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第二章〜娘との旅路
4、
しおりを挟む話は聞くけど、食事の後にしてくれと言ったら、ヒゲモジャおじさんは一旦退散してくれた。
でもって食堂を出たところで待ち伏せ。
「息子を助けてください!!!!」
想像してみてくれ、脂肪たっぷりふくよかな体を持ち、無精髭をボッサボサに伸ばした俺より年上のオッサンを。そのオッサンが、涙と鼻水垂らして俺に顔を近づけてくるんだぜ?
思わず殴り飛ばしても、俺は悪くないと思う。まあ厄介なことになっても面倒なので、すんでのところで踏みとどまったが。
とにかく落ち着け、どこかで座って話でも……と言ったら、家に案内された。
どうやらオッサンは御者の仕事をしているらしく、家の横には馬小屋があったり、家の前にはそこそこ立派な馬車がある。仕事はどうしたと聞けば、それどころじゃないらしい。
オッサンは、俺達に話を聞いてもらえることがとにかく嬉しいらしく、悲しいのか嬉しいのかよく分からん涙をダーッと流して、話し始めた。
「うえうぐ、ううう、うっくずびずぶ、ぐすっあう」
「うんうん、そうか。……なに言ってるか、さっぱり分からん」
とりあえず泣くのやめて、鼻水かんでくんない?
と思ったら、俺の横で「息子さんが魔物にさらわれたって言ってる」とシャティアが口を挟んできた。
「おま、理解できるのかよ。さすがモンスターテイマー」
「……このオジサン、モンスターなの?」
「まあある意味……」
オジサンを馬鹿にするなかれ、男ならいつかは通る道。とはいえ、涙と鼻水まみれでヒゲも汚れているオッサンは、モンスターと言っても良いと思う。顔洗ってこいって言ったら、なぜかヒゲまでそってきた。感情の上げ下げが凄いなこのオッサン。
まあいい、気を取り直して、ようやく落ち着いたオッサンの話を聞く。
「最近、知り合いの農家の畑が魔物に襲われているんです」
「あれか、作物を食われるとかそういった体の?」
「はい。知り合いが、丹精込めて作った野菜がようやく収穫ってときに、食い荒らされたと嘆いていました」
「ま、よくある話だわな」
そんなのは魔物に限った話ではない。獣だって、それこそ食うに困った人間だってやることだ。
だが知り合いの家の嘆きを見たオッサンの息子は、「魔物退治する!」と鼻息荒く立ち上がったんだとか。
「息子のその闘志に燃え上がる顔は、若い頃のワシそっくりなイケメンで、惚れ惚れしましたよ」
「うん、そういう余談いらない。あと話を盛るな」
オッサンの若い頃には興味ないし、どう頑張ってもあんたイケメンとは無縁だろ。若い頃イケメンで、激変してしょぼいオッサンになった俺が言えた立場ではないが。自分のことは言われるとグサッとくるけど、人のことはいいんだよ、人のことは!
とか思ってたらシャティアがジトッと横目で見てきたので、咳払い一つ。
「で、なんだっけ、息子がさらわれた? 魔物退治からなんでそんな話になるんだよ」
「息子さんもモンスターテイマーなんですか?」
大人の話に割り込むんじゃありません。なんて文句言う暇もなく、グイと顔を寄せてきたシャティア。
なぜ勇者がこんな子どもと一緒に? と一瞬面食らったオッサンは、だが律儀にも「違うよ、あれはワシと同じ御者……の見習いだ」と答える。
「じゃあもうとっくに食われてるんじゃ「わああああ!」うるさいよ、パ……レオン」
今「パパ」って言いかけたよな。踏みとどまって言い直したことは褒めてやろう。
だがその発言は、全然褒めれない!
俺は慌ててシャティアの首根っこ掴んで、涙目のオッサンから離れて娘にコソコソ怒鳴る。
「おっ前なあ! なに絶望的発言しようとしてんの!?」
「だって本当のことだもん。普通、魔族にさらわれたら直ぐに食べられちゃうでしょ?」
もん、じゃねえわ! 可愛く言っても、発言内容の不穏さは変わらん!
「だからってまだ死んでると決まってないんだ! 可能性がある限り、悪いことを考えるのはやめろ!」
「じゃああのオジサンのお願い聞いて、助けに行くの?」
「それは行かん」
「どうして?」
「絶望的だから」
「ほらあ!」
「だからって、それをハッキリ言うなっつーの!」
小声で怒鳴り合うという器用なことを二人してしていたら、「あのう……」と思ったより近くから声をかけられて、慌てて「はい、なんでしょう!」と大声で答える。答えて声の主が、オッサンではなく女性であることに気づいた。
それは20代くらいの若い女性。美人とはいかないまでも、程よく焼けた肌にうっすらソバカスがチャーミングな女性。赤い髪を三つ編みにして、赤ん坊を抱っこしている。
「えと……?」
「突然ごめんなさい。私、さらわれた亭主の妻……この家の嫁です」
言って、女性は頭を下げた。抱っこされた赤ん坊が不思議そうに俺の顔を見る。鼻膨らませてンベッと舌出しておどければ、キャッキャと笑う赤ん坊。可愛いなおい。
「あのオジサンの息子さんって、奥さんと子供いるんだ」シャティアが言えば、女性は頷いた。
まあ俺より歳上なオッサンの息子だもんな、それなりの年齢なのは当然だろう。
「はい。うちの亭主……あ、アカンと言うんですが」そりゃアカンわ、と呟いたらシャティアにベシッと手刀で叩かれた。親への暴力反対!
「アカンは情に熱い人でして。被害に遭ってる農家のかたは、夫が子供の頃から家族ぐるみで仲良くしている幼馴染のご家族なんです」
「なるほど、それで魔物退治に名乗りを上げたと?」
「ええ。幼馴染が言うには、一緒に畑で魔物を待ち構えていたら、幼馴染が襲われそうになったところを夫が庇ったと」
「じゃあ怪我を?」
「それはわかりません。ただ魔物はとても大きく、夫を口に咥えて走り去って行ったそうです。その時、夫は気絶しているのかピクリとも動かなかったという話です」
「そりゃアカンわ」もっかい言ったら、今度はグーで殴られました。暴力反対!
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