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しおりを挟む紫紺の髪を風になびかせ、濃紺の瞳に光を散りばめた美の化身と謳われる程の美女。それがルリアナ公爵令嬢である。
──つまりは私の事なのですが。
私自身はそんなに美人だと思ってないのですが、周囲の評判はそうなのです。私に言わせれば、兄や姉の方がよっぽど美形。私なんかを美の化身などと言わないでほしい、恥ずかしい……。
ですが噂というものは、噂の的となる本人はそっちのけで一人歩きするもの。いちいち気にしていては人生楽しくありません。ですから敢えて気にしない。それが私のモットーです。
いえ。
モットーでした。
そんな私のモットーを、信念を。
あっさり打ち破る事になってしまったのは、17歳の夏のことです。
貴族が通う王立学園にて。
私は毎日勉学に勤しんでおりました。
不本意ではありますが、公爵令嬢として決まってしまった政略結婚の為に。そう、王太子と婚約した時に、私の未来は決まってしまったのですから……嫌でも努力せざるを得ない状況となったのです。その立場に恥じることのないよう、常に学年トップクラスの成績を維持するべく、血のにじむような努力をしました。
ええ、ええ。それはもう、努力しましたよ。
王太子と婚約、それすなわち卒業と同時に結婚して王太子妃となり、ゆくゆくは王妃となる。それは決定事項なのですから。そんな私が恥ずかしい成績をとってしまったらどうなるでしょう。
──正直、王家や王太子の事などどうでもいいのです。
ですが、私には愛する両親兄姉が居ますからね。彼らの顔に泥を塗るような真似は出来ません。
結果、先日の試験でついに私は学年トップに君臨しました。やりました。心の中でガッツポーズです。
ちなみに王太子は下から数えた方が早いです。──それってどうなんでしょうね。
何だか表情だけではなく心の中でもスンッと何か冷める音が聞こえましたが、気にしない事にしておきます。いちいち気にしていては人生楽しくありません。ですから敢えて気にしない。それが私のモットーです。って先ほどと同じこと言ってますね。
とにかく些末な事は気にしないのが人生楽しむ一番の方法なのですよ。
と思っていたのですが。
そうです、私のモットーが崩れる事件が起きたのです。
「──今、なんとおっしゃいましたか?」
いつも通りに図書室へ向かうべく校舎内を歩いていましたら、突然声をかけられました。見ればどこかで見た事あるような無いような……いややっぱり無いな、と思ったどこぞのご令嬢。彼女は自身の名前と伯爵令嬢であることを名乗りました。
学園内では立場を気にせず自由に……とは言われてますが、実際に公爵家の私に伯爵家のご令嬢が話しかけてくるのは初めてでした。
ちょっと新鮮。
と思って感動した直後。
「ル、ルリアナ様、ビスタを虐めるのをやめてください!」
と言われてしまったのです。
はて、それは誰の事でしょう?と首を傾げて考えていたら「いくら王太子様の婚約者とはいえ、愛し合う二人を引き裂くなんてあんまりです!!貴女がどれだけカルシュ様を愛していても、カルシュ様はビスタを愛してるんですから!!」と彼女は続けました。
そこで私の「──今、なんとおっしゃいましたか?」に続くわけです。
「ですから!カルシュ様はビスタを……!!」
「いえ、その前です。前」
非常に聞き捨てならない言葉を聞いた気がします。ちょっと背筋がゾワッとしてしまいました。これが悪寒というものでしょうか。
「え?ええっと……ビスタを虐めるのをやめて……」
「その間ですよ、間!どうして間を抜くのですか?」
ちょっとイラッとなってしまいました。少し声を荒げた事はお詫びしますわ。ですが聞き捨てならないのです、本当に。
「え?ええっと……ええ?なんだっけ?」
どうして自分が言ったことを忘れるのですか?背後のご友人に救いを求めないでください。
私は不快気に眉根を寄せて彼女の代わりに言った。
「私がカルシュ様を愛してるとかどうとか仰ったでしょう?」
カルシュ様とはこの国の第一王子で、私の婚約者です。父の仕事についてよく王城に行ってたがため、時折会って遊んでいた──ただそれだけの理由で婚約させられてしまった、私の婚約相手。
そんな彼を私が愛してるですって?
「え、あ、そこですか?ええ、確かに言いました。カルシュ様を愛しておられるのは分かりますが」
「いや分かってませんでしょ」
「へ?」
なおも言い募ろうとする彼女の言葉を遮って、私はバッサリと切って捨てた。
「私、カルシュ様のこと、愛してませんから」
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