私に虐められたと嘘を広めたのは貴女ですか?折角なので真実にしてあげましょう

リオール

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 さ~、ちゃちゃっと進めて参りましょう!
 だんだん楽しくなってきましたよー!

 というわけで、ビスタさんが広めていた噂の内容を思い出す。

「えーっと、次は花瓶の水をかけられた、でしたっけ?」
「ひ──!い、いやいやいやいや!もういいですから!私が悪うございました、もう嘘は言いません!だからもう許して!」
「あらビスタさん、嘘ではありませんよ、真実にするために動いてるのですから。ささ、早く行きましょ行きましょ♪」
「語尾に『♪』が付くとか、この状況を楽しんでない!?」
「楽しんでませんよ~。あなたを正直者にするためにですね、苦しい心を敢えて鬼にして……」
「鬼どころか悪魔スマイルにしか見えないけど!?」

 あら酷い、私の悩殺スマイルを悪魔だなんて。よく見てますね。

 まあでも私の本性が徐々に分かってきたようなので、これ以上はあまり酷い事しちゃ駄目ですね。小さめの花瓶で済ましましょうか。

 と、キョロキョロと小さめの花瓶を探していましたら、「ルリアナ様!ビスタを虐めないでください!」という声がかかりました。

 振り返れば、いつだったか話しかけられた事のあるご令嬢達が、目を吊り上げて立っておられました。

「やっぱり噂は本当だったんですね!いくらカルシュ様が愛してる存在だからって、ビスタを虐めないでください!公爵令嬢として恥ずかしくないんですか!」
「そうですわ!貴女のような方が将来国母になられるなんて、なんと恐ろしい……!」
「身分は低くとも、ビスタの方が美しい心を持ってます!いっそ彼女の方が国母に相応しい……」
「はい?今なんて言いました?」

 最後の台詞は私です。

 あれこれ好き勝手言われてますが、聞き捨てなりませんね。
 特に最後のやつ。
 国母が云々。
 さすがに眉間にピキッと筋が立ちましたよ。

 私はニッコリと微笑みながら……どす黒いオーラを背後に、彼女たちの方を見ました。どうやらそのオーラを感じとったようですね。喉の奥で引きつるような音を立てて、彼女たちは一斉に黙り込みました。

 ご令嬢達に向けて一歩、前に進み出ます。

「誰がなんですって?」
「え?え?」
「誰が国母に相応しいですって?」
「え、いや、その……」

 私の気迫に押されたのか、こぞって真っ青になるご令嬢達。身長は同じくらいなのに、きっと遥か上から見下ろされてる気分なのでしょうね。実際私は見下ろしてます。──必死のつま先立ちなので、ちょっと足がプルプルしてますけどね。あ、つる、つる、足がつる!

 まるで水面下の鴨の足のように彼女達から見えないところで足をプルプルさせ、見下ろしたまま私は言った。

「皆様」
「「「はい!!」」」
「ビスタさんの心が美しいとおっしゃいましたよね?」
「「「はい!!」」」

 その揃った返事に満足げに頷き、私は言葉を続けた。

「そうですね、ビスタさんは心が美しく、嘘などつきません。そういう方こそが、王の側室に相応しいのです。王の心を癒せる存在はそのような方でなくては。逆に国母たる王妃ではその務めは果たせません……残念なことに、それが現実なのです。王の癒しとなるには時間がありません。それほどに王妃とは多忙なのですよ」

 きっとそんな事も知らないのだろう。王妃教育を受けてる私の言葉に、そこでようやくハッとなった。理解していただけましたかね。

「お分かりいただけましたでしょうか。ビスタさんが清い心ならば、側室こそが彼女に相応しい」
「な、なるほど……」
「私は彼女が側室となるのは大歓迎ですよ」
「そ、そうなんですね」
「ですが」

 空気が穏やかになりかけた所で、私は声音を低くして、空気を一変させた。瞬間、怯えたような顔をするご令嬢達。そんな彼女達を見ながらピッと人差し指を立てます。

「ですが、嘘つきでは駄目です。そしてこのままではビスタさんは嘘つきになってしまうのです」
「へ?え、一体それはどういう……」
「皆さんは私がビスタさんに水をかけた場面をご覧になりましたか?」

 戸惑う彼女達に問えば、全員が黙り込んだ。まあそうでしょうね、見た事ある方なんているわけありませんよね。やってませんもの。

「誰も見た事がないのに、その話を彼女は広めてるのです。このままでは彼女は嘘つきになってしまうでしょ?」
「う?え?そ、そうなるんでしょうか?」
「そうなるんですよ!!」

 困惑した彼女達の一人の手を握りしめて私は力説する!

「いいですか、このままではビスタさんは嘘つきです!それでは側室に相応しくない!ですが、解決策はあるのです!」
「そ、その解決策とは!?」
「嘘を真実にしてしまえばいいのです!私が彼女に水をかけるのを皆さんが目撃すれば、ビスタさんは嘘つきにはなりません!!」
「ちょ!ふっざけんじゃないわよ!私がやられたって言ってるんだから、真実なんてどうでも……!」

 令嬢の手を握り叫ぶ私に、慌てたようにビスタさんが割り込んできました。
 ですが私に手を握られてる令嬢も、その他の令嬢も、皆さん顔を赤くして私の言葉にウンウンと頷いています。これはやるべきでしょう!いつやるの?今でしょ!!

「さあビスタさん、やりましょう!手ごろな花瓶を探して……」
「いやちょっとまっ……」
「ルリアナ様ぁ!なかなかに大きな花瓶がありましたあ!!!!」
「ナイスですわあ!!!!」
「いやだからちょっと待っ……!!!!」
「そいやあああああああーーーーー!!!!!」

 あまりに大きいので令嬢達と力を合わせて花瓶を持ち。
 思い切り水を飛ばした結果。

 弧を描いて水は飛び。

 窓から差し込む光が美しい虹を作り出し。

 見事に、ビスタ令嬢へと降り注いだのでした。

「これで真実が増えましたわね!!」
「その笑顔、腹たっつわあぁぁ!!!!」




 
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