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第四章〜戦士の村
13、
しおりを挟むこの世界にはドラゴンはたくさん生存していて、魔王筆頭に上位魔族は必ず一体は従えている。
その中でもゴールドドラゴンとブラックドラゴンの強さは別格。どちらを従えさすかは魔族の好みだが、魔王はゴールドドラゴンを数体従えていた。派手好きだったんだろう。
対してこの城の女魔族は、どうやら渋い好みらしい。
「ブラックドラゴンとはねえ……」
正直に言えば、金龍より黒龍のほうが俺は苦手だ。死のブレスもそうだが、なんとなく吐く炎の威力が強い気がする。それにあの黒さは夜に戦ったら確実に闇に紛れて面倒。感情が読めない金の瞳も、嫌な感じがする。
「さて、どうするかな」
僧侶の防御魔法はない、魔法使いの援護射撃も期待できない。
かと言って、二手に分かれて気を逸らす、という戦法も使えないときてる。
「うーん、どうすべ」
などと呑気に言ってはいるが、実際には猛ダッシュでドラゴンの猛攻撃……つまりは炎の息攻撃を避けながら考えている。ちなみに脇には相変わらずビータン抱えてます。
と、そこでようやく思い出したというように、キキッと止まって脇を見た。
「お前も一応真っ黒で牙と翼持ってる魔族だよなあ」
可愛い子犬の姿に見慣れてしまってたもんだから、すっかり忘れていた。
そうだよこいつも、魔族の端くれ。
「最初出会った時、黒狼に翼生えた姿してたよな。あれでどうにかなるか?」
聞けば、凄い勢いで首を横に振られてしまった。直後飛んできた炎を避けて「だよな!」と納得。
まあ無理だとは思ったけど。
「でも」
「?」
なんだ、どこから声がした? と首を傾げれば、どうやらビータンが言葉を発したらしいと気付く。
人型になれる実は魔物ではなく魔族なビータン。話せるんだろうとは思っていたが、実際に声を聞いたのは初めてだ。それはとても幼い、小さな男の子の声そのもの。
驚く俺をチロリと見上げる子犬は言った。
「大きくなれば、なんとか戦えるかも」
「大きく?」
いやいや無理でしょ、だってドラゴンだよ?
ちょっとした塔レベルの大きさ相手に、せいぜいちょっと大きな狼程度のビータンが敵うわけ……
「うおっ!?」
敵うわけないだろ。
そう俺が考えるよりも早く、突然突風が吹いた。思わず剣を地面に突き刺す。そうでもしなければ、吹き飛ばされそうだから。
「な、なんだあ……?」
目を開けていることもできないくらいの強風の中、不意に風がやんだと目を開けば、目の前に白黒の壁が立っていた。って、これ壁じゃねえし! ふっさふっさの毛が生えてる壁があったらキモイ!
「ビータン!?」
見上げれば、白い顎の毛が見えた。全身黒に目の周囲が白く、顎も白い。手足の先も白い。
見た目は狼、色目は犬のようなビータンが、黒龍に負けず劣らずな大きさになっていたのである。
「えええ……マジかよ……」
なんてこったい、ビータンは大きさが自由自在だったのか。
にしてもこんなに大きくなっても、基本は狼。バサリと翼は生えているものの、黒犬のような狼な容姿は健在だ。
「背中に乗って眠りて~」
現実逃避なことを考える俺であった。
が、そんな間抜けなひと言が引き金となったようで、睨み合っていた黒龍とビータンは次の瞬間、取っ組み合いのバトルを始めたのである。それはまるで獣同士の戦い。合間合間に炎が飛んできたりするのは、獣らしくないが。
「どおおおお!!!!」
狭い室内にデカイ魔物が二体、ドッスンバッタン大騒ぎ。
その中で必死に逃げまどう俺。
それがどれだけ大変で命がけか……まあ察してくれ。
戦いと俺の回避行動は、30分ほど続き。
そしてついに戦いは終わる。
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