6 / 7
6、
しおりを挟む煌びやかなシャンデリアが輝くパーティ会場。美味しそうにデコレーションされた料理の数々。
誰もが思い思いのドレスに身を包み、明るい未来を信じて、皆が楽しそうに歓談している。
今日は卒業パーティの日だ。学園内のパーティ会場で、私もまた水色のドレスに身を包み、ワクワクしながら会場入りしていた。ジュース片手に、友人達と楽しく会話していたその時。
「ここに居たかエリス」
不躾に肩に置かれる手。思わず顔がこわばってしまった。
手と声の主は見なくても分かるが、敢えて睨みつけるように相手を見上げる。
「いきなり失礼ではありませんか、サルボス様」
「気にするな、俺とお前の仲ではないか」
相変わらずの『気にするな』。それはもう私の意思を無視し、馬鹿にしてるとさえ感じてしまう言葉。
見れば彼の手にはワイングラスがある。空になっているところを見ると飲み干したのだろう。そういえばかなり顔が赤い、一体何杯飲んだのやら。
「私とあなたの間には、何の仲も関係もありません。迷惑ですので話しかけないでください」
「婚約者だろう?」
「違います」
サルボスはまだ信じてるのだ。私が彼を愛し、再婚約が為されると。いや、既に再婚約は為されたと思ってるのだろう。
……そんなわけ無いというのに。
「サルボス様には、ベリイ様がいらっしゃるではありませんか」
「ベリイ?それは一体誰のことだ?」
ヘラヘラと笑いながらとぼけるサルボスに、怒りを覚えたその時。
「お待ちくださいアンディ様!」
賑やかな会場内であっても、響き渡る大きな声。思わず向けた目線の先には、派手すぎる、真っ赤なドレスに身を包んだ女性が佇んでいた。いくら卒業するとはいえ、学生らしさを忘れたかのように胸元が顕になったドレスを身にまとう女性。こぼれんばかりに強調された胸に、女である私も一瞬目がいってしまったくらいだ。べ、別に羨ましいとかではない。
その胸を押し付けるかのようにして、女性はある男性に密着していた。それを見て私はギョッとなったのである。
それはサルボスも同様。
「べ、ベリイ……?」
呆然と呟くように、サルボスは赤いドレスの女性の名前を呼んだ。ついさっき、一体誰の事だととぼけていたのは何処の誰だよ。
私達の目線の先には、サルボスの愛人予定である、真っ赤なドレスを着たベリイ嬢が居た。そして彼女は、どうやら一人の男性に猛アタック中なようで……どうにかこうにか気を引こうとしている様子が見て取れた。
豊満な胸を押し付けるも邪険に払われ、汚い物でも見るような目を向けられて流石にたじろいでるご様子。
「あれは……アンディ殿か……」
サルボス様が記憶を辿って、男性側の情報を引き出してきた。
ベリイ嬢がアタックする相手。それはアンディ公爵令息……青い髪と瞳が印象的で美しい男性です。美しいが冷たさを感じさせ、どこか近寄りがたい雰囲気があると、ちょっと女性陣からは遠巻きにされるかた。
そんな彼に、恐いもの知らずなベリイ嬢が食い下がる。
「一曲だけでいいのです、どうか私と踊ってくださいませ」
「申し訳ないが、私は貴女とは踊れない」
「そんな!私の何がいけないのですか?」
黒い髪がシャンデリアの光を反射してキラキラと美しく輝き、同じく黒い瞳もまた輝いて魅力的なベリイ嬢。少し悲し気な顔をすれば、周囲の男性陣は胸に矢が刺さって顔が赤くなる。……ただしアンディ様を除いては、だけど。
「チッ」
そんな二人の様子を見ていたら、横でサルボスが舌打ちするのが聞こえた。まあ気に入らないでしょうね。本命の彼女がどこぞの美形に言い寄ってるんだから。ベリイ嬢も、サルボスの眼前でよくやるわ。
「お願いです、どうか一曲だけ。思い出をどうか……」
その一曲で、アンディ様を陥落させる自信がきっとあるのだろう。それくらいには、確かに彼女は美しかった。
熱い視線を投げる男性陣とは真逆に、冷めた目を向ける女性陣。私もまた冷たい目になってるのが、自分でも分かる。
不意に、誰かが私の手を取った。
ギョッとして見れば、なんとサルボスではないか。……消毒液あるかな。
「サルボス様?」
「チッ……おい俺達も踊るぞ!」
「え、え、え……?」
オロオロしてるうちに手を引かれ、ダンススペースに引っ張り出されてしまった。困った。絶対に、死んでも踊りたくないのに。
差し出される手。これ取らないと、不敬罪にでもなるのかしら?
