテレビの砂嵐のような……雑音のような……。
「なに?」
【明日、ザーーーーが死にます】
「え、なに?」
雑音がひどくてよく聞き取れない。頭の片隅で(私は一体誰に話しかけているんだ?)と思いつつ、聞き返した。
だが音は繰り返されることはなかった。
シンと静まり返る。ふと見れば、小学生もお爺さんも犬も……誰も居なくなっていた。閑静な住宅街に私一人。
「……か、帰ろっと」
早く帰って明日の準備をしなくっちゃ。
なんとはなしに足早に駆け、次第に早まり、しまいにはダッシュで私は家へと向かった。
その時、私の耳にそれはハッキリと聞こえた。
【殺す人間を選択してください】
~「選択肢~殺す人間を選んでください」完~
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題名に興味を惹かれて読んでみました。ホラーは苦手なのですが面白かったです。続きも楽しみにしています。
嬉しいお言葉ありがとうございます!^^
なかなか忙しくて、書いたものを見直す時間がとれずアップが遅くなっております。
続き、早くアップできるよう頑張ります。