上 下
5 / 10

5、

しおりを挟む
 
 
「な、な、な……なんでそうなるのよ!?」
「お姉様、顔真っ赤」

 ええいうるさい、寝付けなくてちょっと飲んだお酒が回ってるだけでい!
 そんな言い訳も通用しない気がして、私は手でパタパタと顔を仰いだ。あー暑い。

「暑いからよ」
「肌寒い夜ですよ。お姉様も上を羽織っておられるではありませんか」
「暑い!脱ぐ!」
「風邪ひきますよ」

 妹が冷静でお姉ちゃん困る!さすが次期伯爵家当主、どっしりしてるね!

「リリア、変なこと言わないでよ。私はメッサル様のことなんてなんとも思って……」
「だってお二人とも、お互いに好き合ってるのは明らかじゃありませんか」
「……なぜにそうなる」
「気付いてないのですか?」
「リリアが入学してからこの半年、学園で私とメッサル様が話してるのを何回見た?メッサル様がどれだけの女性と一緒にいるか見てきた?」
「お姉様とメッサル様のツーショットはレアですわね」
「そうでしょうね」
「メッサル様がおモテになるのも存じてます」
「そうでしょうね」
「でもメッサル様はお姉様の事が好きだと思うのですが……」
「それはない」

 完全否定して私は首を振った。
 メッサル様が私を好き?それこそなんの冗談だ、って話だわ。確かに最初の頃、婚約を向こうから希望してきた頃はそうだったかもしれないけどさ。

 ……いや、それも今となっては怪しいのだけど。なぜ彼は私を婚約者に望んできたのだろう?

 メッサル様って女性関係はあれだけど、それ以外は非常に生真面目糞真面目なのだ。勉強は真面目に取り組んで成績はいつも上位、剣術武術も一通りをこなす腕前。何目指してんの勇者目指してんの魔王なんてもう大昔に滅んだよ、と聞きたいくらいだ。
 曲がった事は大嫌い、不正は大嫌い。……なのになんで浮気はOKなのか分からん、まったく分からん。

「あの真面目で、礼儀にもうるさい方がお姉様には甘いじゃない」
「そうだっけ?」
「そうですよ。つい最近も、ドルンがご飯中にフォークを落としただけでマナーが悪いと怒られてましたよ」
「私も食べながら話したら行儀悪いと注意されましたよ」
「それはメッサル様でなくても、私でも注意します」
「おおう」

 まあでも注意された程度だったのはマシなのかもしれない。

「ドルンは頭に手刀を落とされてました」
「それは痛い」

 思わず頭に手を当てたよ。私の『ドルンの頬をつねりたい』なんて可愛いもんだね。メッサル様の大きな手で手刀……それは嫌だ遠慮したい。

「カンニングが発覚した生徒に散々説教して、剣の稽古つけてたそうです」
「なんぞそれ」
「思い切り汗を流してスッキリ改心させたそうです」
「なんぞそれ」

 そんな青春な話があっていいのか?そんなんで改心するのか?

「メッサル様の熱意あるお言葉に心打たれたそうです」
「さいで……」

 どうもメッサル様はそんな感じで、あちこちで学友達の問題行動に口出ししてるらしい。めんどくせえタイプだな。

「皆感謝してますよ。私の友人も、一学年上の婚約者が真面目に勉強するようになったと喜んでましたから」
「学年関係なしにやってんの!?めんどくさいな!教師より鬱陶しいじゃないか!」
「何を言うんですか、素晴らしい方ではありませんか」

 そうかあ?何かと口うるさい先輩とか、大抵嫌われるタイプだと思うのだけど。みんないい人なのねえ。

「言葉遣いにもとてもうるさい方なのに……なのにお姉様の滅茶苦茶な話し方には全く注意なさらないでしょう?」

 それは否定しない。私結構失礼な物言いが多いのだけど、そこは注意されたことないのよね。不思議。

「なぜだと思います?」
「さてなぜでしょう」
「質問したのは私です。答えはお姉様に甘いからです」
「あ、答えくれるのね」

 しかしその答えが解せぬ。
 メッサル様が私に甘いとな。

「私に甘い?」
「お砂糖たっぷりの生クリームが塗りたくられたケーキに、お砂糖はちみつシロップ全かけしたくらいには甘いです」
「砂糖とシロップって、根本は一緒なのでは」
「お黙りなさい、ただの例えです、お黙りなさい」

 ごめんなさい。そしてお黙りなさいを二回言わないで、恐い。妹の切れぎみな顔が恐いです。

 まあでもねえ、確かに思い当たることが無くも無い。
 でもさ、変だよね。

「どうして私には甘いの?」
「お姉様の事が好きだからでしょう」

 解せないよねえ!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)妹と婚約者に殺されそうになりましたが、時間が巻き戻ったので全力で回避します!

