上 下
31 / 44
第四章〜戦士の村

7、

しおりを挟む
 
 白髪交じりの赤髪の巨漢が、地面に寝そべってボリボリと腹を掻く。
 それからムニャムニャ言いながら「う~ん、筋肉……」とか言っていたら、どうすべきか。

「このド阿呆!!!!」

 正解は怒鳴って頭殴って、水をぶっかける、でした。
 いや俺はやってないよ? やったのはガジマルドの奥さんであるササラ。
 だから

「──ハッ!! 何しやがる、このセクハラ勇者が!!」

 とか言って、寝起き早々俺の首を絞めるのはやめていただけますか。とんだ飛び火。

「っと。なんだササラか。どうしたんだ?」

 空になったバケツを持っているササラに気付いて、パッと俺から手を放すガジマルド。まずは俺に謝れ。

「──なんだこの状況は……」

 しかし俺への謝罪をする気配もなく、周囲を見渡してガジマルドは眉を潜めた。
 それもそのはず、あちこちで魔物の死骸が転がっているのだから。あ、勿論9割以上は俺が仕留めたよ。一応村人も善戦してたが、俺がいなかったら危なかっただろう。

「というわけで俺に感謝しろ」
「ササラ、これは一体どういうことだ。説明してくれ」

 気持ちいいほどの無視な! いいけどよ!
 ガジマルドとの関係なんて、昔からこんなもんだ。戦闘ばかりの日々で、いちいち感謝してたらキリがない。でもさあ、たまには礼を言って欲しいと思うのよ僕ちんとしては。
 ササラに事情を説明されて、ようやく理解が追い付いたガジマルドに、俺はもう一度「俺に感謝しろ!」とドヤ顔してみた。結果は頬をビンタされて終わるという結末だったがな。

「なんで殴んだよ!?」
「るせえ! お前がいながらなにアリーとシャティアを簡単にさらわれてやがる!」
「気絶して戦力外だったお前が言うな!」

 この言葉はかなり効果ありだったようだ。ウグッと言葉に詰まるガジマルド。更にササラの「本当にね。この役立たず亭主」がトドメとなった。
 暗雲立ち込める顔で分かりやすく落ち込む巨漢が出来上がりました。ウザイ。

「とりあえず、助けに行くぞ。相手の城とやらに一週間以内に助けに行かにゃ、二人がヤバイ。実際はもっと早くに行かないとヤバイ気がするから。とにかく急ぐぞ、準備しろ」

 人間落ち込んだ時に立ち直るためには、何かしら作業に没頭するのが良い。そんなわけで、落ち込んでいる暇はないとガジマルドにはっぱをかける。

「どこにだよ」

 俺の気遣いを無視して、まるで死人のような顔で聞いて来た。恐いからイッた目で見んな。

「どこって?」
「相手の城って……その女魔族の城ってどこにあんだよ」
「え。お前知らないの?」
「知るわけないだろうが! 俺はそんな女魔族が、ずっとこの村を狙っていたことすら知らなかったっての!」
「マジかよ」

 これは明らかに想定外。てっきりガジマルドが知っていると思ったのに。いきなりつまづいてしまったではないか。

「どどど、どうしよう?」
「俺に聞くな! くっそお、一人くらい魔物生きてないか!?」

 なるほど。生きているやつがいたら、城まで案内させられれるわな。
 が、しかし、生きている魔物は一体も居なかった。

「……うん、やっぱ俺って最強ってことで」
「ばっかやろおおおお!!!!」

 俺の強さが仇になった。とは口が裂けても言わん。俺はただ村人を守るために頑張っただけでい!
 それはガジマルドにも分かっているのだろう。さすがに俺を責めはしないが、「バカ」呼ばわりされるのは結局責めているのではなかろうか。いいけどさ。

「さてどうしよう」
「どうすんだよお」

 40代の白髪交じりのオッサン二人。額突き合わせてどうすんべと考え込む。が、知らないものは知らないのだ、どうしようもないではないか。さて困った。
 とその時だった。

「あのう……」
「エリン?」

 見れば白馬が側に立っていた。そういやエリン、馬のままだったな、忘れてたわ。

「うお!? 馬がしゃべった!」

 エリンを紹介する間もなく、次から次へと事件が起きた結果、しゃべる馬に驚くガジマルドが出来上がった。

「お前知らないのかよ。今どきの馬はしゃべれるんだぞ」
「マジで!?」
「んなことも知らないのかよ、常識だぞ。おっくれってる~」
「そ、そうなのか……」

 頑張った俺を労ってくれないのだ、これくらいのからかいは許されるだろう。
 ププッと笑っていたら、目の前でエリンが白馬から魔族の姿へと変化した。

「うげ、グロテスク……」
「まあ途中経過は見ないに限るな」

 初見にはショックが大きい変身シーンを終えて、エリンがモジモジしながら言った。

「私、あの魔族の城、多分知っていると思うんだ」
「え」

 ギョッとする俺らの視線に、困ったように顔を赤らめるエリン。なんで。
 どうやらあまり注目されることに慣れていないらしい。
 モジモジちゃんは、おずおずと言った。

「城まで案内しようか?」

 その提案に否やがあろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...