5 / 7
5、
しおりを挟む時刻は昼休み。昼食の時間となった。今日は友人達と庭園で共に、という約束をしてるので、お弁当だ。伯爵家お抱えの素晴らしいシェフが、腕によりをかけて用意してくれたとのこと……う~ん楽しみ。
どこにしようか?あの木陰は?ベンチは?そちらの芝生もいいわね。
なんて皆とワイワイ話しながら、学内の庭園を散策する。が、不意に腕が引かれた。
「エリス、ちょっとこっち来て!」
私の腕を引いたのは、学友の一人である女子生徒。今日のランチを約束してる子達とはまた別の、クラスが異なる子だ。
なんだか切羽詰まったというか、緊迫感を感じさせる真剣な面持ちの友人に気圧されて、私はお弁当片手に引っ張られるままどこぞへと連れて行かれてしまった。
そしてとある校舎裏で彼女は止まった。
「こっちこっち!エリス、この壁の影から、そうっと向こうを覗いてみて!」
なんだどうした、一体何があったの。意味が分からないけど、どうやらコソコソしなければいけない、というのだけは分かった。友人は声を潜めながら怒鳴るという、器用な事をしながら私を手招きした。
……ちなみに、お弁当を共にする約束をしていた学友は、皆後ろに付き従ってたりする。野次馬というやつか。まあいいけど。
私の腕を引っ張って来た友人が言う壁。そこにはその友人以外にも、彼女がお昼を共にする予定であったのであろう女生徒が数名いた。皆一様に壁に張り付いて、コソコソしながら向こうをうかがっている。なんか凄い光景なのだけど。
なんなの?と近づけば、私に気付いた彼女達が一斉にその場所を開けてくれた。私に見てみろ、というか私こそが見るべきだ、ということなのだろう。
促されるまま私は壁に張り付いて、こっそりと向こうを覗き見ました。
「……」
言葉を失うとはこのことなんだろうね。
壁からこっそり覗き見た向こう。なんとそこには……
「サルボス様、私寂しかったです!」
「俺もだよベリイ!」
校舎裏で抱きしめ合う男女が二人いたのである。それだけなら逢瀬なんだな、と思ってそそくさと立ち去る案件なのだろうが……いかんせん、その男女に問題があるのですよ。
女がサルボス様、と呼ぶ人。そうです、抱きしめ合う男女のうち、男は私との復縁を迫って来た阿呆な侯爵令息だったのである。
そしてそのサルボスが、ベリイと呼んで抱きしめる女性。
それは……私との婚約破棄の原因となった男爵令嬢。その人だったのである。
息を呑む私の前で、二人は話し続ける。
「もう少しの辛抱だ。俺はエリスと結婚するから……そしたらお前を愛人として囲ってやるからな」
「うう……愛人なんて悲しすぎます」
「仕方ないんだ、こうするより他には……庶民となるのは嫌だろう?」
「絶対嫌です!」
「なら我慢だ。なあに心配するな、エリスとは形だけの夫婦になるだけで、俺の愛はベリイ、お前にある」
「はい、信じてます。愛してますサルボス様……」
「俺も愛してるよベリイ」
はいアウト、完全に黒ですね。誰も頼んでないのに、勝手にベラベラと話してくださってありがとうございます。
いやあ、まさか学内で浮気現場を見てしまうとはねえ。
正確には私とサルボスは付き合ってないので浮気ではないのだけど。私を愛してるとか言ってた口は、どこに飛んで行ったんだろうね。
浮気というか……むしろこれは結婚詐欺ではないか?
まだ結婚してないから未遂?
まあそんなことはどうでもいいか。
この状況で私が突入すれば、何の問題もなくサルボス様を排除できるというもの。
二人の前に姿を現そうと、私が一歩足を踏み出しかけたその時。
誰かの手が、ポンと私の肩に置かれたのである。
95
お気に入りに追加
502
あなたにおすすめの小説
【完結】私よりも妹が大事なんですか?~捨てる親あれば拾う王子あり~
如月ぐるぐる
恋愛
「お姉ちゃんのお洋服かわいいね、私の方が似合うと思うの」
昔から妹はこうだった。
両親も私より妹の方が可愛いみたいだし、いい加減イジメにも飽き飽きしたわ!
学園を卒業したら婚約者と結婚して、さっさと家を出てやるんだから!
「え? 婚約……破棄ですか?」
「すまない、僕は君の妹と結婚する事にしたんだ」
姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します
しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。
失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。
そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……!
悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。
「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」
侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。
「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」
そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。
ざまぁを回避したい王子は婚約者を溺愛しています
宇水涼麻
恋愛
春の学生食堂で、可愛らしい女の子とその取り巻きたちは、一つのテーブルに向かった。
そこには、ファリアリス公爵令嬢がいた。
「ファリアリス様、ディック様との婚約を破棄してください!」
いきなりの横暴な要求に、ファリアリスは訝しみながらも、淑女として、可憐に凛々しく対応していく。
【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!
しずもり
恋愛
ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。
お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?
突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。
そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。
よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。
*なんちゃって異世界モノの緩い設定です。
*登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。
*ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。
「これは私ですが、そちらは私ではありません」
イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。
その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。
「婚約破棄だ!」
と。
その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。
マリアの返事は…。
前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。
聖女の妹によって家を追い出された私が真の聖女でした
天宮有
恋愛
グーリサ伯爵家から聖女が選ばれることになり、長女の私エステルより妹ザリカの方が優秀だった。
聖女がザリカに決まり、私は家から追い出されてしまう。
その後、追い出された私の元に、他国の王子マグリスがやって来る。
マグリスの話を聞くと私が真の聖女で、これからザリカの力は消えていくようだ。
悪役令嬢は毒殺されました……え? 違いますよ。病弱なだけですけど?
レオナール D
恋愛
「カトリーナ、悪いけど君との婚約は破棄させてもらうよ」
婚約者から告げられた一方的な婚約破棄。おまけに動機は他に運命の女性と出会ったからという明らかな浮気だった。
馬鹿な理論を口にする元・婚約者。こちらを煽るように身勝手なことを言ってくる浮気相手。周囲から向けられる好奇の眼差し。
あまりにも理不尽な状況に、カトリーナの胃はキリキリと痛みを訴えてきて、病弱な身体はとうとう限界を迎えてしまう!?
追い詰めたのはそちら。どうなっても知りませんからね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる