26 / 44
第四章〜戦士の村
2、
しおりを挟む「よく来たな、歓迎するぞ!」
「ガジマルド、久しぶりゅ!」
言葉の最後はけして噛んだわけではない。ガジマルドが住む村とやらに着いたら、昔とちっとも変わらない巨漢が走って来るのが見えた。よお、と手を挙げる俺を、走って来た勢いそのままに、ムギュッと抱きしめてきたのだ。誰がって、ガジマルドが。
シャツを着ていても分かる胸筋の感触が気持ち悪い。なんなの、最近の俺こんなんばっか。
「よく俺が来たのが分かったな」
「村に近付く奴がいたら、直ぐに俺に報告が入ることになってるんだよ」
「へえ」
元勇者一行であるガジマルドが生まれ育った村。パーティーが解散したあと、奴はこの村に帰って来たのだ。そして当然のように村長になっているらしい。村長というより用心棒じゃねえの?
「白髪交じりの金髪の野暮ったいオッサンが来たって聞いて、すぐにお前だと分かったぞ!」
そう言って、ガジマルドはガハハと豪快に笑ってバンバンと俺の背を叩く。痛いんですけど。
「お前だって白髪交じりのオッサンだろうが」
「そうなんだよなあ。綺麗な赤髪にメッシュが入ってるみたいでいい感じだろ?」
「ほざけ」
どこがいい感じなのだと細目で言えば、またガハハと笑う。
変わってないなあ、こいつは。まるで十年前に戻ったようだ。
同じ男ということもあり、女性陣二人よりも共に過ごした時間は長い。こいつになら背中を預けられると心から信じられる、無二の親友……大切な仲間だ。どれだけの時間があこうとも、会えばすぐに昔のような関係に戻れる。そのことが何より嬉しい。
「にしても、お前が今更旅に出るなんてな」
「俺は田舎でのんびり農業してたかったんだよ。こいつが来なけりゃ……」
言って俺はシャティアを振り返った。キョトンとした顔で、俺達を見つめるシャティア。
こいつが俺の娘だと知ったら、ビックリするだろうなあ。
コホンと咳払い一つして、俺はガジマルドを見た。
「信じられないだろうがな。こいつは俺の……」
「よお、久しぶりだなシャティア!」
「お久しぶりです、ガジおじさま!」
俺の娘。
最後まで言わせてもらえず、俺の目の前でシャティアがガジマルドにギュッと抱きついた。な、なんだとお!?
「え、なに、お前ら知り合いなの?」
なんで? と目を丸くしたら、シャティアを軽々と持ち上げたガジマルドが「エタルシア達とはずっと交流してたからな」と言うではないか!
「俺には十年音沙汰なしだったのに?」
「お前最初の五年くらいはフラフラして根無し草だったろうが。どこに居るかも分かんねえ奴とどうやって交流するんだよ」
そう言われたらぐうの音も出ない。
「でもよお、なんか寂しい……」
「五年間、色んな女と関係もってたクズ野郎のことなんざ知るか」
「胸をえぐってくるなあ」
「お前の胸なんざ興味ねえよ」
言って、シャティアを下ろしたガジマルドは、分厚い胸板をムンと張る。それを脱力しながら見つめる俺であった。
「シャティアは赤ん坊の頃から知ってるぞ」
「マジかよ」
「あの二人と関係もってたのにもビックリだが、お前の子供を産む気になったあいつにもビックリだ」
「つまりお前は、シャティアの産みの母がどっちか知っているんだな?」
「そりゃ知ってるだろうさ」
「どっちだ!?」
最初は興味なかった実の母だが、さすがにこう焦らされると気になって来る。
が、アッサリ「教えねえ」と断られてしまった。だよな!
「あの二人に会いに行って、答えを知るのが旅の目的だろ?」
「一応シャティアを送り届けるのが一番の目的のつもりなんだがな」
「送り届けてどうすんだ? 一緒に暮らすのか?」
「まさか。俺はもといた村に戻って、農家のオジサンになるんだよ」
「じゃあシャティーの嬢ちゃんはどうすんだ」
「どうするも何も、俺なんかと一緒にいるより母親と一緒に暮らした方がこいつの為だろ」
言ってシャティアを見下ろせば、彼女もまた俺を見ていた。その目にはなぜか不安が浮かんでいる。なぜ。
「なんだよ」
「……なんでもない」
何か言いたそうにしているのに、何もないと言ってシャティアはどこかへ行ってしまった。見知った村だから大丈夫って話だが……
「これは、追いかけたほうがいいんだろうか」
「俺が知るか」
俺の問いにつれない返事のガジマルド。が、不意にヌッと現れた大きな女性。それはガジマルドの嫁さんだった。
「久しぶりだね、レオン」
「あ、ああ。久しぶりササラ」
ヘラッと笑う俺に、俺より高い目線から見下ろしてニカッと笑う。
俺らが冒険している途中で知り合ったこの二人は、魔王討伐の旅の途中だってのに、いきなり結婚したんだよな。ガジマルドはこれから魔王城という死地に赴くんだぞ!? と思ったのだが、あれよあれよと子供まで作って、村に残したっけ。
魔王討伐の旅の途中で、時折届く手紙。そこに書かれた家族の様子に、いつも目を細めていたガジマルド。
一人の女性を愛し続ける奴のことを、ある意味尊敬したものだ。
解散後は当然のようにこの村に戻ったもんな。
「子供心が分かってないねえ」
そう言うササラは、一体何人目の子供だ? と首をかしげたくなる状況……つまり彼女は赤子を抱いている。お盛んなこって。と苦笑する俺に、ビッと俺の背後を指さした。
「あれは追いかけて欲しいって顔だよ」
「え、そなの?」
「そうなの!」
「いやでも、ヘタに刺激しないほうが……」
「早く行きなさい!」
「はい!」
有無を言わせぬ気迫でもって怒鳴られて、思わず伸びる背筋。
横で苦笑するガジマルドをギロッと睨んでから、俺はシャティアを追いかけた。
32
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる