上 下
27 / 27
第四章~俺と伊織

エピローグ

しおりを挟む
 
 ──ねえお聞きになりました? あの事件のこと。
 ──ええ、夫婦と高校生惨殺事件でしょ? こんな閑静な住宅街で、恐いわねえ。
 ──犯人は突入した警察の手から逃れ、今もって逃走中って話よ。早く捕まってほしいわ。
 ──高校生だったかしら? 恐いわねえ。
 ──幼馴染まで殺害しての逃亡なんて……まともじゃないわ。
 ──恐いわねえ。
 ──恐いわねえ。

 近所の噂好きオバサン達が、ヒソヒソと声を潜めている。本人たちは小声のつもりだろうが、大声となっている会話を耳にしながら、私は家路につく。どうやらご近所で殺人事件が起こったようだ。真夜中の静かな住宅街がやけに騒がしくなっていたので、私もなんとなくは知っている。
 だがご近所とはいっても、学年も学校も違う人達のことを私はよく知らない。
 なぜ殺人なんてしたのか、その背景もなにも知らない私にとっては、ただの他人事だ。自分の生活が平穏で平和であるなら、なんの問題もない。こと私の世界は今日も幸せだ。
 そんなことより、私には今とても重要な問題が起きている。

「ふふ、どんな服を着て行こうかなあ」

 やっと憧れの先輩をデートに誘えたのだ。大好きな大好きな先輩。中学からの憧れで、一生懸命勉強して同じ高校に入った。ようやく誘えたデートに、私の脳内はフル回転。
 どんな服を着てどんなメイクをしていこう? 先輩の好みって清楚な感じだったよね、なら白いロングワンピースで……

【ザザ……】

 不意になにか音が聞こえて、私は足を止めた。キョロキョロと周囲を見渡すも、公園に向かう小学生に犬を散歩させているお爺さん以外、変わったことはない。

「気のせい?」
【ザザ、ザザザ……】

 気のせいなんかじゃない、ハッキリ聞こえた。まるでテレビの砂嵐のような……雑音のような……。

「なに?」
【明日、ザーーーーが死にます】
「え、なに?」

 雑音がひどくてよく聞き取れない。頭の片隅で(私は一体誰に話しかけているんだ?)と思いつつ、聞き返した。
 だが音は繰り返されることはなかった。
 シンと静まり返る。ふと見れば、小学生もお爺さんも犬も……誰も居なくなっていた。閑静な住宅街に私一人。

「……か、帰ろっと」

 早く帰って明日の準備をしなくっちゃ。
 なんとはなしに足早に駆け、次第に早まり、しまいにはダッシュで私は家へと向かった。
 その時、私の耳にそれはハッキリと聞こえた。

【殺す人間を選択してください】



 ~「選択肢~殺す人間を選んでください」完~
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

山咲莉亜
2024.03.04 山咲莉亜

題名に興味を惹かれて読んでみました。ホラーは苦手なのですが面白かったです。続きも楽しみにしています。

リオール
2024.03.04 リオール

嬉しいお言葉ありがとうございます!^^
なかなか忙しくて、書いたものを見直す時間がとれずアップが遅くなっております。
続き、早くアップできるよう頑張ります。

解除

あなたにおすすめの小説

アヴァランチピード 凍てつく山の白雪ムカデ

武州人也
ホラー
「絶対零度の毒牙をもつ、恐怖の人食い巨大ムカデ」 雪山の山荘で行われる「ブラック研修」。俺は日夜過酷なシゴキに耐えていた。同室の白石はそんな苦境から脱しようと、逃亡計画を持ちかけてくる。そんな中、俺は深夜の廊下で人を凍らせる純白の巨大ムカデを見てしまい…… 閉ざされた雪山で、巨大な怪物ムカデが牙を剥く! 戦慄のモンスターパニック小説。

月影の約束

藤原遊
ホラー
――出会ったのは、呪いに囚われた美しい青年。救いたいと願った先に待つのは、愛か、別離か―― 呪われた廃屋。そこは20年前、不気味な儀式が行われた末に、人々が姿を消したという場所。大学生の澪は、廃屋に隠された真実を探るため足を踏み入れる。そこで彼女が出会ったのは、儚げな美貌を持つ青年・陸。彼は、「ここから出て行け」と警告するが、澪はその悲しげな瞳に心を動かされる。 鏡の中に広がる異世界、繰り返される呪い、陸が抱える過去の傷……。澪は陸を救うため、呪いの核に立ち向かうことを決意する。しかし、呪いを解くためには大きな「代償」が必要だった。それは、澪自身の大切な記憶。 愛する人を救うために、自分との思い出を捨てる覚悟ができますか?

