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第四章 【人狼の少年】
2、
しおりを挟む人狼の少年の年齢を聞いて驚く様子もなく、アルビエンと名乗った男は「僕もキミと大して変わらない年齢さ」と事も無げに言う。聞けばモンドーより数年年下というではないか。
「人狼なのか?」
「違うよ」
「吸血鬼?」
「違う」
「化け物?」
「……うーん、どうだろ」
そこは否定しないのかと思うものの、モンドーは何も言わない。ただ無表情を貫くだけだ。
そんな人狼少年を興味深げに見るアルビエン。──まだ彼は伯爵でもなんでもなく、ただのアルビエンだ。
「僕に興味なさそうだね」
「どうでもいいよ」
どうでもいい、ということに慣れてしまった少年は、本当にどうでもよさげに抑揚のない声で言う。
「僕はキミに興味あるんだけどねえ」
「俺にそういう趣味はない」
人狼の言葉に、アルビエンは一瞬目を見開き、直後笑う。
「あっはっは、そういう意味で言ったんじゃないよ! ……キミは面白いな」
そこで初めて人狼の表情に変化が現れる。驚いたような目をアルビエンに向けたのだ。
「俺が面白いだって?」
そんなこと、言ったやつは初めてだ。言外にそう言って、少年は胡散臭いものを見るような目を向ける。
「ああ、キミは面白い。とてもね。ますます興味がわく」
「物好きなやつだな」
「どうだろう、僕と一緒に旅をしないか?」
「旅を?」
そんなもの、散々してきた。親を失い、ずっと一人であちこちの町を渡り歩いた。一カ所にとどまることのできない、成長しない身で、ありとあらゆる場所を行った。
そんな自分が旅ごときで触手が動くと思っているのか。
そう暗に言うも、アルビエンは気にしない。
「楽しいよ。馬車に乗って船に乗って、あちこちを……それこそ数多の国を行くんだ」
「……ふうん」
モンドーの旅は所詮国の規模でいえば小さな範囲だ。正体がバレなければそれでいいと、巡った国の数で言えば極少数。船に乗って遠い場所へは行ったことがない。
興味がないわけではないが、ここでノルのはしゃくに障ると、敢えてぶっきらぼうにそっぽを向く。
だが男にはそんな少年の複雑な心境もバレている。笑顔をうっすら浮かべる顔を見て、更に少年の顔はムスッと不機嫌そうになった。
「よし、じゃあ決まりだね。行こうか」
「なに勝手に決めてるんだよ」
「楽しみだろ?」
「……知らねえよ」
ぶっきらぼうに言えば、クスクス笑いながらアルビエンは言う。
「いつか父親と再会したら言えばいいよ」
バッと驚きの表情を浮かべてアルビエンを見るモンドーに、彼は言う。
「俺はこんなにも幸せに生きているぞ、と。お前なんかいなくても、俺は幸せだと」
「……俺が幸せになんか……」
「なれるさ。幸せになる権利は、誰もがもっている」
それを証明してあげよう。
そう言って手を差し伸べるアルビエンの手を、今度は迷うことなくモンドーはとる。
「色々と僕のこと助けてくれると嬉しいな」
「やだね」
うそぶく少年にクスクス笑う男。
人狼少年はまだ知らない、この時の彼は何も知らない。
これから何百年ものあいだ、アルビエンと共に行動することを。有能な従者となることを。
まさかドクロを見守る立場になることを、この時の彼はまだ知らない。
そして未だ彼が知ることのない真実。
アルビエン・グロッサム伯爵は一体どこで生まれてどこから来たのかということ。
彼の年齢が、実はモンドーよりもずっとずっと上であることを。
世界の始まりからある命であることを。
この先もモンドーが知ることはない。
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