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第四章〜戦士の村
19、
しおりを挟む「さあて、お前さんをどうしようかねえ」
腰に手を当て立つ俺の横には、太い腕を組んでいるガジマルド。
背後ではエリンが、シャティアとアリーの体調に問題無いか見てくれている。ちなみにシャティアの腕には小犬なビータン、俺の肩には小さな黒龍。なんかドラゴンが肩に乗ってるとか、カッコよくね!? と言ったけど誰も相手してくれなかったのが数秒前のこと。
気を取り直して目の前には、縄で縛った女魔族が床にあぐらかいて座っている。縄をどこから出したかって? そりゃ俺の収納魔法があれば、なんだって入るからね。何に使うかは聞いてはいけない。
サティはブスッと頬を膨らませ、不機嫌丸出しの表情をしながら言った。「殺せ」と。潔い話である。
黒髪に頭から生えた雄牛のような角、エリンとは似て非なる女魔族。そういえば、魔族って黒髪しかいないんだよな。そのせいなのか、魔物も黒系が多い。エリンみたく白馬になるのは珍しいのだ。
あと美形が多い。これは人間を惑わすためだと俺は思っている。魔族による色仕掛けなんて基本中の基本。俺も何度トラップに引っかかりかけたことか……と、余談は置いといて。
「お前さあ、そんなに俺が憎いのか?」
「憎いにきまっているでしょう!? 魔王様を倒した勇者を、憎くない魔族なんていないわ!」
「いや、エリンやビータンみたいなのもいるけど?」
「そいつらがおかしいのよ!」
そこまで言うか。見ればビータンはともかく、エリンは苦笑を浮かべていた。複雑なところなんだろうな。
「魔王のどこがそんなにいいんだよ? エリンは、人を殺すノルマとか恐ろしくて仕方なかったと言ってるぜ?」
「ふんっ、魔族なら当然よ」
「つまりお前は、ノルマをこなしていたと?」
言った瞬間、俺の体からユラリと陽炎が上るのを感じた。いや、それは目に見えるものではない。それが何かを俺は知っている。
殺気。
それはそういうものだ。
何年経とうと、魔王を倒そうとも、恨みが消えないのは人間も同じこと。
もし目の前の女魔族が、人を幾人も……いや、一人でも殺めたというのなら、俺は許しはしない。
「……!!」
息を呑む魔族。俺の殺気を感じ取って青ざめる。
「おい、落ち着け」
不意に俺の肩に手が置かれた。ガジマルドだ。その瞬間、フッと俺の肩から力が抜けて、殺気が薄れた。
「魔族はともかく、アリー達が恐がっている」
言われて初めて気付いた。アリーが驚いた様子で俺を見て、その背にシャティアが隠れていることに。
「すまん」
「まあ仕方ないさ」
こればっかりはな。
ガジマルドの言葉に、俺は苦笑いを返す。
アリーもシャティアも素人というわけではない。だが冒険者としては初心者。そんな二人が気付いて恐れてしまうほどの殺気を出していたのかと、自身の未熟さを後悔する。
(怖がらせてしまったな……)
しかし娘二人以上に青ざめているのは、俺の殺気をもろにくらった魔族だろう。
もう俺から殺気は出ていないが、それでも恐怖は植え付けられたようだ。今なら素直に俺の質問に答えるかな。
「もう一度聞く。お前は人間を殺したのか? 命令ではなく、自らの意思で罪なき人々を?」
「……いいや」
言ってから、俯いて魔族は首を横に振った。
「いや、殺した。それは認めよう。ただ……」
「ただ?」
「戦場で相対した、敵だけだ」
民間人や不要な殺しはしていない。
そうサティは呟くように言った。それが本当か嘘かなんてわからない。魔族は嘘を平気でつく存在だ。
だからこれは俺の勘だ。彼女は嘘をついていないという、ただの俺の勘。だが俺は知っているのだ、俺の勘は結構当たるってことを。
彼女はシャティアやアリーを傷つけなかった。その気になれば、俺の前に彼女たちの無残な姿をさらすことだってできただろう。そうすれば俺やガジマルドの精神はかなり不安定になったろうに、けれど彼女はそうはしなかった。卑劣な魔族ならば、必ずすることを、彼女はしなかったのだ。
だったら信じてみてもいいのかもしれない。
「戦場での死は、誰も文句は言えないだろう。それはお互い様だし、罪に問われることじゃないさ」
俺だって、魔王を筆頭に魔族や魔物を数多殺して来たのだ。それは全て人のためではあったが、魔族からすれば俺こそが魔王そのものなのだろう。どちらも善でどちらも悪。それが戦争だ。
「けれど私は罪なき娘二人をさらったぞ?」
「だから自分を殺せってか? 危害を加えていない相手を殺すことなんて、俺にはできねえよ」
「勇者に敗北した私に、生き恥をさらせと?」
「ならこうしよう」
言って、俺はしゃがんで目線をサティと同じ高さにする。正面から覗き込む俺の顔を、サティは訝し気に見つめる。
「お前さん、俺と一緒に旅をしないか?」
「は?」
「なに、既にエリンとビータンという魔族が増えるんだ。もう一人くらい増えたからって困らんさ」
「いや、私は別にお前なんかと……」
「旅を通じて、魔王の話を聞かせてくれや」
「聞いてどうする」
「ま、意味があるかどうかはお前さん次第だろ」
「……」
どうする?
もう一度問えば、逡巡した後、サティは俺の顔をしっかと見て言った。
「行く」
「そうか。よろしくな、サティ」
「だから私の名前はサティスティファイリュイと言っておろうが」
「長いんだってば!」
こうして俺と娘の旅路に、またも魔族が一人加わるのだった。
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