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しおりを挟む「な、な、な……なんでそうなるのよ!?」
「お姉様、顔真っ赤」
ええいうるさい、寝付けなくてちょっと飲んだお酒が回ってるだけでい!
そんな言い訳も通用しない気がして、私は手でパタパタと顔を仰いだ。あー暑い。
「暑いからよ」
「肌寒い夜ですよ。お姉様も上を羽織っておられるではありませんか」
「暑い!脱ぐ!」
「風邪ひきますよ」
妹が冷静でお姉ちゃん困る!さすが次期伯爵家当主、どっしりしてるね!
「リリア、変なこと言わないでよ。私はメッサル様のことなんてなんとも思って……」
「だってお二人とも、お互いに好き合ってるのは明らかじゃありませんか」
「……なぜにそうなる」
「気付いてないのですか?」
「リリアが入学してからこの半年、学園で私とメッサル様が話してるのを何回見た?メッサル様がどれだけの女性と一緒にいるか見てきた?」
「お姉様とメッサル様のツーショットはレアですわね」
「そうでしょうね」
「メッサル様がおモテになるのも存じてます」
「そうでしょうね」
「でもメッサル様はお姉様の事が好きだと思うのですが……」
「それはない」
完全否定して私は首を振った。
メッサル様が私を好き?それこそなんの冗談だ、って話だわ。確かに最初の頃、婚約を向こうから希望してきた頃はそうだったかもしれないけどさ。
……いや、それも今となっては怪しいのだけど。なぜ彼は私を婚約者に望んできたのだろう?
メッサル様って女性関係はあれだけど、それ以外は非常に生真面目糞真面目なのだ。勉強は真面目に取り組んで成績はいつも上位、剣術武術も一通りをこなす腕前。何目指してんの勇者目指してんの魔王なんてもう大昔に滅んだよ、と聞きたいくらいだ。
曲がった事は大嫌い、不正は大嫌い。……なのになんで浮気はOKなのか分からん、まったく分からん。
「あの真面目で、礼儀にもうるさい方がお姉様には甘いじゃない」
「そうだっけ?」
「そうですよ。つい最近も、ドルンがご飯中にフォークを落としただけでマナーが悪いと怒られてましたよ」
「私も食べながら話したら行儀悪いと注意されましたよ」
「それはメッサル様でなくても、私でも注意します」
「おおう」
まあでも注意された程度だったのはマシなのかもしれない。
「ドルンは頭に手刀を落とされてました」
「それは痛い」
思わず頭に手を当てたよ。私の『ドルンの頬をつねりたい』なんて可愛いもんだね。メッサル様の大きな手で手刀……それは嫌だ遠慮したい。
「カンニングが発覚した生徒に散々説教して、剣の稽古つけてたそうです」
「なんぞそれ」
「思い切り汗を流してスッキリ改心させたそうです」
「なんぞそれ」
そんな青春な話があっていいのか?そんなんで改心するのか?
「メッサル様の熱意あるお言葉に心打たれたそうです」
「さいで……」
どうもメッサル様はそんな感じで、あちこちで学友達の問題行動に口出ししてるらしい。めんどくせえタイプだな。
「皆感謝してますよ。私の友人も、一学年上の婚約者が真面目に勉強するようになったと喜んでましたから」
「学年関係なしにやってんの!?めんどくさいな!教師より鬱陶しいじゃないか!」
「何を言うんですか、素晴らしい方ではありませんか」
そうかあ?何かと口うるさい先輩とか、大抵嫌われるタイプだと思うのだけど。みんないい人なのねえ。
「言葉遣いにもとてもうるさい方なのに……なのにお姉様の滅茶苦茶な話し方には全く注意なさらないでしょう?」
それは否定しない。私結構失礼な物言いが多いのだけど、そこは注意されたことないのよね。不思議。
「なぜだと思います?」
「さてなぜでしょう」
「質問したのは私です。答えはお姉様に甘いからです」
「あ、答えくれるのね」
しかしその答えが解せぬ。
メッサル様が私に甘いとな。
「私に甘い?」
「お砂糖たっぷりの生クリームが塗りたくられたケーキに、お砂糖はちみつシロップ全かけしたくらいには甘いです」
「砂糖とシロップって、根本は一緒なのでは」
「お黙りなさい、ただの例えです、お黙りなさい」
ごめんなさい。そしてお黙りなさいを二回言わないで、恐い。妹の切れぎみな顔が恐いです。
まあでもねえ、確かに思い当たることが無くも無い。
でもさ、変だよね。
「どうして私には甘いの?」
「お姉様の事が好きだからでしょう」
解せないよねえ!
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