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「どういうことか説明していただけますか?」
「話せば長いことながら……」
「簡潔に」
「すみません、身分隠すために嘘つきましたゴメンナサイ」

 簡潔に言えるじゃないですか。

 身分誤魔化すために偽名を使った。なるほどなるほど。
 確かにお会いしたことはなかったけれど、第二王子の名前が『ヘンリー』様だってことくらいは私も知っていた。

 でもなあ……

「もう少しマシな偽名を使えば良かったものを」
「あの時ね、思わず本名言いかけてさ。焦って苦しい偽名作っちゃった」

 アハハ~じゃないわ。センスの欠片もないと思われてしまいますよ。

「そもそも、どうして身分を隠してたんですか?」
「第二王子って言っちゃうと、有象無象の輩がワラワラ寄って来るからねえ」

 そこは自意識過剰ですねとは言えない。実際、彼が第二王子だと知られれば凄い事になっていただろうな、あの夜会。

 でもこの容姿だ。そうでなくても視線は独り占めしてたと思われる。

 そう言われて見れば、国王様や王太子と似てるなとは思う。
 でも国王様と王似の王太子は、どちらかと言えば柔和な感じ。美形だけどなんというか……癒し系?

 それに対してヘンリー様はキリっとしてて強い美形と言えばいいのかな。うまく表現できない。おそらくは王妃様似なんだろうね。

 そもそも金髪碧眼なんて、この国では珍しくない。
 私のように茶髪に琥珀色の瞳、という方がよっぽど珍しいし、珍妙な動物を見るような目で見られることは多々あった。彼の容姿の方がよっぽど普通なのだ。

 が、そこはそれ。やはりパーツ全てがイケメンとなってくると、注目度は格段に上がる。

 あの夜会での出来事は、そんな注目から逃げるための口実に使われたところも大きいのかもしれない。

「まあ身分を隠したかったってのは、気持ちは分からなくもないので。分かりました」
「さすがアデラ、心が広い!私が惚れただけのことはある!よ、イケメン!!」

 キャラ変わってませんか?微妙にイラッとくるのはなぜだろう。
 そして今サラッと凄いこと言わなかった!?

「惚れ……!?」
「そうだ、俺はアデラの事が……好きだーーーーーー!!!!」

 ギャー!!!!
 んな恥ずかしい事大声で叫ぶなああああ!!!!

 かなりドン引きな私の手をガッシと掴んで、ズイと顔を近づけてきたヘンリー様。

「ひい……!!」
「というわけで俺と結婚しよう、すぐしよう、婚約なんてまどろっこしいことしてないで、今すぐ──あだっ!!」

 ちょっと落ち着け!
 不敬だとか考える間もなく、引っぱたきそうになっていたら。
 クロヴィス様の方が一歩早かった。

「落ち着け馬鹿者」

 スパーンッ!と小気味よい音を立てて、ヘンリー様の頭を叩くのだった。そのスリッパどこから出てきた。

 たかがスリッパされどスリッパ。かなり思い切り殴られたようで、ヘンリー様は頭を抱えて蹲ってしまった。スリッパって凶器になり得るのね。

 クロヴィス様はそんな弟に目もくれず、私と向き合うのだった。
 そして静かに頭を下げた。

「失礼したアデラ嬢。どうも異国で育ったせいか、弟の行動は奇抜で突飛な事が多いのだ」
「いえ、気にしてませんので……!頭を上げてください、クロヴィス様!!」

 王太子が軽々しく頭下げないでください!私は大慌てで言うのだった。
 スッと頭を上げたクロヴィス様は、そんな私にニッコリと微笑んで。

「あと初恋をこじらせてるようなのだ。大目に見て欲しい」

 とぶっ飛び発言をするのだった。

「は、初恋ですか?」
「そう。異国で過ごしてる時も帰国してからも。まったく女性に興味を示さなくってね。あっちの気があるんじゃないかと思ってたんだが。どうやら運命の女性に出会えてなかっただけのようだ。好きな女性が出来たと聞いた時には驚いたが……兄としては嬉しい限りだよ」

 マジですか……。こんなにイケメンなのに、彼女の一人も居なかったなんて。

 驚いたけど、何となく分かる気がする。
 見てイケメン、知って残念。
 そんな感じだもの。
 まあそんな彼が好きなのだから、私も大概初恋をこじらせてるのかもしれない。

「さて、婚約の話なんだけど……アデラ嬢。貴女はどうしたい?」

 先ほど断ろうとしていた様子を思い出して言ってるのだろう。
 だが、私に否やがあろうか。

 ずっと仕事も手に付かないくらいに気になっていた相手との婚約。
 それを断るなんて──

「すぐに結婚は無理ですが……。不束者ではございますが、どうぞ宜しくお願い致します」

 頭をペコリと下げて、返事をするのだった。

「ありがとう」

 それにニッコリと微笑む王太子は、本当にとても優しい顔で……良いお兄ちゃんという風だった。

 対して──

「嬉しいよ、アデラ」

 さっきまで蹲ってたヘンリー様は、ガバッと立ち上がったかと思えば。

「好きだよ、アデラ……!!」

 人目も気にせず、ガバチョッと抱きしめてくるのだった!

 ぎゃー!!



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