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しおりを挟むお父様が怒りにワナワナと震えてるのが見えないのか、サルボスは呑気に冷めたお茶をすする。ズズッと音を立てるとか、もうないわ。侯爵令息とは思えない行動、ないわ~ホントないわ~。
怒りのあまり言葉がない父に代わり、私が質問する。
「そもそもサルボス様……侯爵ご夫妻はこの件に関してご存知なのでしょうか?」
サルボスには、侯爵夫妻に何も言わずに私との婚約を破棄した、という前科がある。今回も非常に嫌な予感がするのだが。
「知ってるわけないだろう」
はい、当た~り~。
見事に的中しましたよ。ああ、やはり……。
内心ではなく、実際に頭を抱えてしまった私をカラカラと笑って見ているサルボス。殺意。
「まあそう心配するな。元々俺の両親とお前はうまくやっていたではないか。心配する必要もなかろう」
そういうことを言ってるのではない。私が聞きたいことを読み取れないレベルの頭しかないサルボスは、人として大丈夫なのだろうか。……まあ彼の事を心配する必要は、私にはないのだけど。
「そうではなくてですね。私との婚約破棄で随分とお怒りになっていたとお聞きしました。なのに今回も勝手に決めて突っ走って、大丈夫なのですか?」
そう言えば、ちょっとばつが悪そうな顔になるサルボス。さすがにあれはまずかった、という顔。
けれどその顔はすぐにヘラヘラと、適当そうな笑いに変わる。やはり殺意。
「なに大丈夫だろう。確かにあの時は随分と怒られたが……結局元に戻るのだ、褒められはすれ怒られるなんて事はないない」
ないないって……あるあるだと思うのは私だけか。
阿呆を相手にしてもこれ以上は時間の無駄。深々と溜め息をついて私は言った。
「とにかく、私は元より伯爵家としましては、サルボス様との再婚約は絶対なしの方向で……話聞いてます!?」
まさかの話の途中でのサルボス退場に、思わず叫んでしまったわ。気付けば、もうサルボス様の姿ないし!無駄に行動早いのな!
お父様同様に私はワナワナと震えて……机に突っ伏してしまった。
駄目だあいつ!ある意味で、あいつ最強だわ……。
* * *
そして休み明けの学園。
私はいつも通りの時間に教室に入り、自分の席についた。そこでいつもなら学友が話しかけてくるのだが……今日は一人も来ない。理由は一つ。
「サルボス様の教室は、ここではありませんよ」
「気にするな、授業開始の鐘が鳴れば戻る」
「そこに座られては、その席の持ち主がお困りになります」
「気にするな、授業開始の鐘が鳴れば退く」
「授業開始まであと5分もありませんが」
「気にするな、あと4分12秒もある」
時計を確認すな!
誰も寄ってこない唯一無二の理由は、私の席の前にサルボスが陣取ってる事にある。
あからさまに『迷惑です』という顔をしてるのに、全て『気にするな』で返されてしまった。気にするわい!
「どうしてここに?」
「エリスに会いに来た以外の理由が、あると思うか?」
「あれば良いのにと思います」
出来れば他の用件があって欲しい。そしたら用件が終わったら帰れ、と言えるのに。用件が私となれば追い返しにくいではないか。……立場が逆だったなら、ホウキで掃き掃除よろしく追い出すのだが。
「お帰り下さい」
あ、言えた。意外とすんなり心の声が漏れた。私も結構恐いもの知らずだわ。
「あと3分33秒ある。おお、ゾロ目だぞ」
「どうでもいいので教室にお戻りください」
「今ので3秒減った」
……怒鳴ってもいいかな。誰か私に、侯爵令息に怒鳴ってもいい許可をください!
物凄くどうでもいい。人生において、これほど時間の無駄はないだろう……という時間を過ごした後、ようやくサルボス様は教室へと戻って行かれた。
「なんなのあれ?」
サルボス様が座っていた席、私の前の席の主である学友、が至極迷惑そうに鬱陶しそうに呆れた様子で私に問いかけてきた。
「私が聞きたいわ……」
私には、そう答えることしか出来なかった。
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