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三夜目
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[※注意※]ちょっとグロいです。
その時だった。私の耳に、聞こえるはずのない声が届く。
『力を欲するか?』
突然の声に、けれど恐怖は感じなかった。
霊となった私に、もはや恐れるものなど存在しない。
「ええ、欲するわ」
声に出したのか、霊としての思念なのか。分からなかったけれど、そんな事はどうでもいい。
私は即答した。
「あいつらを地獄へ落とせるのなら。私を殺し、私の家族を苦しめたあいつらが不幸になるのなら、どんな力でも欲しいわ!」
私の心のどす黒さが増していくのが分かる。
『力を使えば、お前はもう二度と輪廻の輪に加わる事は出来ないぞ?永遠にこの世を彷徨い続けるかもしれない。永遠に地獄で苦しみ続けるかもしれない。いや、永遠も何もなく、消滅してしまうかもしれない』
そんな私に声は問いかける。
『それでも力を欲するか?』
私に否やがあろうはずもなかった。
※ ※ ※
「ひい!!!」
ガシャン、とガラスの割れる音が室内に響いた。
床に散乱したガラスの上に倒れ込んだ男は、血まみれの手を上げてブンブンと振り続ける。
まるで空中の何かを追い払うかのように。
「ひいいい!来るな、来るなああ!」
そう、確かに彼には見えてるのだ。
どす黒い、怨念の塊の靄を。
その中にはこれまでそいつのせいで死んだ者の恨みが詰まっていた。
どれだけの者の殺害に加担してきたのか──怨霊の数は膨大で、数える事など出来なかった。
無残に皮膚がただれた女、もはや骨となった性別不明の者、目が落ち血まみれの男。他にも、私が生きていたら失神したであろうおぞましい怨霊の数々。
それが男には見えてるのだ。靄の中に、ハッキリとそれらが見えているのだ。
ここは街の大きな薬屋。
一般人では手が出ない、貴族御用達のここは、貴重な薬を置いてるので重宝がられている。
が、表向きは綺麗な薬屋だが、裏では犯罪レベルの毒薬を扱った裏商売の御用達でもある。
私も霊になるまで知らなかった。
リルドランが一体どこで毒薬を手に入れたのか。
調べたらアッサリと分かったのだ。リルドランが連れて来てくれたから。
私を殺せた事が余程嬉しかったのだろう。
葬儀から一週間後、彼はここへ訪れた。そして首尾よく標的を殺せたと、店主にコッソリ話してるのを聞いたのだ。
それからずっと見ていたが、この店はとてつもなく汚かった。
そこに信念は存在せず、望まれるならどんな毒でも用意した。
標的が誰か、など気にしない。
結果として、善良な人間がどんどん殺されていった。そして彼らが怨霊になるのを見てきた。
私と同じ──大きな大きな恨みを持った悪霊の誕生だ。
一番悪いのは、勿論毒を使ったものだ。
けれど、こんな店があるから、彼らは毒を容易に手に入れられるのだ。
許せない。
許さない。
私達は深夜、閉店後に一人残った彼の元を訪れた。
そして、容赦なく襲い掛かったのだ!
そして今、彼は床で血まみれになりながら失禁している。掴むことの出来ぬ霊たちに向けて、無意味に手を振り続けていた。
「来るな、来るなああ!ひいいいい!!!!」
──許さない
──苦しい
──死にたくない
──お前も道連れに
許せない、苦しい、と彼らは言い続けていた。
本来怨霊とはこのように自我が無くなるものなのだろう。けれど、私はあの声が授けてくれた力によって、自我をこうして保つ事が出来ている。
あの声が何なのか分からないけれど、それはどうでも良かった。
きっと魔王か何かなんだろう。
全てを終えたら、私の魂はきっと苦しむのだろう。
それでもいい。
私を苦しめた全ての者に復讐出来るなら!
「ぎいいやあぁぁぁ!!!」
店内に絶叫が響き渡る。
怨霊が、店主の目をくり抜いたのだ。
本来触れる事の出来ぬ人間だけれど、悪霊たちに私の力を注いだら触れる事が出来るのだ。
さあ、復讐するがいい。
あなた達を苦しめた毒を売りさばくこの男に、復讐するがいい!
