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しおりを挟む「お姉様、婚約破棄なさるんですか!?」
ドルンという男は実は女なのではないだろうか。普通そんな話をベラベラ話すか?いくら自分の婚約者相手だろうと。
お前はどこの噂好きのオバサンだ!と胸倉掴んで頬を思い切りつねってやりたい。だが残念な事に今ドルンは居ない。なぜって夜だから。当然のように自分の家である侯爵家に帰った。帰んな。いや帰っていいけど。はよ帰れとは思ってたけど。私が頬をつねってから帰れ。
私は寝る前の読書──とは言っても内容は入ってこなくて、1ページも読み進めてなかった──を中断して、勢いよく部屋に飛び込んで来た妹を見た。2歳下のリリアは今学園の一年生だ。
同じ学園に居るならば、知ってるはずだと思う。
「メッサル様の女癖が悪すぎてね。向こうも可愛げのない私に愛想が尽きたんじゃないかしら、婚約破棄を言ってきたのよ」
「ええ!本当ですの!?」
「だというのに、それは嘘だとか言って婚約破棄を破棄してきたのよ。まったく冗談じゃないわ」
「ああ良かった」
何が良かったというのだろう。私はリリアが安堵する様子を不思議に思って首を傾げた。傾げたところで気付いた。ああ、リリアはドルンとの事を心配してるのね。
「大丈夫よリリア、メッサル様との婚約が無くなったとしても、私はこの伯爵家を継ぐ気はないから。予定通りにリリアが後を継いでドルンと二人で支えていってね」
いくらなんでも家を出る事がなくなったから私が後継になりますよ、というほど鬼ではない。悪女ではない。というかそんな面倒なのやりたくない。正直メッサル様の侯爵家に嫁いで侯爵夫人やるのも面倒だなと思ったり思ったり思ったり。
「私は修道院に入るか……どこか田舎でひっそり静かに暮らすわ」
思い付きで言ってみたものの、それも悪くないなと思えた。そうか、田舎でスローライフてのいいな。
「大根を作るのって大変かしら」
「なぜに」
大根役者ですから。まずは大根から。とか思って言ったのだけど、唐突すぎて妹には伝わらなかったらしい。
「大根は置いといて……お姉様、家を出る出ないは別にいいのです、どちらでも。もし家を出なくても伯爵家を乗っ取るような根性のある方でない事は、私が一番良く知ってますもの。お姉様なら喜んでニート生活しますものね」
「さすが妹、私のことよく分かってるー」
「まったく嬉しくない賛美ありがとうございます」
なんでよお姉ちゃんが褒めてるんだから喜んでよ。
「今重要なのはメッサル様のことです。本当に婚約破棄なさるのですか?」
「最初に言ってきたのはメッサル様の方だよ」
「ですが破棄の件は破棄だと仰ってきたのでしょう?」
「破棄を破棄するのを破棄だと私は言ったの」
「ややこしいですわね」
「つまりは婚約破棄するってことだよ」
「本当にそれでいいのですか?」
多少投げやりに言ってしまったせいか、リリアの顔に陰りが出来た。自暴自棄とでも思われたかな。
心配させるのも何だか悪いので、私は努めて明るく「大丈夫だよ」と笑って言った。
「毎日色んな女性とデートするような人と結婚する方が不幸だよ。メッサル様とは合わないから婚約破棄するの。まあ穏便にいくとなれば解消なんだけどね。うまくいかなきゃ強引に破棄するまでだよ」
私は嘘だなんて言わない。本気だ。
そんな私の顔を訝し気に見つめるリリア。そういう顔、お父様にそっくりよね。
「メッサル様が頻繁に女性とおられることは存じてますが……」
「そうでしょそうでしょ、許せないでしょ?」
「つまり、お姉様はメッサル様がお好きなんですね」
妹の言葉に。
ものの見事にずっこけた私は、あやうくテーブルに頭をぶつけかけたのだった。
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