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番外編-恋愛end~ケアミスver.(5)

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 全てがスローに見えた。

 武闘家の拳がケアミスに向かうその動きが。
 ゆっくり見えるそれは達人が到達するというアレか。チート能力皆無だったはずなのだけど、いつの間にそんなものを習得していたのだろうか。

 なんて考えてる間にも私の体は動く。

 ケアミスが武闘家に殴られるとは思えないし、殴られたところで痛くもかゆくもないだろう。

 だが!怒りを買うのはまずい、非常にまずい!

 忘れそうになってるけど、ケアミスは魔王の弟ですから!へたに怒らせて人間界とのイザコザに発展するのは、出来れば避けたい。

 人間が負ける事は無いだろうけど、無傷では済まない。戦争は不幸しか呼ばないんだ!

 なので走る!こんなに早く走れたっけ!?ってくらいに走って。

 私はバッとケアミスの前に躍り出たのだった。

「ダメえ!!!!」

 叫ぶけれど、その拳が止まる事はなかった。いや、驚愕の眼差しから察するに、止める事が出来ないのだろう。

 ギュッと目を瞑って、衝撃を覚悟する。

ドゴオッ!!!!

「ふぎゃお!?」

 人を殴る嫌な音。次いで上がる悲鳴。

 ああ……

 殴られちゃった……。

「うわあ!せ、聖女様!?」

 ──ぶりっ子が。








「ちょ、お前なに聖女様殴ってんだよ!?」
「いやだって急に前に飛び出すんだもんよ!止まれるかっつーの!」
「うわ、白目むいてるぜ。大丈夫かよこれ」

 焦る冒険者諸君。うむ、慌てたまえ慌てたまえ。
 そして帰りたまえ!

 彼らを尻目に私は伸びてるぶりっ子をツンツンしてみた。

「おーい、生きてるかーい?」
「ふ……ぐ……」
「ふぐ?河豚なんてこの世界に無いわよ。つーか生きてるな、よしよし」
「……ふっざけんじゃないわよ!!」

 うわビックリしたあ!気絶してるのかと思ったのに!

「ちょっと急に立ち上がらないでよ、ビックリするじゃない」
「ビックリしたのはこっちだわ!なに人の腕引っ張って自分の前に立たせてんのよ!?ビックリするわ!マジでビックリするわ!」
「いやあ、私が殴られたら即死の危険性あったもんで。聖女なら大丈夫かなあと思って」
「大丈夫ちゃうわ!無いわ、ほんっと無いわ!人を盾にするとかマジ無いわ!」
「自分悪役令嬢なもんで」

 テヘペロ。
 お茶目にウインクしたらホッペを思いっきり引っ張られた。なぜだ。そして痛い。

「あ・ん・た・も!痛い思い!してみやがれ!」
「へひょふひはっはへひょ?」
「何言ってんのか分かんないわよ!」
「ふす」
「今ブスって言ったのはこの口か!?あ!?あ゛!?」

 口が悪くなってますよー聖女様。
 私の頬を引っ張るから何話してるのか分からないんだろ、放せよ、てかブスは分かったのか何でだよ。

「いてて……でも無事だったでしょ?って言ったのよ」

 ようやく解放された頬をさすりつつ聞くと。
 ちょうど自身の傷を治癒してるぶりっ子と目が合った。

「ふん、聖女だからか知らないけど、確かに丈夫になってるのよね、私の体」
「いいねえ、チート」

 私も少しは何かしらの能力欲しかったわあ。

「早く走るくらいなら出来るんじゃない?」
「それチーターな」

 お前はどこのオヤジだ。何歳だ。

 そんな私達の様子を黙って見ていた冒険者の皆さん。まだ居たの?
 なんか呆然としてるな。なんだどうした。

「すげ……一瞬で怪我治った。本当に聖女様なんだ」
「おい信用されてなかったぞ。オーラ無さ過ぎなんじゃない?」
「あんたのせいで私のイメージが悪くなってるだけの気がするんだけど」

 独り言のように言う武闘家君のセリフを、駄目出しと捉えてぶりっ子を振り返れば。
 白い目で見ながら文句言われた。酷い。

 大きく溜め息をついたぶりっ子は、そのまま冒険者達の方を向いてバッと指を指すのだった。

 結界に開いた穴を。

「あんたたち。今の攻撃で分かったけど、実力がてんで伴ってない。無謀にもほどがあるわ、すぐに帰りなさい!」

 最後にビシッと彼らに指を突きつける。
 う、と言葉に詰まる冒険者諸君。さすがに聖女の言葉は重みがあるのだろう。

 互いに目を合わせて、そして大きく嘆息する。

「しゃあねえなあ……聖女様が言うんじゃ」
「そうだな。帰るしかねえかあ」

 おお、素直だねえ。

 良かった、いわゆる外交問題に発展しなくて。本当に良かった!

 そうしてホッと胸を撫で下ろしていたら。

 ガシッと腕を掴まれた。え。

「え?」

 驚きがそのまま声になる。

 なんぞと見やれば、戦士君が私の腕を掴んでいるではないか。

「え、なんでしょ?」
「あんた、人間だろ?ひょっとして攫われてきたのか?」

 まあ確かに誘拐されてますけど。だから何だ?

「俺たちと一緒に行こうぜ。安心しろ、これでもそれなりに名の通った冒険者チームだ。ちゃんと家まで送り届けてやっからよ」
「えええ」

 え、家まで送ってくれるの?いやまあ、帰りたいとか言ってましたけどね?
 何と言いますか、心の準備がですね。

 どう答えたものかと思案していたら。

ゾク……

 寒気。さむけ。
 寒気というか殺気?

 初めて感じるそれは、私の体どころか心までゾッとさせて。

 恐る恐る後ろを振り返った私は。

 おっそろしい顔でコチラを睨むケアミスと目が合い、悲鳴が出そうになるのであった。




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