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 時刻は昼休み。昼食の時間となった。今日は友人達と庭園で共に、という約束をしてるので、お弁当だ。伯爵家お抱えの素晴らしいシェフが、腕によりをかけて用意してくれたとのこと……う~ん楽しみ。

 どこにしようか?あの木陰は?ベンチは?そちらの芝生もいいわね。
 なんて皆とワイワイ話しながら、学内の庭園を散策する。が、不意に腕が引かれた。

「エリス、ちょっとこっち来て!」

 私の腕を引いたのは、学友の一人である女子生徒。今日のランチを約束してる子達とはまた別の、クラスが異なる子だ。
 なんだか切羽詰まったというか、緊迫感を感じさせる真剣な面持ちの友人に気圧されて、私はお弁当片手に引っ張られるままどこぞへと連れて行かれてしまった。

 そしてとある校舎裏で彼女は止まった。

「こっちこっち!エリス、この壁の影から、そうっと向こうを覗いてみて!」

 なんだどうした、一体何があったの。意味が分からないけど、どうやらコソコソしなければいけない、というのだけは分かった。友人は声を潜めながら怒鳴るという、器用な事をしながら私を手招きした。
 ……ちなみに、お弁当を共にする約束をしていた学友は、皆後ろに付き従ってたりする。野次馬というやつか。まあいいけど。

 私の腕を引っ張って来た友人が言う壁。そこにはその友人以外にも、彼女がお昼を共にする予定であったのであろう女生徒が数名いた。皆一様に壁に張り付いて、コソコソしながら向こうをうかがっている。なんか凄い光景なのだけど。

 なんなの?と近づけば、私に気付いた彼女達が一斉にその場所を開けてくれた。私に見てみろ、というか私こそが見るべきだ、ということなのだろう。

 促されるまま私は壁に張り付いて、こっそりと向こうを覗き見ました。

「……」

 言葉を失うとはこのことなんだろうね。
 壁からこっそり覗き見た向こう。なんとそこには……

「サルボス様、私寂しかったです!」
「俺もだよベリイ!」

 校舎裏で抱きしめ合う男女が二人いたのである。それだけなら逢瀬なんだな、と思ってそそくさと立ち去る案件なのだろうが……いかんせん、その男女に問題があるのですよ。
 女がサルボス様、と呼ぶ人。そうです、抱きしめ合う男女のうち、男は私との復縁を迫って来た阿呆な侯爵令息だったのである。

 そしてそのサルボスが、ベリイと呼んで抱きしめる女性。
 それは……私との婚約破棄の原因となった男爵令嬢。その人だったのである。

 息を呑む私の前で、二人は話し続ける。

「もう少しの辛抱だ。俺はエリスと結婚するから……そしたらお前を愛人として囲ってやるからな」
「うう……愛人なんて悲しすぎます」
「仕方ないんだ、こうするより他には……庶民となるのは嫌だろう?」
「絶対嫌です!」
「なら我慢だ。なあに心配するな、エリスとは形だけの夫婦になるだけで、俺の愛はベリイ、お前にある」
「はい、信じてます。愛してますサルボス様……」
「俺も愛してるよベリイ」

 はいアウト、完全に黒ですね。誰も頼んでないのに、勝手にベラベラと話してくださってありがとうございます。
 いやあ、まさか学内で浮気現場を見てしまうとはねえ。
 正確には私とサルボスは付き合ってないので浮気ではないのだけど。私を愛してるとか言ってた口は、どこに飛んで行ったんだろうね。

 浮気というか……むしろこれは結婚詐欺ではないか?
 まだ結婚してないから未遂?
 まあそんなことはどうでもいいか。
 この状況で私が突入すれば、何の問題もなくサルボス様を排除できるというもの。

 二人の前に姿を現そうと、私が一歩足を踏み出しかけたその時。

 誰かの手が、ポンと私の肩に置かれたのである。


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