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第四章〜戦士の村

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「よく来たな、歓迎するぞ!」
「ガジマルド、久しぶりゅ!」

 言葉の最後はけして噛んだわけではない。ガジマルドが住む村とやらに着いたら、昔とちっとも変わらない巨漢が走って来るのが見えた。よお、と手を挙げる俺を、走って来た勢いそのままに、ムギュッと抱きしめてきたのだ。誰がって、ガジマルドが。
 シャツを着ていても分かる胸筋の感触が気持ち悪い。なんなの、最近の俺こんなんばっか。

「よく俺が来たのが分かったな」
「村に近付く奴がいたら、直ぐに俺に報告が入ることになってるんだよ」
「へえ」

 元勇者一行であるガジマルドが生まれ育った村。パーティーが解散したあと、奴はこの村に帰って来たのだ。そして当然のように村長になっているらしい。村長というより用心棒じゃねえの?

「白髪交じりの金髪の野暮ったいオッサンが来たって聞いて、すぐにお前だと分かったぞ!」

 そう言って、ガジマルドはガハハと豪快に笑ってバンバンと俺の背を叩く。痛いんですけど。

「お前だって白髪交じりのオッサンだろうが」
「そうなんだよなあ。綺麗な赤髪にメッシュが入ってるみたいでいい感じだろ?」
「ほざけ」

 どこがいい感じなのだと細目で言えば、またガハハと笑う。
 変わってないなあ、こいつは。まるで十年前に戻ったようだ。
 同じ男ということもあり、女性陣二人よりも共に過ごした時間は長い。こいつになら背中を預けられると心から信じられる、無二の親友……大切な仲間だ。どれだけの時間があこうとも、会えばすぐに昔のような関係に戻れる。そのことが何より嬉しい。

「にしても、お前が今更旅に出るなんてな」
「俺は田舎でのんびり農業してたかったんだよ。こいつが来なけりゃ……」

 言って俺はシャティアを振り返った。キョトンとした顔で、俺達を見つめるシャティア。
 こいつが俺の娘だと知ったら、ビックリするだろうなあ。
 コホンと咳払い一つして、俺はガジマルドを見た。

「信じられないだろうがな。こいつは俺の……」
「よお、久しぶりだなシャティア!」
「お久しぶりです、ガジおじさま!」

 俺の娘。
 最後まで言わせてもらえず、俺の目の前でシャティアがガジマルドにギュッと抱きついた。な、なんだとお!?

「え、なに、お前ら知り合いなの?」

 なんで? と目を丸くしたら、シャティアを軽々と持ち上げたガジマルドが「エタルシア達とはずっと交流してたからな」と言うではないか!

「俺には十年音沙汰なしだったのに?」
「お前最初の五年くらいはフラフラして根無し草だったろうが。どこに居るかも分かんねえ奴とどうやって交流するんだよ」

 そう言われたらぐうの音も出ない。

「でもよお、なんか寂しい……」
「五年間、色んな女と関係もってたクズ野郎のことなんざ知るか」
「胸をえぐってくるなあ」
「お前の胸なんざ興味ねえよ」

 言って、シャティアを下ろしたガジマルドは、分厚い胸板をムンと張る。それを脱力しながら見つめる俺であった。

「シャティアは赤ん坊の頃から知ってるぞ」
「マジかよ」
「あの二人と関係もってたのにもビックリだが、お前の子供を産む気になったあいつにもビックリだ」
「つまりお前は、シャティアの産みの母がどっちか知っているんだな?」
「そりゃ知ってるだろうさ」
「どっちだ!?」

 最初は興味なかった実の母だが、さすがにこう焦らされると気になって来る。
 が、アッサリ「教えねえ」と断られてしまった。だよな!

「あの二人に会いに行って、答えを知るのが旅の目的だろ?」
「一応シャティアを送り届けるのが一番の目的のつもりなんだがな」
「送り届けてどうすんだ? 一緒に暮らすのか?」
「まさか。俺はもといた村に戻って、農家のオジサンになるんだよ」
「じゃあシャティーの嬢ちゃんはどうすんだ」
「どうするも何も、俺なんかと一緒にいるより母親と一緒に暮らした方がこいつの為だろ」

 言ってシャティアを見下ろせば、彼女もまた俺を見ていた。その目にはなぜか不安が浮かんでいる。なぜ。

「なんだよ」
「……なんでもない」

 何か言いたそうにしているのに、何もないと言ってシャティアはどこかへ行ってしまった。見知った村だから大丈夫って話だが……

「これは、追いかけたほうがいいんだろうか」
「俺が知るか」

 俺の問いにつれない返事のガジマルド。が、不意にヌッと現れた大きな女性。それはガジマルドの嫁さんだった。

「久しぶりだね、レオン」
「あ、ああ。久しぶりササラ」

 ヘラッと笑う俺に、俺より高い目線から見下ろしてニカッと笑う。

 俺らが冒険している途中で知り合ったこの二人は、魔王討伐の旅の途中だってのに、いきなり結婚したんだよな。ガジマルドはこれから魔王城という死地に赴くんだぞ!? と思ったのだが、あれよあれよと子供まで作って、村に残したっけ。
 魔王討伐の旅の途中で、時折届く手紙。そこに書かれた家族の様子に、いつも目を細めていたガジマルド。

 一人の女性を愛し続ける奴のことを、ある意味尊敬したものだ。
 解散後は当然のようにこの村に戻ったもんな。

「子供心が分かってないねえ」

 そう言うササラは、一体何人目の子供だ? と首をかしげたくなる状況……つまり彼女は赤子を抱いている。お盛んなこって。と苦笑する俺に、ビッと俺の背後を指さした。

「あれは追いかけて欲しいって顔だよ」
「え、そなの?」
「そうなの!」
「いやでも、ヘタに刺激しないほうが……」
「早く行きなさい!」
「はい!」

 有無を言わせぬ気迫でもって怒鳴られて、思わず伸びる背筋。
 横で苦笑するガジマルドをギロッと睨んでから、俺はシャティアを追いかけた。
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