10 / 10
10、※途中からメッサル視点
しおりを挟む「第二王子……」
「そうだ、第二王子だ」
アークショーン侯爵令嬢との放課後喫茶店デートの真相を聞いて、私は言葉を失ってしまった。
そういえば、何かと王子がメッサル様に話しかけてたなと思い出す。
「どうして話してくれなかったんですか?」
婚約者が知らないうちにそんな危険な任務をしてたとか。知らないうちに大怪我してたらこちらの心臓がもたないではないか。教えてくれても良かったのに……。
そうすれば変な誤解も無かっただろうに。
そう恨みがましく言えば、「機密事項だから……」と申し訳なさそうに言われてしまった。しかも本人は任務だと分かってるから、他者から見ればデートに見える、という考えに至らなかったらしい。堅物すぎる。
でも機密事項を話していいのだろうか。と疑問に思えば、これ以上誤解されるくらいなら真実話して罰受けたほうがいいと悲しげにメッサル様は言った。覚悟のほどよ。
「喫茶店ってヤバイ裏取引に使われやすいって噂、本当だったんですねえ」
「喫茶店以外にも色々行ったな。食事処に宿屋に武器屋、宝石店やブティックもあったぞ」
「……いっぱいあるんですね」
「裏商売程度ならいいが、たまに異国のスパイが絡んでるのもあったな」
しかも大体が一回で終わらないから何度も足を運ばねばならない。放課後はそうしてほぼ潰れていたらしい。
なるほどなるほど。アークショーン侯爵令嬢や他の令嬢の話はこれで合点がいった。じゃああれだ。
「じゃあメルドルン伯爵令嬢とのクレープ屋さんも、やはり怪しいお店を偵察だったんですね?」
「いやあれは違う。普通のクレープ屋だ」
「なんやのんそれ」
おい!
***メッサルの話~メルドルン伯爵令嬢***
いつもの放課後。俺は廊下の壁に貼り付いていた。
「何やってんのお前」
「黙れドルン、俺は今壁だ」
「いや何言ってんのお前」
親友が俺を変な目で見てくるのも気にせず、俺は壁に貼り付きそっと廊下の先を窺った。誰も居ないな。
「よし」
「だから何やってんだよお前」
「王子関係者が居ないか確認していた」
「あー……大変だなお前も」
王子からの命は機密事項だ。知る者は少ない。その数少ない知る者の一人がドルンだ。というかドルンも一度王子に命じられて動いたらしいのだが……一度きりでそれ以後が無いらしい。なぜだ。
一度でも命じられたことがあるので、ドルンは詳細は知らずとも俺の行動の理由を知っている。
「今日こそは、王子の命を回避してラリーラと放課後を過ごすんだ」
「ああ、そういや……もう何日話してないんだ?」
「何週間だ」
「……泣くなよ」
聞かれて答えたら涙が出てきた。もう何週間もラリーラの顔を見てない声を聞いてないのだから。
俺はただ愛するラリーラと過ごしたいだけなのに。一緒にランチして他愛無い話をしたいだけなのに。彼女のバカバカしい話を聞いて癒されたいのに。彼女の可愛い笑顔を見てときめきたいだけなのに。
なのにいつもいつも邪魔が入る。主にあの悪魔……もとい、王子によって。
そんなことばかりしていては腕がなまると、たまにドルンと稽古にいそしむ。そんな時間があるなら本当はラリーラと過ごしたいのだが、次期当主として日々研鑽せねばならない苦渋の選択なのである。何よりさぼれば父が恐い。それにいざという時、ラリーラを守れる強い男にならねば。
だが今日はフリーだ。ドルンとの稽古は昨日した。王子からの任務はない。
ならば今日こそはラリーラと放課後デートしよう。
「今日こそはラリーラと……!」
「あの~、メッサル様ぁ……」
俺は!
今日こそは!
「ご相談したいことがあるんですぅ~。放課後ぉよろしいですかぁ~?」
今日こそは!
ラリーラと!
「すまないが、今日は予定が……」
「う、ごめんなさい、そうですよね、急すぎますよ、ね……う、ひっく、ぐす……」
なぜ泣くんだあ!俺の方が泣きたいんだがあ!?
なぜか通りがかった他の生徒に、俺が女生徒を泣かしたような目でジロジロ見られてしまった。おいドルンお前見てただろうが、なぜお前まで「やだメッサル、さいてー」とか言って面白がって揶揄してやがるんだ。殴るぞこの野郎。
結局。
その日は女生徒──メルドルン伯爵令嬢と彼女は名乗った──から婚約者の不真面目さに関する相談を受けて終わった。学校で話すものでもないし、どこか店に入るってのもなあ……となってたら、なぜか「美味しいクレープ屋さんがあるんですぅ」とか言って、泣いてたくせにもう笑ってる彼女に引っ張られたのだった。
翌日からその不真面目な婚約者を鍛え直すべく、放課後は説教と特訓に費やす日々となった。
……なぜだ!
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1,178
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(45件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
もし、任務?中に一緒の令嬢に何かあったら、責任とらなきゃいけないんでしょう?考えなしなのも、どうかと…。なのに、自分の婚約者じゃなくて良かった…とか、こやつあほでは?王子とこやつにざまぁ希望!違うヒーロー来てください!
王子にそんな良いように使われてるパシリ婚約者がとか、よりイヤやわぁー。
いつか王子が失敗したらすべての責任擦り付けられて都合よく消えるんやろねぇ。
婚約破棄するべきだし、王命で動いてるわけでもないからまともな大人に相談すべきやわ。
流されやすいお嬢じゃないことをお祈りしてます!
こんな婚約者嫌すぎる…