40 / 44
第四章〜戦士の村
16、
しおりを挟むカッコつけたはいいが、尻丸出しの俺は、その時点でハンデを抱えている。つまりは娘二人に尻を見られないように動き回らねばならないという。
「くっそお……おい黒龍、俺の動きが制限される原因を作ったんだ。責任もって俺のサポートしろよ」
「がる」
なんかちっこいドラゴンが頷いて返事しても、迫力皆無なのな。可愛いしか勝たん。ドラゴンのくせして、小さくなると鱗はどこへやら、モフモフな毛で覆われるのなんで。それは卑怯。可愛すぎて卑怯。
鳥のような翼のビータンはアゴやら鼻周りやらが白毛もあるし、黒龍とは似て非なる容貌をしている。
だが二匹の共通点は【可愛い】だよなあ。シャティアとかが目を輝かせそう。
「なにそれ可愛い! ビータンお友達できたの!? おいでおいで~!」
はい、うちのおバカな娘が、案の定目をキラキラさせてビータンと黒龍を呼んでおりますよ。お前に緊張感という物はないのか。ないよな。でなきゃ監禁された状況で、モフモフな魔物に埋もれるとかないから。有りえないから。
「くおら! ビータンも黒龍も、今は俺のサポートに必須なんだよ! 勝手に呼ぶんじゃねえ!」
「ぶー」
ぶーじゃねえわ! なんなら俺の丸出し尻からその音出してやろうか!? さすがに下品が過ぎるのでしないけど! とりあえず尻を隠すための布が欲しい。
キョロキョロ周囲を見回していたら「隙だらけだね!」と叫んで女魔族が斬りかかって来た。うおお、あっぶねえ!
剣かと思ったら、女魔族の黒い爪が異様に伸びてやがる。あれ刺さったら痛いよなあ。
「さすが勇者。簡単に避けるね」
「まあな。お前さんもなかなか強そうなこって」
数多の魔族と戦ってきた俺だ、相手の戦力くらい推して知るべし。こんな大きな城を持つ魔族なのだ、女はかなり上位に位置するのだろう。なぜ魔王との最終決戦の場に居なかったのか、理由は不明だが。
「サティスティファイリュイ」
「うん、なんだって?」
それは新たな呪文か何かか?
聞き覚えのない言葉に首を傾げたら、もう一度「サティスティファイリュイ」と言う女魔族。だからなんなのそれ。
「私の名前だよ」
「え。あ、そなの」
まさかの名前。長すぎないか? 親は何を考えてつけたんだ。魔族語で何かしら深い意味でもあるのだろうか。
「お前と呼ばれる筋合いはない。私の名前はサティスティファイリュイ」
「いやなげえし。サティでいいんじゃね?」
言った瞬間、風が起こった。目の前、顔面スレスレを光が一閃する。そしてそれは俺の前髪を確実に切り取った。
「うおお! 俺の前髪ぱっつんぱっつん!!!!」
「余裕なことで」
言って俺を睨むのは、長い名を名乗った魔族。その顔に今は笑みはなく、俺を憎々し気に睨むのみ。
「そんなに俺が憎いか?」
「憎い」
「魔王を倒したからか?」
「それもあるが……今は、お前が私の名を呼んだことが何より憎らしい!」
「なんでだよ! サティって略したことに怒ってんのか!?」
「黙れ!!!!」
叫んでまた女が斬りかかってきた。プラス魔法の火炎がゴオオと音を立てて襲い来る。
「魔族ってのは、ほんと火の魔法が好きだよな!」
おかげで俺は水の魔法に特化したぜ!
叫ぶと同時に手に魔力を込める。面倒な詠唱なんぞ俺には不要。ひたすら時間の無駄を省きたいと修行をした結果、中位魔法くらいなら詠唱無しで発動できるようになったのだ。
左手に徐々に集まる水の気配。それをそのまま振って魔法を繰り出す。
ブシュッと音を立てて、左手から水が噴き出した。それは細く、まるで鞭のようにしなる。ただし鞭のようにいなすことは不可能。なにせ元は水だ、剣で払おうが分断しようが、すぐに再生する。それが水魔法。
「ちっ」
それを理解しているのだろう。
水の鞭がサティが放った炎を消してなお向かって来るのを認めて、サティが背後へと飛びのいた。ザンッと水の鞭の先端が、床に突き刺さる。水とは柔軟にして堅牢なのだ。
水の動きを見たサティの目が細められる。
次の瞬間、ゴオッと音がしたかと思えば、凄い風が巻き起こる。まるで竜巻のごとし。サティが放った魔法であろうそれに、更に彼女は竜巻の中に炎魔法を放った。
するとどうでしょう。
あら凄い、あっという間に火炎竜巻の出来上がり!
「えええ……いくら広いからって、室内でそんなのぶっぱなす!?」
炎の竜巻を前に、さすがに焦る俺。チラリと見れば、熱さに顔をしかめるシャティアとアリーが見えた。牢に囲まれた二人は、逃げることもできない。どうなろうと知ったことではないということか。
「さすが魔王を心酔する魔族。やることがえげつないねえ」
「お前が魔王様を語るな!」
「別に語ってねえけどよ」
俺の言葉がどう魔王侮辱に繋がるかは知らんが、更に怒りを増したサティが火炎竜巻を俺へと向ける。ゴオゴオと燃え上がる炎の勢いに、さすがの俺もたじたじだ。本来なら、僧侶エタルシアが防御魔法をかけてくれたり、魔法使いハリミが援護魔法してくれるんだけどな。
今はどちらも存在しない。
あるのは俺一人の身。と、ビータンと黒龍だけ。
「勇者なら、どんなピンチでも切り抜けなきゃなあ」
引退した元勇者だけど。とは心の中で呟いて、俺は最大魔力でもって水魔法を放つべく構えた。しかし上位魔法ともなれば、詠唱が必要。
「ビータン、黒龍、時間稼げるか?」
返事は待たない。俺は信じるしかない。
真っ直ぐサティと巻き上がる炎を睨んで、俺は詠唱を始めた。
「お前のせいで……」
唱える俺の耳に、その声は届く。
23
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。
名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる