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第二章〜娘との旅路
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しおりを挟む「お願いです、勇者様。私の夫を助けてください!」
うーむ、もう俺は勇者でもなんでもない、ただのオジサンなんだけどなあ。とはいえ、頼まれて断るのも気が引ける。何より若い女性にお願いされるなんて、男としてはグッとくるものがあるんだよ。
半分気持ちは固まっているとはいえ、煮えきらない俺にシャティアも「パ……レオン、お願い。赤ちゃんのパパを助けてあげて」と言って、俺を見上げてきた。あ、そういう縋るような目はやめて、弱いのよそういうの。
「じゃあ旦那さんを無事に助けたら、礼にデートして……いっでえ!」
冗談なのに! 安心させようとしたオジサンジョークなのに、本気で足を踏むとか酷くない!?
涙目でシャティアを見たら、ジトッと軽蔑するような白い目が俺を睨んできた。あ、これ、冗談の通じない純粋な子供心に、疑心の芽を植え付けちゃったやつ?
その推察は当たったらしく、シャティアは「もういい」と不機嫌そうにプイと俺から顔をそむけて、奥さんに向き直った。
「ご安心ください、私達が必ずあなたの旦那さんを助け出しますから!」
おーい、勝手に「達」って俺を入れないでくれる?
「いいよね、パ……レオン?」
「はい」
文句も反論も、子供にジロッと睨まれたら出ませんよ。俺はコクコク頷くしかできない。
「あ、ありがとうございます、勇者様!」
「いや俺、もう勇者じゃないんで」
「ありがとうございます、パレオン様!」
「俺の名前、レオンだからね!?」
シャティアがあまりに何度も言うから、俺の名前がパレオンになってるし!
結局魔物にさらわれた男性を助けるべく、俺は魔物の巣があると思われる村はずれの森に向かうのだった。
「行ってらっしゃいませパレオン様~!」
「どうか夫をお願いします、パレオン様!」
「あーうー、ぱれおんー」
駄目だ、オッサンも嫁さんも、赤ん坊にさえも俺の名前がパレオンと認識されてしまった。
「帰ったら、ちゃんと訂正しておけよ?」
「もういっそパレオンでいいじゃない」
「良くねえよ!」
母さんが俺のためにつけてくれた名前、改名する気はありません!
「あんまり生意気だと、馬から落とすぞ」
「できるものなら」
「……」
パカパカと蹄の音を立てて馬は進む。そう、臨時で御者のオッサンから自前の馬を借りたのだ。村はずれの森ってのは近いが、結構な広さがあるらしい。そんなに生い茂ってないから馬でも進めると貸して貰って、道中はとっても快適。
俺の前にシャティアがいなければ、なのだが。
娘との馬上旅にキュンした過去は遥か遠い。今や小生意気に反抗してくる娘は、あれかいわゆる反抗期ってやつか。
「ママはこんな人のどこが良かったんだろう」
とか聞えよがしに言ってくるからめんどくさい。さすがにこんな子供に怒るような大人気ない行為はしないが、ストレス半端ない。早く馬の乗り方覚えてもらって、別行動したい。
「パパって、ひょっとして女好きなの?」
「標準的に女好きだ。あとパパ言うな」
「標準ってどれくらい?」
「……少なくとも、お前みたいな子供ができるレベルには女好きだ」
「それって、もしかしたら他にも子供がいるかもしれないってこと? うわ、パパ最低!」
パパ最低。
世の父親にとって、どんな魔法や剣による攻撃よりもクリティカルヒットな言葉だよなあ。シャティアじゃなく俺が馬から落ちかけた。泣いてませんよ、ちょっと目にゴミが入っただけだから。
まあ他に子供がってのは有り得ないんだけどな。そりゃ魔王討伐後のモテモテ期に、たっくさんの女性と関係もちましたけどね。そうならないように細心の注意を払っていたし、金持ち勇者に群がる女性に本気になるわけもなし。
既成事実を作ろうとした女はすぐにその意図が分かったから、そういった輩とは関係もってない。伊達に勇者はやってない、当時は勘も鋭かったんだよ。今は鈍ってるけど。
絶対はないのだろうが、子供ができる可能性があるのはエタルシアとハリミだけなのは確か。そこは俺、誠実なのよ。複数の女性と関係もってる時点で、誠実ってなにさって話ではあるが。
「早く馬、一人で乗れるようになりたいな」
「なんだいきなり」
「だってパパと一緒の馬になんて乗りたくないもの」
泣いてませんから。ちょっと砂埃が大量に目に入っただけで、泣いてないから!!!!
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