「おいエリス、早く手を出せ!」
「え~~~っと……嫌です」
「なんだと?」
たっぷり間を置いて拒絶の言葉を吐くと、サルボスの眉間に皺が寄る。
その皺をキッと睨んで、私はもう一度ハッキリキッパリ言った。
「サルボス様とのダンスは応じられません!」
これだけは譲れない。
絶対に、何があっても。譲れないものが私にはあるのだ。
最大限の勇気を振り絞って、私はサルボスを突き放したのだ。
109
お気に入りに追加
502
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄された私が惨めだと笑われている?馬鹿にされているのは本当に私ですか?
なか
恋愛
「俺は愛する人を見つけた、だからお前とは婚約破棄する!」
ソフィア・クラリスの婚約者である
デイモンドが大勢の貴族達の前で宣言すると
周囲の雰囲気は大笑いに包まれた
彼を賞賛する声と共に
「みろ、お前の惨めな姿を馬鹿にされているぞ!!」
周囲の反応に喜んだデイモンドだったが
対するソフィアは彼に1つだけ忠告をした
「あなたはもう少し考えて人の話を聞くべきだと思います」
彼女の言葉の意味を
彼はその時は分からないままであった
お気に入りして頂けると嬉しいです
何より読んでくださる事に感謝を!
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
【完結】私と婚約破棄して恋人と結婚する? ならば即刻我が家から出ていって頂きます
水月 潮
恋愛
ソフィア・リシャール侯爵令嬢にはビクター・ダリオ子爵令息という婚約者がいる。
ビクターは両親が亡くなっており、ダリオ子爵家は早々にビクターの叔父に乗っ取られていた。
ソフィアの母とビクターの母は友人で、彼女が生前書いた”ビクターのことを託す”手紙が届き、亡き友人の願いによりソフィアの母はビクターを引き取り、ソフィアの婚約者にすることにした。
しかし、ソフィアとビクターの結婚式の三ヶ月前、ビクターはブリジット・サルー男爵令嬢をリシャール侯爵邸に連れてきて、彼女と結婚するからソフィアと婚約破棄すると告げる。
※設定は緩いです。物語としてお楽しみ頂けたらと思います。
*HOTランキング1位到達(2021.8.17)
ありがとうございます(*≧∀≦*)
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
婚約破棄された令嬢が呆然としてる間に、周囲の人達が王子を論破してくれました
マーサ
恋愛
国王在位15年を祝うパーティの場で、第1王子であるアルベールから婚約破棄を宣告された侯爵令嬢オルタンス。
真意を問いただそうとした瞬間、隣国の王太子や第2王子、学友たちまでアルベールに反論し始め、オルタンスが一言も話さないまま事態は収束に向かっていく…。
結局、私の言っていたことが正しかったようですね、元旦那様
新野乃花(大舟)
恋愛
ノレッジ伯爵は自身の妹セレスの事を溺愛するあまり、自身の婚約者であるマリアとの関係をおろそかにしてしまう。セレスもまたマリアに対する嫌がらせを繰り返し、その罪をすべてマリアに着せて楽しんでいた。そんなある日の事、マリアとの関係にしびれを切らしたノレッジはついにマリアとの婚約を破棄してしまう。その時、マリアからある言葉をかけられるのだが、負け惜しみに過ぎないと言ってその言葉を切り捨てる。それが後々、自分に跳ね返ってくるものとも知らず…。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる