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しおりを挟む私は鬼ではありません。いや本当に。
なのでそっとタオルをビスタさんにお渡ししましたよ。
なのにビスタさんたら放心状態で動かないんですもの。「ほらビスタさん、早く拭かないと風邪引きますよ!」と拭いて差し上げました。「いた、いった!痛いわよ!ちょ、髪が絡まって……いった、引っ張るな!」などと子供のような抵抗されましたけど。ビスタさんは可愛らしいですわねえ。
「はい拭けましたよ。なかなか前衛的な髪形になりましたねえ」
「……もう何も考えない事にするわ」
「それは残念「あ゛?」いえなんでも」
思わず出た本音に本気で睨まれちゃいました。低い声が何とも素敵ですね。
「さて次は何でしたっけ?」
「まだやるの!?」
「たしか~え~っと……」
「ルリアナ様、私、ビスタが階段で突き飛ばされた話を聞きました。勿論目撃者は居ないと思います!」
「ぬええええい!?」
なんですか、ぬええええいって。そんな叫び初めて聞きましたよ。ビスタさんは面白い方ですねえ。
「ビスタさんは良いお友達を持ちましたね!」
「こんなの友達じゃ……」
「で、階段でしたっけ?」
確認の意を込めて言えば、まだ何か言おうと口を開けていたビスタさんはピタッと動きを止めました。そして顔を真っ青にされてます。
「か、階段……いや、あれはその……ええっと、勘違い、だったかな?てへ♪」
「あらあら、語尾に『♪』を付けてしまうくらいに楽しみなんですね。いいでしょう、その期待に応えてみせましょう」
「楽しみでも期待でもないわ!もういいわ!全部もうどうでもいいから!頼むからそれだけは……!」
「うふふふふ~♪」
「ぎゃああああ!悪魔スマイル!!!!」
あら酷い、そんな本当のこと……と、更に笑みを深くしたところで。
「これは一体何事だ!?」
突然の介入者の声で、私もビスタさんも動きを止めるのでした。
その声の主が現れた瞬間。
皆が道を開け、一斉に頭を下げる。
そんな事がされる存在は、この学園では一人しか居ないのです。
そう、我らが王太子──カルシュ様、その人でした。
「ルリアナ!?それにビスタ!一体この騒ぎはなんなのだ!?」
「か、カルシュ様あぁぁぁ!!!!」
血相変えて走り寄って来たカルシュ様。迷わずその胸に飛び込んだのは、ビスタさんでした。
私は静かに王太子に頭を下げる。
「これはカルシュ様、ご機嫌麗しゅう存じます」
「あ、ああ。ルリアナ、一体なにごとなんだ?ビスタの叫びが僕の教室まで届いていたぞ?」
「あらそうですか。いえ、ビスタさんが将来の側室となられる為の協力をしていたまでのこと」
「側室?」
私の言ってる事がよく分からない、そんな風にカルシュ様は首を傾げてしまわれました。
「側室とはなんのことだ?」
「カルシュ様とビスタさんが良い仲だとお聞きしてましたので。将来はビスタさんが側室になられるのかと思ったのです。違うのですか?」
「それは違うぞ」
おや?なんだか雲行きが変ですね。
一度しか見てませんが、カルシュ様とビスタさんはそれはそれは仲良さげでした。完全な恋人同士の雰囲気で。当然お二人は恋仲だと認識しておりましたが。
首を傾げていれば、カルシュ様に抱きついていたビスタさんがますますギュッと力強くカルシュ様に抱きつきます。
「カルシュ様!そうですよね、やっぱりそうですよね!私が側室なんておかしな話ありませんよね!私こそが正室!私こそが王太子妃!私こそが王妃に相応しい!!」
カルシュ様が味方となったと思ったのか。
ビスタさんはとんでもない発言をしてくださいました。
ちょっと……頭にピキッと筋が二本立っちゃいましたよ。
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