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しおりを挟む「はい、そこまでー」
「「きゃああ!?」」
不意にマイヤの声がしたかと思ったら、バシャアッという音と共に、水が降って来た!私とスザンナの頭上から!
思わずスザンナとハモった悲鳴をあげてしまった。
ななな、なにごと!?
見ればマイヤがバケツ片手に無表情──に見えるけど、若干怒ってる顔で私を見ていた。
水の冷たさと彼女の視線が、私を現実に引き戻してくれた。
「お嬢様、洗脳されちゃ駄目ですよ。ヘンリー様が旦那様と同じ人種だと思ってるんですか?」
「あ……」
「旦那様はさぼってお嬢様に仕事を押し付けてましたが、ヘンリー様がそんな方だと思うんですか?」
タオル片手にズイッと顔を近づけてくるマイヤ。私はそんな彼女に……
「思わない」
そうキッパリと答えた。
そうだ、ヘンリー様はそんな人じゃない。どっちかっつーと、仕事に手を出してきそう。というか、思いっきりバリバリこなしそうな人だもの!
実際、王城では王と王太子の仕事を精力的に手伝ってると聞く。異国で得た独特の知識が、なかなか役立ってるそうだとか。
そんな彼が、忙しくする私に呆れる事なんて……あるはずない!
むしろ手伝ってくれるだろう。助けてくれるだろう。
苦楽を共に出来ることだろう。
「あっぶな!!」
言って、私はパチンと自分の頬を殴った。
危ない危ない。危うくスザンナごときの口車に惑わされるところだったわ!
「今日、ヘンリー様に話すわ」
「それがよろしいかと」
今日、公爵家の内情を話そうと思う。
ヘンリー様も自分の素性を明かしてくれたのだ。私もちゃんと話さなくては、フェアじゃない。
そう言えばと時計を見れば、そろそろ彼がやってくる時間だった。
「あ、いけない。ヘンリー様が来る前にこの書類だけ片付けておかないと……」
マイヤからタオルを受け取って、拭きながら慌てて机に戻る私は完全に忘れていた。
「ちょおっとぉっ!!」
スザンナの存在を、気持ちいいくらいに忘れていたのだった。
※ ※ ※
「お話があります!!」
「うん?」
いつもお茶の時間帯にやってくるヘンリー様。この時間帯はマイヤがスザンナを見張ってるので平和だ。今日のスザンナはヤバそうなので、強気で──ヘッドロックくらいしながら止めてるかも知れない(もちろん許可してるよ、私が)。
今日も今日とてやって来た彼と、最初は他愛無い雑談をしていたのだが。
少しの間が生じた頃合いに、私は思い切って発言するのだった。
力強い声に、彼も少し驚いた面持ちで見て来る。う、そうやって見られると緊張するな……。
いつもと雰囲気の違う私に何かを感じたのか、彼は黙って手に持ったカップをテーブルに置いた。
そして横に座る私の手をギュッと握るのだった。安心させるかのように。
「どうしたの?何かあった?」
ニッコリ微笑む様は……
「く、今日もイケメンか……!!」
「何言ってるんだい、アデラもイケメ……可愛いよ」
今イケメンと言いかけましたね、訂正しても遅いですよ。まあ褒め言葉なんでしょうからいいですけど。
そんなこと言ってたおかげか、少し緊張がほぐれた。
大きく息を吸って~
「吸って~」
吸って~……
「……苦しい……」
「あっはっは!」
笑い事じゃない!余計な茶々入れないでください!
「ヘ~ン~リ~様ぁぁぁ」
「ごめんごめん、なんだか緊張してるようだから。空気を軽くしてあげようと思って!」
「そのお心遣いはありがたいですが、ちょっと黙って聞いててください」
「はいはい」
軽いなあ、分かってるんだろうか。
ええい、仕切り直しだ!
「ヘンリー様」
「なんだい、アデラ」
んんん、イケメンんんん……!
──などというやり取りがしばらく続く。ええ、バカップルですよ、すみませんね!!
これでは駄目だ、早く話さないと!今日話すと決めた事を明日に延ばしてはいけないと思うの。
だから私は意を決して、口を開くのだった。
「実は公爵家の実情について──」
「アデラお嬢様!!」
お話をー!したいのですがー!
内心叫んだけど、邪魔が入りましたよ!もう、何なのよ!!
「マイヤ、邪魔を……」
しないで。
そう言おうと睨んだ私は。
けれど次の言葉を呑み込んだ。
血相変えて飛び込んできたマイヤの表情が。
いつにない真剣な顔の彼女の表情が。
ただ事で無い事を告げていたから。
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