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 それはスローモーションのようで。
 けれど実際は一瞬。

 勢いよく振り下ろされる剣に私は切られ、哀れ私は骸となる……

「わけあるかーーーーい!!」

 叫ぶや否や、私はバシッと剣を払いのけた!
 そう。
 剣、払いのけたのですよ!

 大事な事なので二回言っておきます。

「ふおへあ!?」

 あまりの事に王太子が意味不明なこと言ってますね。ふ、おまいには理解出来まい。お前じゃない、お前はもうおまいでいい。何言ってるのか自分でも分からない。

「ふははは!おまいの剣なぞ止まって見えるわい!!」

 いやあほんと、どうなってんだろうねコレ。自分でも分からないのだけど。

 骨折も治って。体の傷の痛みも無くなり。
 でもって簡単に王太子の剣を払いのけちゃった。

 何これ、私いきなり能力に目覚めた?無双状態入っちゃう?

 なんかもう、これはあれだ。

 今まで大人しく虐げられてた人間が、ブチ切れた時に起きちゃうあれ。

 豹変しちゃうあれだよね、それだよね、どれだよね、なんだろね。

「何を言ってるのだ貴様は」

 マルセイに突っ込まれた。
 私もそう思う。多分テンション上げ上げなんだと思います。

「か、カーラ……貴様ぁ……」

 剣を払いのけられた王太子が怒りMAXでこちらを睨んできた。いたくプライドを傷つけられたご様子。やだ、快感!

「いい面構えになったではありませんか、王太子」
「うるさい!」

 今更ながらの敬語がお気に召さなかったようだ。

「うるさいうるさい、うるさーい!もうお前は死ね、死んでしまえ!!」
「うわ、語彙が陳腐すぎてウケる、ププ~」
「──!!こんのおおおお!!」

 完全に切れた王太子は冷静さに欠けていた。
 しっちゃかめっちゃか剣を振り回して突進してきたのだ!

「次期王たる者、これくらいで冷静さを欠いてちゃ駄目ですよ~。ほら、こうやって私のように……」

 ひょいひょいとその剣をかわし、フッと私は腰を落とした。

 その頭上を剣が横ぎった直後……一気に飛び上がる!!

「んんんん冷静にパーンチ!!!!」

 別名アホは飛んでけパーンチ!略してアんパー……ゲホゲホ!むせた!

 飛び上がりながら、叫びながら、むせながら!
 繰り出したパンチが王太子の顎にクリーンヒット!!

ドッゴオオオン!!!!

 いい音したわあ!

「ふごへぐあぁぁぁぁぁ……!!」

 そうして。
 馬鹿な王太子は馬鹿な叫びを残して。
 遠くのお空へと飛んで行ってしまいました。

 キランて光ったよキランて!!

「王太子いぃぃぃ!!!!」

 叫んでるのは誰だろう、どっかの貴族か民衆か。まあどうでもいいわ。

 私はパンパンと手の埃を払いながら、満足げな笑みを浮かべるのだった。

 とりあえず馬鹿一匹駆除完了!──やだ、漢字だらけだとカッコ良くなるわね!




 パンパンと埃を払い終えた私は。
 クルッと後ろを振り返った。

「ひぎゃ!」

 あら、ひどい声。いや顔か。

 面白い程に青ざめた顔のレイシア──妹がそこに居た。

「あら、レイシア。どうしたの?姉をそんな目で見ないでよ」
「だ、誰が……」
「誰が姉だって?そうね、私も貴女を妹とは思ってないわ。手当たり次第に男と寝るような女、妹だなんて思いたくないもの」
「な……!!で、出鱈目言わないでよ!」
「目が泳いでるわよ」
「泳いでないわよ!私の目はいつだってスックと立ち泳ぎよ!!」

 立ち泳ぎって!いやそれ泳いでるし!立ち泳ぎって泳いでるからね!?

 キョドリすぎて何言ってんのか自分でも分かってないんだろうなあ。

「婚約破壊女王の異名を持ってるくせに、何を今更」
「なななななな!何言ってんの!?ばっかじゃないの!?ばっかじゃないのおお!?」
「二度言うな、失礼なやつだな」
「失礼なのはあんたよ!あたしは清い女なんだから!悪女のあんたと一緒にするんじゃないわよ!」
「ひど!貴女の初体験である一昨年の夏、男とアハンウフンしてるの丸聞こえだったのを黙って放置してやったってのに!そういうこと言うか!?」
「一昨年の夏ちゃうわ!三年前よ!」
「なお悪いわ!お前いくつやねん!」
「どこの方言よそれはああああ!!!!」

 なんかもう焦りまくりすぎて爆弾発言したの気付いてないようですが。
 いいんですかレイシアさんや。

 貴女の取り巻きがいつの間にか微妙に距離とってますよ。

「れ、レイシア……?俺意外の男とも寝たのか?」
「マルセイ!?何言って……」
「え、マジかよ!マルセイ殿、レイシア嬢とそういう関係もってるのですか?じゃあ私だけじゃないのか!?」
「嘘だろ!俺だけだと思ってたのに!」
「何だって、お前もか!?」

 う~わ~私が知ってる以上の数いるなあ。凄いな、我が妹ながら。ドン引くわ。
 驚いたのは、貴族令息だけじゃなく一般人からも「俺も……」なんて言葉が出てる事だ。レイシア……お前凄いわ。感心したくない方向で感心しちゃうわ!

「おま……そんなにアハンウフンが好きなのか?」
「アハンウフン言うなああ!男なんて抱かせてやればチョロいのよ!簡単に言う事きくんだから!ツルペタのあんたには出来ない芸当でしょうけどね!」
「ツルペタ言うなあ!!」

 貴様あ!妹でも言っていい事と悪い事があるんだぞ!ちくしょう、胸をえぐるな!これ以上胸をえぐるなああああ!







===作者の一人言===
筆者の居住地がバレバレ。
私の他作品を読んでる方には分かるでしょうが、だんだんギャグがワンパターンになってますね。難しい…
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感想 71

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