鏡よ、鏡

その子四十路
ホラー
──鏡の向こう側から【なにか】がわたしを呼んでいる。 聡美・里香子・実和子……三人の女たちと、呪いの鏡を巡る物語。 聡美は、二十歳の誕生日に叔母から贈られたアンティークの鏡が怖い。 鏡の向こう側から【なにか】が聡美を呼んでいる、待ち構えているような気がするからだ……

イシュタムの祝福

石瀬妃嘉里
ホラー
イシュタム。 マヤ神話における、自殺を司り、死者を楽園に導く女神。 そんな女神を崇拝する自殺サイト、“ヤシュチェの木陰”では、己の死を望む者達が集い、集団自殺パーティが行われようとしていた。 パーティの参加者の一人、〘シホ〙こと佐倉志帆の目的はただ一つ。 十年前に失踪した、双子の妹の行方を追う事だった。 調べに調べまくって、ようやく得た手かがり。 何があったとしても、必ず真実に辿り着いてみせる。 そう決意した志帆だったが。 女神に仕える巫女を名乗る、サイト管理者アカリ。 彼女によって開催されるゲーム、“イシュタムの祝福”は、ハングマンをベースにした、リアル首吊りゲームだった。 自殺志願者達は、楽園行きを求めて死を望み、一人デスゲーム状態の志帆は、自分と周りの死を阻止しつつ、妹の情報を得る為にゲームに挑む。 死への歓喜と嫌悪。恐怖と躊躇。 参加者達の感情と、主催者アカリの狂気的な信仰心が交差する集団自殺パーティは、やがて、意外な結末を迎える──。 ⚠注意⚠ この作品には、自殺を肯定する表現がありますが、決して自殺を推奨しているわけではありません。 なお、自殺幇助は犯罪です。

闇からの囁き〜雨宮健の心霊事件簿〜③

蒼琉璃
ホラー
 オカルトアイドル真砂琉花より依頼を受けた僕は、ネット上で噂される都市伝説『闇からの囁き』に遭遇する事になる。  配信中に自殺した会社員の女性を皮切りに連鎖していく呪い……。またしても僕と梨子、そしてばぁちゃんは怪異に巻き込まれていく。  雨宮健の心霊事件簿シリーズ第三弾! Illustrator suico様 ※この作品はエブリスタ、カクヨムでも掲載されております。

【SS】森のくまさん

仲村 嘉高
ホラー
ある日、森の中 くまさんに出会った……

食べたい

白真 玲珠
ホラー
紅村真愛は、どこにでもいそうなごく普通の女子高生、ただ一つ彼女の愛の形を除いては…… 第6回ホラー・ミステリー小説大賞応募作品 表紙はかんたん表紙メーカー様にて作成したものを使用しております。

封魄画帖

ちゃあき
ホラー
師範学校一年の倉科は美しい猥画描きの画家・石動と出会う。彼の持つ「封魄画帖」というスケッチ帖には主役の人物が欠けた風景画がかかれている。 そこに人の魂の陰部を描くことできれば絵は完成するらしい。絵の景色に似た橋で嘆く女の幽霊と出会い、彼女を絵に加えようとするがうまくいかない。その秘密をさぐることにするが…………。 Δ直接的な性描写はありませんが、卑猥な表現がでてくるためR15にしています。 Δおとな向けですがのんびりしたファンタジーです。 Δ年号を出していますが正確な時代背景に基づきません。精緻な設定を求められる方はごめんなさい。 Δ一部主人公の良心的ではない発言がありますが、石動の特徴と対比するものでそういった考えを推奨しません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。