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第四章〜戦士の村

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 カッコつけたはいいが、尻丸出しの俺は、その時点でハンデを抱えている。つまりは娘二人に尻を見られないように動き回らねばならないという。

「くっそお……おい黒龍、俺の動きが制限される原因を作ったんだ。責任もって俺のサポートしろよ」
「がる」

 なんかちっこいドラゴンが頷いて返事しても、迫力皆無なのな。可愛いしか勝たん。ドラゴンのくせして、小さくなると鱗はどこへやら、モフモフな毛で覆われるのなんで。それは卑怯。可愛すぎて卑怯。
 鳥のような翼のビータンはアゴやら鼻周りやらが白毛もあるし、黒龍とは似て非なる容貌をしている。
 だが二匹の共通点は【可愛い】だよなあ。シャティアとかが目を輝かせそう。

「なにそれ可愛い! ビータンお友達できたの!? おいでおいで~!」

 はい、うちのおバカな娘が、案の定目をキラキラさせてビータンと黒龍を呼んでおりますよ。お前に緊張感という物はないのか。ないよな。でなきゃ監禁された状況で、モフモフな魔物に埋もれるとかないから。有りえないから。

「くおら! ビータンも黒龍も、今は俺のサポートに必須なんだよ! 勝手に呼ぶんじゃねえ!」
「ぶー」

 ぶーじゃねえわ! なんなら俺の丸出し尻からその音出してやろうか!? さすがに下品が過ぎるのでしないけど! とりあえず尻を隠すための布が欲しい。
 キョロキョロ周囲を見回していたら「隙だらけだね!」と叫んで女魔族が斬りかかって来た。うおお、あっぶねえ!
 剣かと思ったら、女魔族の黒い爪が異様に伸びてやがる。あれ刺さったら痛いよなあ。

「さすが勇者。簡単に避けるね」
「まあな。お前さんもなかなか強そうなこって」

 数多の魔族と戦ってきた俺だ、相手の戦力くらい推して知るべし。こんな大きな城を持つ魔族なのだ、女はかなり上位に位置するのだろう。なぜ魔王との最終決戦の場に居なかったのか、理由は不明だが。

「サティスティファイリュイ」
「うん、なんだって?」

 それは新たな呪文か何かか?
 聞き覚えのない言葉に首を傾げたら、もう一度「サティスティファイリュイ」と言う女魔族。だからなんなのそれ。

「私の名前だよ」
「え。あ、そなの」

 まさかの名前。長すぎないか? 親は何を考えてつけたんだ。魔族語で何かしら深い意味でもあるのだろうか。

「お前と呼ばれる筋合いはない。私の名前はサティスティファイリュイ」
「いやなげえし。サティでいいんじゃね?」

 言った瞬間、風が起こった。目の前、顔面スレスレを光が一閃する。そしてそれは俺の前髪を確実に切り取った。

「うおお! 俺の前髪ぱっつんぱっつん!!!!」
「余裕なことで」

 言って俺を睨むのは、長い名を名乗った魔族。その顔に今は笑みはなく、俺を憎々し気に睨むのみ。

「そんなに俺が憎いか?」
「憎い」
「魔王を倒したからか?」
「それもあるが……今は、お前が私の名を呼んだことが何より憎らしい!」
「なんでだよ! サティって略したことに怒ってんのか!?」
「黙れ!!!!」

 叫んでまた女が斬りかかってきた。プラス魔法の火炎がゴオオと音を立てて襲い来る。

「魔族ってのは、ほんと火の魔法が好きだよな!」

 おかげで俺は水の魔法に特化したぜ!
 叫ぶと同時に手に魔力を込める。面倒な詠唱なんぞ俺には不要。ひたすら時間の無駄を省きたいと修行をした結果、中位魔法くらいなら詠唱無しで発動できるようになったのだ。

 左手に徐々に集まる水の気配。それをそのまま振って魔法を繰り出す。
 ブシュッと音を立てて、左手から水が噴き出した。それは細く、まるで鞭のようにしなる。ただし鞭のようにいなすことは不可能。なにせ元は水だ、剣で払おうが分断しようが、すぐに再生する。それが水魔法。

「ちっ」

 それを理解しているのだろう。
 水の鞭がサティが放った炎を消してなお向かって来るのを認めて、サティが背後へと飛びのいた。ザンッと水の鞭の先端が、床に突き刺さる。水とは柔軟にして堅牢なのだ。
 水の動きを見たサティの目が細められる。

 次の瞬間、ゴオッと音がしたかと思えば、凄い風が巻き起こる。まるで竜巻のごとし。サティが放った魔法であろうそれに、更に彼女は竜巻の中に炎魔法を放った。
 するとどうでしょう。
 あら凄い、あっという間に火炎竜巻の出来上がり!

「えええ……いくら広いからって、室内でそんなのぶっぱなす!?」

 炎の竜巻を前に、さすがに焦る俺。チラリと見れば、熱さに顔をしかめるシャティアとアリーが見えた。牢に囲まれた二人は、逃げることもできない。どうなろうと知ったことではないということか。

「さすが魔王を心酔する魔族。やることがえげつないねえ」
「お前が魔王様を語るな!」
「別に語ってねえけどよ」

 俺の言葉がどう魔王侮辱に繋がるかは知らんが、更に怒りを増したサティが火炎竜巻を俺へと向ける。ゴオゴオと燃え上がる炎の勢いに、さすがの俺もたじたじだ。本来なら、僧侶エタルシアが防御魔法をかけてくれたり、魔法使いハリミが援護魔法してくれるんだけどな。
 今はどちらも存在しない。
 あるのは俺一人の身。と、ビータンと黒龍だけ。

「勇者なら、どんなピンチでも切り抜けなきゃなあ」

 引退した元勇者だけど。とは心の中で呟いて、俺は最大魔力でもって水魔法を放つべく構えた。しかし上位魔法ともなれば、詠唱が必要。

「ビータン、黒龍、時間稼げるか?」

 返事は待たない。俺は信じるしかない。
 真っ直ぐサティと巻き上がる炎を睨んで、俺は詠唱を始めた。

「お前のせいで……」

 唱える俺の耳に、その声は届く。
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