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9、※途中からメッサル視点

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「記憶を遡って全て話すのも時間がかかるから直近の話からしよう」
「はい?」
「まずはアークショーン侯爵令嬢の件からだ」

 アークショーン侯爵令嬢ってあの喫茶店でコーヒー飲んでたってやつね。
 思い出してたら、そんな私の耳にメッサル様の話が届くのだった。




***メッサルの話~アークショーン侯爵令嬢***



「あれは数日前のこと」
「あ、そういう出だしで始まるんですね」
「黙って聞く」
「はい」

 俺の鶴の一声で黙り込むラリーラ。素直に聞くところがまた何とも可愛い……うえっほん!

 謎の咳払いにキョトンとするラリーラ(これも可愛い)に向けて、俺は先日のことを思い出しながら話すのだった。



 あれは数日前のこと。

 俺はいつも通りに学園に通い、休み時間に廊下を歩いていた。目的地は婚約者であるラリーラの元だ。
 学園に入ってもう二年以上が過ぎた。学生生活はあと半年だというのに……卒業すれば結婚まで秒読みだというのに、俺達の仲が全然進展していない事に俺は少なからず焦りを感じていた。

 というのも、入学してからラリーラと過ごす時間がめっきり減ってしまったのだ。
 休日は次期侯爵家当主として父の仕事を手伝い学ぶのに時間を割かれ、平日は勉学に忙しい。せめて貴重な休憩時間に彼女と話でも……と思って教室へと向かっているのだが。

「あ、メッサル様!ちょっと宜しいですか?」

 なぜか必ずと言って良いほど邪魔が入るのだ(怒

 そして今回もまた、だ。それは学友であったり下級生であったり教師だったりするが、今回は下級生だった。なんだと足を止めて振り返れば、そこには見覚えのある男子が立っていた。確か生徒会の一人だったはず。

「何か用か?」
「あ、あの、王子がお呼びです!」

 王子とはこの国の第二王子で現在三年生で生徒会長をしてる方だ。親しくは無いが何度か面識がある。生徒会に入らないかと王子直々に誘われたのは一年生の最初の頃──入学直後だったか。当時は家の仕事と、入学直後で新しく学ぶことが多く学業が多忙だったせいでお断りした。が、何かとこうやって呼び出されるのだ。

 流石に王子の呼び出しとあっては無下にするわけにもいかない。
 俺は内心ため息をつきながら、ラリーラに会うのを断念して生徒会室へと向かうのだった。

「やあごめんね呼び出して」

 生徒会室に入るやいなや、立派な生徒会長の椅子に座った王子が手を上げた。
 
「いえ。ご用件は何でしょうか?」
「そう急かさずに。ほら座ってよ」
「いえ、急いでますので」

 授業の合間の短い休憩時間ではなく、今は昼休憩だ。それなりに長い休憩時間だが、これから急いでもラリーラに会う時間があるかどうか……。

 無表情を装いつつも、俺はジリジリとした思いを抱えながら、目の前の王子を見た。

 ニコニコと、一件温和な笑みを浮かべてるこの王子が俺は苦手だ。温和で人好きのすると言えば親友のドルンなのだが、あれはこの王子とは全然違う。ドルンは裏表のない男なのだ。その笑みは素直に受け止められる。

 それに対して目の前の王子は、王族という闇が深い世界に生まれた以上仕方ないのかもしれないが、表面と内面が全く異なるのだ。笑顔イコール機嫌が良いと思ってはいけない。俺はあまり表情を読むのは得意ではないが、王子の裏の顔を何とか見ようといつも頭を痛くする。

「確かにあまり時間もないか。じゃあこれお願いね」

 説明とも言えないようなことを言って、王子は一枚の紙を差し出してきた。何かのメモのようだ。受け取ってみれば、よく分からない名前が記載されている。人の名前なのか、それとも……

「この名前は?」
「新しく出来た喫茶店だよ」
「それで?」
「表向きは喫茶店らしいんだけど、なんかね……どうもきな臭いとこみたいでさ」
「つまり?」
「調べて来てね」

 用件は済んだとばかりにニコリと微笑み、王子は口を閉ざした。既に次の仕事に移るべく、別の書類を手にしている。

 王子はいつもこうだ。生徒会役員でもないのに、何かと自分にこういった裏の仕事を押し付ける。いや、これは生徒会というか学園には全く関係ないことだ。王族として、国を守る立場の者としての命なのだろう。だからこそ、生徒会役員ではない俺に命じるのだろうが……。そもそも学生にそんなことやらすか?
 真面目に受けてしまう俺が悪いのだろう。だが王子の命令を断ることなど、一介の侯爵令息に出来るわけもない。

 俺は小さく溜め息をついて、メモを手に立ち上がった。
 生徒会室を後にしようとすれば、背後から王子の声がかかった。
 振り返れば王子は書類に目を落としたまま、手だけを上げて──

「男一人で喫茶店は怪しまれるからね。そこの令嬢と行ってきて」

 と言って、壁際を指さした。見ればそこに一人の令嬢が立っている。

「よ、宜しくお願いします」

 なぜか恥ずかしそうに頬を染める令嬢はアークショーン侯爵令嬢と言うらしい。

 こういった仕事を頼まれるたび、カモフラージュとして誰かがあてがわれるのだが……どうして毎回違う女性なのだろうか。一度聞いた事がある。そしたら「毎回同じ女性だと怪しまれるでしょ?それにあまりこういった事情に深く関わらせたくないから。だからどの令嬢も一回で終わらせるんだ」と言われてしまった。

 ラリーラでいいではないかと最初は思ったが、何かあった時に彼女を危ない目に遭わせたくない。なので仕方なく毎度異なる女性と任務に赴くのだった。

 結局、喫茶店は裏で怪しい取引をしていた事が発覚。現場を押さえた時にひと悶着があって、アークショーン侯爵令嬢は真っ青になっていた。

 ああ、やはりラリーラと一緒でなくて良かった。
 そう、俺は心底思ったのだった。



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