上 下
37 / 44
第四章〜戦士の村

13、

しおりを挟む
 
 この世界にはドラゴンはたくさん生存していて、魔王筆頭に上位魔族は必ず一体は従えている。
 その中でもゴールドドラゴンとブラックドラゴンの強さは別格。どちらを従えさすかは魔族の好みだが、魔王はゴールドドラゴンを数体従えていた。派手好きだったんだろう。
 対してこの城の女魔族は、どうやら渋い好みらしい。

「ブラックドラゴンとはねえ……」

 正直に言えば、金龍より黒龍のほうが俺は苦手だ。死のブレスもそうだが、なんとなく吐く炎の威力が強い気がする。それにあの黒さは夜に戦ったら確実に闇に紛れて面倒。感情が読めない金の瞳も、嫌な感じがする。

「さて、どうするかな」

 僧侶の防御魔法はない、魔法使いの援護射撃も期待できない。
 かと言って、二手に分かれて気を逸らす、という戦法も使えないときてる。

「うーん、どうすべ」

 などと呑気に言ってはいるが、実際には猛ダッシュでドラゴンの猛攻撃……つまりは炎の息攻撃を避けながら考えている。ちなみに脇には相変わらずビータン抱えてます。
 と、そこでようやく思い出したというように、キキッと止まって脇を見た。

「お前も一応真っ黒で牙と翼持ってる魔族だよなあ」

 可愛い子犬の姿に見慣れてしまってたもんだから、すっかり忘れていた。
 そうだよこいつも、魔族の端くれ。

「最初出会った時、黒狼に翼生えた姿してたよな。あれでどうにかなるか?」

 聞けば、凄い勢いで首を横に振られてしまった。直後飛んできた炎を避けて「だよな!」と納得。
 まあ無理だとは思ったけど。

「でも」
「?」

 なんだ、どこから声がした? と首を傾げれば、どうやらビータンが言葉を発したらしいと気付く。
 人型になれる実は魔物ではなく魔族なビータン。話せるんだろうとは思っていたが、実際に声を聞いたのは初めてだ。それはとても幼い、小さな男の子の声そのもの。

 驚く俺をチロリと見上げる子犬は言った。

「大きくなれば、なんとか戦えるかも」
「大きく?」

 いやいや無理でしょ、だってドラゴンだよ?
 ちょっとした塔レベルの大きさ相手に、せいぜいちょっと大きな狼程度のビータンが敵うわけ……

「うおっ!?」

 敵うわけないだろ。
 そう俺が考えるよりも早く、突然突風が吹いた。思わず剣を地面に突き刺す。そうでもしなければ、吹き飛ばされそうだから。

「な、なんだあ……?」

 目を開けていることもできないくらいの強風の中、不意に風がやんだと目を開けば、目の前に白黒の壁が立っていた。って、これ壁じゃねえし! ふっさふっさの毛が生えてる壁があったらキモイ!

「ビータン!?」

 見上げれば、白い顎の毛が見えた。全身黒に目の周囲が白く、顎も白い。手足の先も白い。
 見た目は狼、色目は犬のようなビータンが、黒龍に負けず劣らずな大きさになっていたのである。

「えええ……マジかよ……」

 なんてこったい、ビータンは大きさが自由自在だったのか。
 にしてもこんなに大きくなっても、基本は狼。バサリと翼は生えているものの、黒犬のような狼な容姿は健在だ。

「背中に乗って眠りて~」

 現実逃避なことを考える俺であった。
 が、そんな間抜けなひと言が引き金となったようで、睨み合っていた黒龍とビータンは次の瞬間、取っ組み合いのバトルを始めたのである。それはまるで獣同士の戦い。合間合間に炎が飛んできたりするのは、獣らしくないが。

「どおおおお!!!!」

 狭い室内にデカイ魔物が二体、ドッスンバッタン大騒ぎ。
 その中で必死に逃げまどう俺。
 それがどれだけ大変で命がけか……まあ察してくれ。

 戦いと俺の回避行動は、30分ほど続き。
 そしてついに戦いは終わる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

処理中です...