青空一夏
恋愛
妹はとても活発でお母様に似ているタイプだ。私は少し臆病で言いたいことが言えない性格だった。それをいいことに妹は大きな声で自己主張し、良い子ぶるのも私を嵌めるのも上手い。妹は爵位と婚約者を私から奪おうとして・・・・・・ 題名どおりの内容です。妹と婚約者の策略を全力回避する為に頑張る物語。R15ざまぁ(残酷すぎないです)。 ※異世界です。ゆるふわ設定です。史実には全く基づいておりません。現代的な商品や調味料など突然でてきたらごめんなさい。感想の返信はアスキアートにてほぼ定型文で簡単なものになりますが、ありがたく読ませていただき大変励みになっておりますので、いただけると小躍りします💃🏻🙇🏻‍♀️✨🌼

婚約者様は連れ子の妹に夢中なようなので別れる事にした。〜連れ子とは知らなかったと言い訳をされましても〜

おしゃれスナイプ
恋愛
事あるごとに婚約者の実家に金の無心をしてくる碌でなし。それが、侯爵令嬢アルカ・ハヴェルの婚約者であるドルク・メルアを正しくあらわす言葉であった。 落ち目の危機に瀕しているメルア侯爵家であったが、これまでの付き合いから見捨てられなかった父が縁談を纏めてしまったのが全ての始まり。 しかし、ある日転機が訪れる。 アルカの父の再婚相手の連れ子、妹にあたるユーミスがドルクの婚約者の地位をアルカから奪おうと試みたのだ。 そして、ドルクもアルカではなく、過剰に持ち上げ、常にご機嫌を取るユーミスを気に入ってゆき、果てにはアルカへ婚約の破談を突きつけてしまう事になる。

私の味方は王子殿下とそのご家族だけでした。

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のコーデリア・アレイオンはミストマ・ストライド公爵から婚約破棄をされた。 婚約破棄はコーデリアの家族を失望させ、彼女は責められることになる。 「私はアレイオン家には必要のない存在……将来は修道院でしょうか」 「それならば、私の元へ来ないか?」 コーデリアは幼馴染の王子殿下シムルグ・フォスターに救われることになる。 彼女の味方は王家のみとなったが、その後ろ盾は半端ないほどに大きかった。

婚約者を変えて欲しいと言われ変えたのに、元に戻して欲しいなんて都合良すぎませんか?

紫宛
恋愛
おまけの追加執筆のため、完結を一度外させて頂きました(*ᴗˬᴗ)⁾ 幼なじみの侯爵令嬢がいきなり婚約者を変えて欲しいと言ってきました。 私の婚約者と浮気してたみたいです。 構いませんよ? 王子と言えど、こんな王子で良ければ交換しましょう? でも、本当にいいんですか? あなたの婚約者も、隣国の王子で王太子ですよ? 私の婚約者は、王子ですが王位継承権はありません。 今更戻して欲しいと言われても、私たち正式に婚約し来月結婚しますので無理です。 2話完結 ※素人作品、ゆるふわ設定、ご都合主義※

永遠に愛を誓った恋人で婚約者に差別され冷たい目で見られる令嬢の悲しみと絶望〜聖女と浮気の王太子殿下は女王に断絶され国外追放の罰!

window
恋愛
二人は幼馴染でお互いに15歳。恋人で深く愛して付き合っていました。 「エレナかわいいよ」 瞳を見つめながらアダム殿下がそう告げると顔に嬉しさを隠しきれないエレナ令嬢は少しはしゃいだ口調で言う。 「アダムもかっこいい服もセンス良いです」 アダム殿下は照れながら微笑んだ。 デートの時にエレナ令嬢が転びそうになると素早く体を支える。優しい心づかいに涙がにじんできます。 「大丈夫?怪我はない?」 「ありがとうアダムのおかげで助かったよ」 「アダムは本当に頼りになる素晴らしい紳士ね」 公爵令嬢エレナ・シュレイスロビンソン・ウェルアグネスと王太子アダム・クインアルフレス・アルジャーノン殿下の愛情は太陽よりも輝いていた。 「エレナのことを好きでしかたないんだ。必ずエレナを幸せにするからずっと隣にいてほしい」 「はい…」 この日二人は婚約をして永遠に祝福される―― しかし運命の恋人に神は厳しい試練を与えました。

元婚約者は入れ替わった姉を罵倒していたことを知りません

ルイス
恋愛
有名な貴族学院の卒業パーティーで婚約破棄をされたのは、伯爵令嬢のミシェル・ロートレックだ。 婚約破棄をした相手は侯爵令息のディアス・カンタールだ。ディアスは別の女性と婚約するからと言う身勝手な理由で婚約破棄を言い渡したのだった。 その後、ミシェルは双子の姉であるシリアに全てを話すことになる。 怒りを覚えたシリアはミシェルに自分と入れ替わってディアスに近づく作戦を打ち明けるのだった。 さて……ディアスは出会った彼女を妹のミシェルと間違えてしまい、罵倒三昧になるのだがシリアは王子殿下と婚約している事実を彼は知らなかった……。

お望み通りに婚約破棄したのに嫌がらせを受けるので、ちょっと行動を起こしてみた。

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄をしたのに、元婚約者の浮気相手から嫌がらせを受けている。  流石に疲れてきたある日。  靴箱に入っていた呼び出し状を私は──。

「婚約破...」まで言いかけた婚約者の様子がおかしいのですがこれは何事でしょうか?

あさひるよる(書くし読む小説好き)
恋愛
学園の卒業パーティーで、王太子が浮気相手(?)の聖女をエスコートした。 そして王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を宣言したところ...「そなたと婚約を破...婚約破...こ・ん・や・く・は・kぅっ...くっっっはぁあっああっ」と途中までしか言えず取り乱す始末。なんだか様子がおかしい...。  ◇ なぜ、王太子は少し前までは仲の良かったはずの公爵令嬢との婚約を破棄をしようと思ったのか。 なぜ、王太子は「婚約破棄」が最後まで言えないのか。 聖女はどんな気持ちなのか? などなど

処理中です...