「いぎいいい!!!!」
今度は男の指を一本一本切り落とす怨霊。
「あ……が……!!!!」
男の舌を引きちぎる怨霊。
そうして男は絶命した。
死すら温いと生かして永遠の苦しみも考えたけれど。それすらも許せなかったのだ。どんな形であれ、この世に生き続ける事が許せなかった。
男の亡骸を見ても、何の感慨も湧かなかったけれど。
だって達成感など感じるはずがない。これは本命の標的ではないのだから。
まだこれは序の口。
これ以上の犠牲者を出さないための、ちょっとしたオマケでしかないのだ。
分かっている。毒薬を扱ってる店など、きっと他にもごまんといる。
それでも。
私達を殺した毒は、確かにこの店の物だったのだ。
この男が調達し、売りさばいた物なのだ。
だからこれで十分。私達には十分だったのだ。
その時だった。私の耳に、聞こえるはずのない声が届く。
『力を欲するか?』
突然の声に、けれど恐怖は感じなかった。
霊となった私に、もはや恐れるものなど存在しない。
「ええ、欲するわ」
声に出したのか、霊としての思念なのか。分からなかったけれど、そんな事はどうでもいい。
私は即答した。
「あいつらを地獄へ落とせるのなら。私を殺し、私の家族を苦しめたあいつらが不幸になるのなら、どんな力でも欲しいわ!」
私の心のどす黒さが増していくのが分かる。
『力を使えば、お前はもう二度と輪廻の輪に加わる事は出来ないぞ?永遠にこの世を彷徨い続けるかもしれない。永遠に地獄で苦しみ続けるかもしれない。いや、永遠も何もなく、消滅してしまうかもしれない』
そんな私に声は問いかける。
『それでも力を欲するか?』
私に否やがあろうはずもなかった。
※ ※ ※
「ひい!!!」
ガシャン、とガラスの割れる音が室内に響いた。
床に散乱したガラスの上に倒れ込んだ男は、血まみれの手を上げてブンブンと振り続ける。
まるで空中の何かを追い払うかのように。
「ひいいい!来るな、来るなああ!」
そう、確かに彼には見えてるのだ。
どす黒い、怨念の塊の靄を。
その中にはこれまでそいつのせいで死んだ者の恨みが詰まっていた。
どれだけの者の殺害に加担してきたのか──怨霊の数は膨大で、数える事など出来なかった。
無残に皮膚がただれた女、もはや骨となった性別不明の者、目が落ち血まみれの男。他にも、私が生きていたら失神したであろうおぞましい怨霊の数々。
それが男には見えてるのだ。靄の中に、ハッキリとそれらが見えているのだ。
ここは街の大きな薬屋。
一般人では手が出ない、貴族御用達のここは、貴重な薬を置いてるので重宝がられている。
が、表向きは綺麗な薬屋だが、裏では犯罪レベルの毒薬を扱った裏商売の御用達でもある。
私も霊になるまで知らなかった。
リルドランが一体どこで毒薬を手に入れたのか。
調べたらアッサリと分かったのだ。リルドランが連れて来てくれたから。
私を殺せた事が余程嬉しかったのだろう。
葬儀から一週間後、彼はここへ訪れた。そして首尾よく標的を殺せたと、店主にコッソリ話してるのを聞いたのだ。
それからずっと見ていたが、この店はとてつもなく汚かった。
そこに信念は存在せず、望まれるならどんな毒でも用意した。
標的が誰か、など気にしない。
結果として、善良な人間がどんどん殺されていった。そして彼らが怨霊になるのを見てきた。
私と同じ──大きな大きな恨みを持った悪霊の誕生だ。
一番悪いのは、勿論毒を使ったものだ。
けれど、こんな店があるから、彼らは毒を容易に手に入れられるのだ。
許せない。
許さない。
私達は深夜、閉店後に一人残った彼の元を訪れた。
そして、容赦なく襲い掛かったのだ!
そして今、彼は床で血まみれになりながら失禁している。掴むことの出来ぬ霊たちに向けて、無意味に手を振り続けていた。
「来るな、来るなああ!ひいいいい!!!!」
──許さない
──苦しい
──死にたくない
──お前も道連れに
許せない、苦しい、と彼らは言い続けていた。
本来怨霊とはこのように自我が無くなるものなのだろう。けれど、私はあの声が授けてくれた力によって、自我をこうして保つ事が出来ている。
あの声が何なのか分からないけれど、それはどうでも良かった。
きっと魔王か何かなんだろう。
全てを終えたら、私の魂はきっと苦しむのだろう。
それでもいい。
私を苦しめた全ての者に復讐出来るなら!
「ぎいいやあぁぁぁ!!!」
店内に絶叫が響き渡る。
怨霊が、店主の目をくり抜いたのだ。
本来触れる事の出来ぬ人間だけれど、悪霊たちに私の力を注いだら触れる事が出来るのだ。
さあ、復讐するがいい。
あなた達を苦しめた毒を売りさばくこの男に、復讐するがいい!
「いぎいいい!!!!」
今度は男の指を一本一本切り落とす怨霊。
「あ……が……!!!!」
男の舌を引きちぎる怨霊。
そうして男は絶命した。
死すら温いと生かして永遠の苦しみも考えたけれど。それすらも許せなかったのだ。どんな形であれ、この世に生き続ける事が許せなかった。
男の亡骸を見ても、何の感慨も湧かなかったけれど。
だって達成感など感じるはずがない。これは本命の標的ではないのだから。
まだこれは序の口。
これ以上の犠牲者を出さないための、ちょっとしたオマケでしかないのだ。
分かっている。毒薬を扱ってる店など、きっと他にもごまんといる。
それでも。
私達を殺した毒は、確かにこの店の物だったのだ。
この男が調達し、売りさばいた物なのだ。
だからこれで十分。私達には十分だったのだ。
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