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第四章〜戦士の村

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 上位の水魔法は時間がかかる。それゆえ時間稼ぎ要員は必須だ。魔法使いがいない現在、魔法を使えない戦士ガジマルドにそれを頼むべきなのだが、あいつ一体なにやってんの?
 魔族エリンと共に行動をしているはずの戦士は、一向に姿を現す気配がない。どこぞで野垂れ死んでるとかやめてくれよ。

 しかし意外なことに、ビータンと黒龍が活躍してくれている。
 二人(一人と一匹? いや、二匹? ……二頭?)がサティの周囲をビュンビュン飛び回っているのだ。小さな体を生かしての素早さに、サティは鬱陶しくて仕方ないらしく、顔をしかめる。

「ええい、おどき! 邪魔だよ!」

 叫んでブンブンと手を振り回すも、しかしなぜか二匹に攻撃しない。

(ひょっとして、同じ魔族への攻撃はしないタイプ?)

 魔王なんて、そこらの魔族をいいように利用して自分の駒にしてたのに。ともすれば、自分への攻撃を防ぐ盾にも利用していた。自分のために傷つく魔族を笑って見ている、それが魔王だった。だから俺は基本、魔王を崇拝する魔族は最低なタイプが多いと思っていたんだけどな。

 シャティアとアリーを誘拐したが傷つけてはいないみたいだし、サティは俺のイメージする悪い魔族とはちと違うようだ。

「だからって容赦しねえけどな」

 詠唱を続けていたはずの俺が言葉を発する。それはつまり詠唱が終わったことを意味する。

「よっし、ビータンに黒龍、時間稼ぎはもう十分だ! 危ないから下がってろよ!」

 俺の言葉に二匹が反応し、飛びのいた。それを確認してから、俺は右手を前面にかざす。

「全ての炎を消し去れ、水龍!!」

 けして本物のドラゴンを呼び出したわけではない。だが、ゴオッと大きな音を立てて現れた水は、まさしく龍。その勢いそのままに、まるで本物のドラゴンのように水はグワッと口を開いた。

「なんだって!?」

 驚きに目を見開くサティの眼前で、水は炎の竜巻を呑み込んだ。一瞬にして、炎が鎮火する。

「なん……」

 言葉を失うサティ。そうだろうそうだろう、なんなら『凄い』の一言も言っていいんだよ。
 と、得意げに頷く俺の目に、光るものが見て取れた。

「んおっ!」

 変な声が出た。
 鎮火の煙の間をぬって、間髪入れずにサティが爪攻撃を仕掛けてきたのだ。

「さすがだな、油断がない」
「当然だろ、いつだって最悪の事態を考えて動くものさ!」
「そりゃ殊勝なことで」

 しかし彼女は気付いていない。気付くべきなのに、それを妨げるのは、煙のような水蒸気。シャティアとアリー、ビータンも黒龍の姿も見えない。見えるのは、すぐ近くにいるサティの姿だけ。
 だから彼女は気付かないのだ。

「水龍魔法があれで終わりと思うなよ?」

 わざわざ教えてやる義理はない。だから俺は自分にしか聞こえない小さな声で、ボソッと呟いた。
 だがヒントくらいは与えてやろう。
 俺は敢えて上に視線を向けた。

「よそ見とは余裕だね」
「いやあ、そうでもないさ」
「──!?」

 俺の言葉に何を感じ取ったかは知らない。一瞬で気配を感じ取ったのか、サティは自身の頭上を見た。
 だがもう……

「遅いよ」

 俺の言葉と同時。
 グワッと大きく口を開けた、ドラゴンを模した水がサティをあっという間に飲み込んだ。

「……!!」

 叫ぶ余裕もない。
 俺の目の前で、驚愕に目を見張るサティが水に飲まれて沈んだ。

「お疲れさん」

 俺の言葉が誰に向けてか。
 理解できる者はいないだろう。
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