11 / 44
第二章〜娘との旅路
7、
しおりを挟む黒い髪、青い瞳……は、見る角度によって紫にも黒にも見える。不思議な色を宿す目が細められ、赤い唇が弧を描く。妖艶な美女は口に指を当てて「興味深いわ」と呟いた。
「畑を襲った魔物をけしかけたのは、お前か?」
「違うわ」
「では?」
「そこのお嬢ちゃん、いい勘してるって言ったでしょ。この洞窟には、子育て真っ最中の魔物がいるのよ。とはいえこの森は子育てには適していない……獣も少ないこの森は、食料があまりに少ない」
「だから畑の場所を教えたのか?」
「まあ、ね。私が昔から可愛がっている子の、その子供が生まれたんだもの。手出しはせずとも助けてやりたいと思うのが情ってもんでしょ」
「魔族がよく言うぜ」
「魔族にだって感情はあるわよ」
言って細められた目の中に宿る感情を見て、俺は剣をおさめた。
「パ……レオン!?」
シャティアが驚きの目で俺を見る。対して俺は「大丈夫だ」と答えた。てか、お前またパパって言いかけただろ。
「あの目に敵意はない。もちろん殺気も。俺達を殺す気なら、はなから話しかけてこない」
不安げに俺を見上げるシャティアを安心させるように言えば、ギュッと俺の腕にしがみついてきた。可愛いなおい!
「可愛いわね。その子、あなたの子供?」
「そうだ違う」
「どっちよ」
「どっちだろうな……いで! 俺の子だ」
思い切り腕をつねられて、非難の目を向けた先でシャティアはプウッと頬を膨らませている。
それに苦笑いしてから、俺は女魔族を見た。
「畑でさらった男……生きているか?」
「生きてるわよ。これは食べちゃ駄目って、止めたから」
感謝してよね、と言われたが、そもそも畑を教えたのはお前だろうが。
「どこにいる?」
「洞窟入ってすぐよ」
言われて驚く。バッと中に一歩足を踏み入れたら、なんのことはない、すぐそこに男が気絶して横たわっていた。影になっていて、見えなかっただけだった。
「あ!」
やれやれと男が息をしているのを確認していたら、シャティアが声を上げた。
「なんだ」
「あそこ」
シャティアが洞窟の奥を指差す。指し示す方向を見て、俺も「お」と声を上げた。
それはまるで獅子がごとき姿。ふさふさの黄金の毛を持つ獣……いや、魔物二頭が仲睦まじげに寄り添って座っている。その目にかすかに不安げな色があるも、襲いかかってこないのは魔族の女が背後に佇んでいるからか、そもそも気性の荒い種ではないのか。まあ野菜食う草食だものな。
どちらにしろ敵意のない魔物夫婦の足下には、子供と思われる小さな獣……のような魔物が三頭。あれが子供か。
襲ってくることは無いだろうと判断して、俺は男を担いで洞窟の外に出た。と、何を思ってか、シャティアがタタッと魔物に向かって駆けていく。
「おい!?」
なにする気だとさすがに焦る俺の目の前で、シャティアは「ごめんね」と言って、カバンからパンを差し出した。
「これあげる。……もう、街の畑を襲っちゃ駄目だよ」
言って、これまた警戒心なく魔物のオスの頭を撫でる。魔物はそれを目を細めて気持ちよさそうに受け入れているではないか。
「あの子……モンスターテイマー?」
「の、ようだな」
こんな状況を見せられては、もう疑いようもない。
俺の娘はモンスターテイマーであることが確定した。
43
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる